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コメディーというよりギャグ

徐州燃ゆ 呂布最後の戦い

作者: 水渕成分

この作品は、家紋武範様主催の「三国志企画」参加作品です。


この作品はギャグです。

気温差により体調を崩されぬようご注意ください。

 徐州の完全制圧をもくろむ呂布は州内の小沛(しょうはい)に拠る劉備軍を追い落とし、その野望を達成した。


 しかし、それは失策だったのである。


 逃走した劉備は曹操を頼った。もとより徐州をその手に収めんと考えていた曹操には格好の口実となり、大軍をもって徐州に侵攻してきたのだ。


 呂布の拠る下邳(かひ)の城は曹操・劉備連合軍に十重二十重に包囲され、その命運は風前の灯火と思われた。


 だが、呂布には最後の秘策があった。それは隣国寿春(じゅしゅん)に拠る袁術に援軍を出させ、包囲軍を外部から攻撃させることである。


 但し、呂布と袁術の仲も良好とは言いがたいものがあった。


 そのことを懸念する家臣に呂布は言った。

「案ずるな。わしに考えがある」



 ◇◇◇


「これからわしは大勝負に出る。頼むぞっ! 赤兎馬(せきとば)。力を貸してくれ」

 そんな呂布の言葉に「人中の呂布。馬中の赤兎(せきと)」と呼ばれた名馬赤兎馬(せきとば)は無言のままだった。


 赤兎馬(せきとば)もまた緊張していたのである。


 それが主である呂布の緊張が伝わったのか、それとも、何か別のものに緊張しているのか、それは今は分からなかった。


「行くぞっ!」

 呂布のかけ声の下、夜陰に乗じ、赤兎馬(せきとば)は無言のまま徐州の城門を飛び出した。頑丈な鎖に繋がれた大きな木箱を引きずって。


 この木箱こそが呂布の秘策の肝なのである。


 ◇◇◇


 夜の闇にその身を包まれているうちは、順調にその駒を進められた。


 だが、空が白み始めると、そうもいかなくなった。


 呂布と赤兎馬(せきとば)は目の前を過る数本の矢にその進みを妨げられたのだ。


「むうっ」

 顔をしかめる呂布の前に姿を現したのは曹操軍の一部隊長である。

「これは驚いた。呂布奉先ともあろう者が見たところ単騎でこのようなところにおるとは。どういったことだ?」


「貴様のような者に語る言葉なぞないわっ! 道を開けよ」


「そちらにはなくてもこっちにはある。いかな飛将軍呂布と言えども単騎。しかもその後ろに鎖で繋いである木箱。相当大事なものと見た。このような千載一遇の好機。逃す訳には、いかぬわ」


「ぐうっ」

 呂布はうめいた。敵の数は三、四十と言ったところか。呂布と赤兎馬(せきとば)のみであれば血路を開けない数でもない。しかし、敵も言ったとおり、今は木箱を抱えている。この木箱を捨て置いてはわざわざ単騎で城外に出てきた意味がなくなってしまう。


 思い悩む呂布をよそに、敵兵は容赦なく襲いかかってきた。赤兎馬(せきとば)と共に呂布の代名詞である方天画戟(ほうてんがげき)を振り回し撃退せんとするが、いかんせん数が多い。


 ガキッ


 そうこうしているうちに曹操軍の一兵士が木箱に太刀をたたきつけた。


「馬鹿者っ! よさんかっ! それは……」


 呂布のその言葉に曹操軍の兵士たちは木箱の中身への期待を更に膨らませ、木箱への打撃を繰り返した。そして……


 ◇◇◇


 ピシッ ピシピシピシ


 木箱には中から大きな亀裂が入り、そこから姿を現したものは。


「なっ、なんだ?」

「どういうことだ?」

「呂布がもう一人いるぞ」


 次の瞬間、「呂布がもう一人いる」と言った兵士には強力な気功を伴った拳が撃ち込まれ、遙か彼方に飛ばされていった。


 その様子を呆然と見ていた周りの兵士たちにも百烈脚が炸裂。たちまちに全員がなぎ倒された。


 呂布は大きな溜息を吐いた。

「貴様らあっ! 言うてはならんことを言ってくれたな。わしの娘秋麗(チュウリー)はわしに似ていると言われることを一番嫌うのだよ」


 そんな呂布の言葉などに全く関係なく秋麗(チュウリー)は次々と曹操軍の兵士たちをぶちのめしていく。


秋麗(チュウリー)。そのくらいで勘弁してやってくれないかなあ。君は袁術くんのおぼっちゃんのところにお嫁入りして、援軍を出させるというお仕事があるんだよー」


 ここで秋麗(チュウリー)、初めて呂布の方を振り向き、

「パパ。あたしはそんな面倒くさいこと、やだって言ったでしょ。そしたら、急に大酒飲まされて寝ちゃって、気がつけば木箱の中だし、どうなってんのよ、もうっ」


 それを聞いていた曹操軍の兵士たち。

「何? あれ、呂布の娘―?」

「ごついところそっくり」

「え? 娘じゃなくて息子じゃないの?」


 そして、その言葉が彼らのこの世での最後の発言になった。


 彼らは全て回転的角脚蹴であの世に旅立っていったのである。


 この惨劇を目撃した赤兎馬(せきとば)は思った。いつになく感じられた強い緊張感の正体はこれだったのだと。


 かくて、曹操軍の部隊は一時(いっとき)(二時間)も持たずに全滅したのである。


 ◇◇◇


秋麗(チュウリー)。失礼なこと言った奴らは全員あの世に行ったことだし、ここは袁術くんのおぼっちゃんのところにお嫁入りしてくれないかなあ」


「いや、パパ」

 秋麗(チュウリー)は首を振った。

「あの山に強そうな虎が四頭ほどいる気配がする。ちょっくら行ってバターにしてくる」


「やばいネタのパロディーしか出来ないの? 虎退治なんて他のキャラに任せておけばいいじゃん」


「そうはいかない」

 秋麗(チュウリー)は呂布に背を向けた。

「俺より強い奴に会いに行く」


 呂布はその後ろ姿を呆然としてながめることしか出来なかった。

「あーあ。言っちゃったよ。もう。みなさん苦情はわしにではなく、わしの娘にね」


 ◇◇◇


 かくして、呂布は曹操・劉備連合軍の前に一敗地に塗れ、囚われの身となった。


 処刑される前、「最後に言いたいことはないか?」と問う曹操に呂布はこう言った。


「うちの娘がわしの言うこと聞いてくれていたら、今頃縛り上げられていたのは曹操(おまえ)の方だ」と。




 秋麗(チュウリー)の行方は誰も知らない。



   

 が、洛陽の市でみょ~に美味しいバターを売るごついお姉さんが話題になっていると噂もあったとか、なかったとか。



 おしまい


読んでいただきありがとうございましたm(__)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] 秋麗の強さに惚れ惚れしました(笑) 彼女が呂布の言うことに従っていたら、歴史は変わっていたかもしれませんね。 [一言] 虎でできたバター、どんな味なのか昔から気になっております。
[一言] 袁術くんのおぼっちゃん、がツボです。パパは曹操くんのことは何と呼んでいるのでしょうか。 楽しいお話を書いてくださってありがとうございます。
[良い点] 始めは真面目な導入。で、素直に読み進めました。 最初の注意書きも忘れ、素敵な筆致と言葉運びに浸っていたらばあれよあれよと(笑) 三国志もロクに知らなければゲームも知らない私ですが、秋麗さん…
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