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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

狩り成すとき 

掲載日:2021/12/09

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 よーし、よしよしよし。うまくハマった!

 ふふん、やっぱ勝手知ったるゲームはいいね。対策練ればきっちり結果が出てくれる。

 人をいじめちゃダメならば、機械をいじめるべきだよね、うん。

 最近は新しいゲームも、攻略情報が出回るまで手を出さないよ。効率プレイのためにね。


 ――ゲーマーとして、あまり褒められたもんじゃない姿勢?


 おいおいおいおい、なに子供みたいなこと言っちゃってんの?

 時間も元気も、無限にあるかのように錯覚しちゃっている子供は、試行錯誤もゲームの楽しみのひとつだろうさ。

 でも、いざ大人になって時間も元気も限りあるリソースと気づいちゃった今、ゲームオーバーで、いちいちセーブポイントからやり直しなんて、やってられないのよ。


 ある意味で食事に似ているかも。

 昔はぼりぼり、むしゃむしゃ食べていた脂身が、年取るとしんどくなってくる。食べやすい、口当たりのよいところだけいただいて、ちょっとでも不快な部分はすぐにポイ。

 ユーザーフレンドリーをうたって、僕らオジサンから見たら「ヌルゲー」と切り捨てそうな低難易度も、ここら辺が関わっているのかもね。

 ゲームの低年齢化というより、未熟なゲーム脳、ゲーム胃腸のための介護食。大きくなっても離乳食レベルのぬるい食事ばかりで、ちょっとアクがあったり、歯ごたえがあったりしたら、すぐ食あたり。

 一度楽なことに流れると、そこから抜け出すのは大変だね、こりゃ。


 そして、ゲームは何も現代の発明品じゃない。

 古くより娯楽から鍛錬まで、「遊び」とその攻略法は数あった。

 けれども、相手は自然や人間。機械とは違う「なま」の手合いだ。ときに奇妙なイレギュラーを起こすこともあったらしい。

 そのうちのひとつなんだけど、聞いてみないかい?



 むかしむかし。とある領地の殿様が、鷹狩りに興じていた。

 ややもすると、飼い主ひとりと鷹いっぴきで、獲物を捕らえて楽しむ、とも考えられがち。

 しかし実際には多くの犬や家来を引き連れた、大掛かりな行事となる。鷹も獲物を狩って、そのまま主のもとへ戻ってくるなど、器用な真似はできないから、自分たちでその現場へ向かって回収しなければならなかった。

 それでも、鷹狩は戦の実地訓練として優れている。大人数がつどうということは、その分、大軍での動きを意識しなくてはならない。

 狩りを通じて、各々の隊が持つ役割、ほどこす手順、仕掛ける時機などをはかるうち、連携の取り方が学べるということだ。

 そうしてとどめに放たれる鷹が仕留める獲物こそ、狩りの成功を示す何よりの証だったという。


 その時期は、川の水もすっかり冷たくなった年の暮れ。

 領内の一角にある森林地帯。すでに部隊の分けも完了し、手始めに犬たちが放たれる。

 こいつらに追い立てられて、森の中から飛び出してきたキジやウサギを、追い込み要員である勢子せこたちが、より狩りやすい場へと、いざなっていく寸法だった。

 ところが、犬たちがなかなか帰ってこない。

 獲物がおらず、奥へ奥へ入り込み続けてしまったことは、今までにもなくはなかった。

 しかし今回は、さほど離れていないあたりから、犬たちの鳴き声がひっきりなしに聞こえてくる。


 勇んで威嚇するような調子じゃない。

 逆におびえて、追い詰められているかのような悲鳴。勢子たちが顔を見合わせていると、ようやく放した一匹が、木立の中から姿を見せる。

 自分を育ててくれた主の前さえ素通りし、ひたすら逃げ出していくほどの、犬の様子。一同は尋常ならざる気配を感じる。

 よもや熊でも現れたのかと、勢子たちは非常用の武器である、火縄銃の用意をする。

 いつでも撃てるような姿勢を整え、彼らは声のみ届かせ、いまだ帰ってこない犬たちを追って、森の中へと分け入っていった。



 樹冠にところどころ遮られ、昼でも薄暗い森の中。

 固まって動いていた勢子たちは、まだ聞こえる声を頼りに、音の出どころへ。追い立てに慣れていたこともあり、ほどなく一匹の犬のもとへたどり着いていた。

 犬は、一本の大樹の枝に乗っかっていた。虚空を仰ぎ、短い悲鳴をあげ続ける犬は、いっこうに降りてくる気配がない。勢子たちがいくら呼び掛けても、聞こえている様子もない。


 持ってきた槍の先もぎりぎり届かない、絶妙な高さ。

「こうなれば自分が下ろしてくる」と、樹に飛びつかんとする勢子。

 あることに気づき、樹へ登ろうとする者を押しとどめようとする勢子。

 この二人の動きは、ほぼ同時だった。



 樹に登ろうとした勢子は、抱き込むように幹へ触れ、そのまま動けなくなってしまう。

 まるで深い沼を相手しているかのように、彼の両手両足、それぞれの肩と股の付け根までが、黄土色の幹の中へずぶりと、のめり込んでしまったんだ。

 浮き出ているのは背中だけ。顔の前面も埋まってしまった彼は、くぐもったうめきを挙げるばかり。そのうなじは、緩むのとこわばるのを繰り返し、彼の抵抗を物語る。


 止めようとした勢子たちは、枝に乗る犬の両足と尾が、すっかり枝の中へ埋まっているのに気がついたんだ。触れればその二の舞になるだろうことも。

 背後で、別の勢子の叫び声が上がる。

 皆が戦慣れしているゆえ、すぐに気づける骨折の音。いち早く振り返れた者は、その勢子が背後の樹から生える一本の枝に、首筋を殴りつけられたのだと分かった。

 すでに、彼は声を発することはできない。変な方向に折れた首からは、かすかな息が漏れるばかり。もはや助かるまい。

 

 残りの勢子は、周囲を見回す。

 先ほど自分たちが来た道は、すでに寄り添う木立たちに隠されていた。他のすき間も同じで、がっちり肩を組んだ木の幹たちが、自分たちを囲い込んでいる。

 小刻みに揺れながら、それぞれの樹が指のように、勢子たちへ伸びていく。その膂力を目の当たりにした勢子たちは、それぞれの刃物で次々と枝を払い出した。

 際限なく迫ってくる枝。ラチがあかないと、勢子のひとりは枝を打った勢いに任せ、そのまま幹へ斬りかかった。

 だが、その樹皮を裂くことすらかなわず。切っ先ごと、あの沼のような幹に取り込まれ、身動きできなくなってしまったんだ。

 その瞬間に、周囲の枝が一気に突き出され、ハチの巣と化した彼はその場に倒れ込んでしまう。

 

 ついに持ってきた火縄銃の一丁も、火を噴く。

 幹も砕けよとばかりに飛び出した鉛玉だったが、それもまた幹に隠れてしまう。それどころか、鎧が弾丸をはじくような音が生まれ、何度もなり始める。しかも間隔を早めながら、増していくんだ。


「伏せろ!」


 察した勢子のひとりの警告より早く、射手の頭には小さな穴が開いた。遅れて流れ出た血を拭うこともせず、固まったまま彼はうつ伏せに倒れてしまう。



 ――きゃつらめ。我らの手の内を知っている……!


 ごくりと息を呑む、残りの勢子たち。

 この森は、殿様が好んで使う狩場のひとつ。この木々も、はたから狩りを見ていて、自分たちが扱う得物の性能を知ったのだろう。

 そうして「狩れる」と踏んだからこそ、自分たちを呼び込んだ。こちらの狩りの先鋒たる犬をダシに、ここまでおびき寄せて。


 ――今度は自分たちが狩られるか。


 口に出さずとも不安げな表情を浮かべ出す勢子たちの中、ひとりが火縄銃を持つ者たちに尋ねる。

「火縄の火は点けられるか?」と。



 枝たちの攻勢をしのぎながら、どうにか煙を吐き始めた火縄を手に取るや、もう片手に握った小瓶の中身を、包囲を狭める木々たちへ振りまいた。

 口薬くちぐすり。火縄銃の火皿へ置く、発火用の火薬だ。彼はそれを存分に迫る幹たちへかけるや、火縄をそれらへ向けて放り投げたんだ。



 森の外からも、はっきり聞こえる音。そして幾本もの木々の弾け。

 何事かと皆が顔を向けると、やがて入り込んだ勢子たちが、這う這うの体で、森から姿を見せる。

 彼らはこれまで見た話をし、口薬の爆発とともにひるんだ木々の間を縫って、ここまで逃げてきたのだとか。


「刃も火縄も知っていても、火薬のことは知らなかったようじゃな。だがそれも知られた。できうるならば狩りの場所、移した方がよい」


 生き残った勢子たちの案はれられ、それ以降、鷹狩の場所はは領内の各所で持ち回りとなったとか。

 


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