20. リュバーヴァの気持ち
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「※」が付いている言葉を後書きでは説明しました。
その日、家に帰った優奈は表情でさえ読めない虚ろな顔をしていた。彼女はうつむいたまま部屋に入ってから丸一日閉じこもっていた。リュバーヴァは何度も声をかけ、説明を聞こうとしていたが、すっかり無視されていた。
そしたらリュバーヴァは自分で作ったりんごジャムのパイと元気つけるための薬草の湯を持って来て、部屋のドアの前に置いたが、優奈はそれを口にしなかった。
仕方がなく友達をほって置き、リュバーヴァはテレポートを使って、分岐点に移動した。心配のあまり、意識が朦朧とした状態で何とか勤務を終えた。だが家に帰る前に、また傷を負ってしまった兄が呪医室を訪れたが、術医師も医者もいなかったため、リュバーヴァはそれの手当てをする他なかった。
その時、彼女はクリムに相談したが、彼は「その気になったら、自分で説明するだろう」と言っただけだった。
確かに、数日間が経つと、優奈はリュバーヴァとクリムのところに来て、腫れて赤くなった目を逸らしながら森に起きたことを淡々と語ってくれた。
リュバーヴァは驚いたと言ったらない。仰天していて、同時に矛盾している気持ちを覚えた。あんなことを目論んだ魔法の泉に叩きたくなった一方、優奈は元の世界に帰らないことが、少し嬉しかった。それと友達の力になれないことで自分の無力を理解した。
彼女はいつも無力だった。一般的な女子が上手にこなしている料理、掃除や動物の世話といった仕事を上手くこなせなかったし、友達だってできなかった。だから優奈という唯一の友達の力になりたいと思っていた。まあ、いつも迷惑ばかりかけて、重荷にしかなっていないことがわかっていた。それに兄のように超能力も持っていないし、優奈のように魔法も使えない。
──そんな自分が嫌だ。
そんな気持ちを抱いていたリュバーヴァはうつむいて町をぶらぶら歩いていた。家事をサボったせいで、また母に叱られるだろうが、どうでもいい。
「リュバーヴァ」
突然、誰かに呼びかけられた。
見上げると、父の汚れているエプロンが目に付く。
「お父さん?」
「一緒に来い」
お父さんは言い、リュバーヴァを引っ張って鍛冶場に連れた。
「どうしたの?」
イワンは暗い建物に入って窓開けると、部屋中に埃が舞い上がった。父の道具がぎっしり詰まっているこの部屋を貫き、二人は暗い物置に入った。そこには鍛えた農作用の道具や、様々な形の剣や、蹄鉄などが保管されていた。リュバーヴァ興味津々で薄暗い部屋を見回した。
「どうしてここに?」
部屋から目を離さず、父に聞いた。
「ここに座りな」
彼が言って、キーキーと軋む木製の椅子を指した。
リュバーヴァは従って、腰を下ろした。
「最近お前がずっと悩んでるように見える」
突然彼が言い出だした。
「どうしたのか?」
「お父さん」
リュバーヴァは父を涙ぐんだ目で見入った。
「自分の無力さはもう嫌だ。優奈は魔法を使えて、クリムは力持ちでコネがある。私だけは何も持ってないのよ」
リュバーヴァは泣き出した。その涙と共に仕事で常に感じる疲れと、母と緊迫した関係になってしまったことへの詫び、優奈の力になれないことへの恥を流し出した。
「どうして自分は無力だと思うかね?」
「私には能力がないから!」
少女はしゃっくりしながら叫んだ。
イワンは娘の肩に自分のずっしりした手を置いた。
「戦うことは、常に前線にいることだけではない。安全なところにいながらも、人を支えるのも立派な戦いだ」
「どうやって?」
「あなたは俺が知ってる誰よりも薬草に詳しいじゃないか?」
イワンは優しく微笑んで、娘の頬を撫でた。
「それに草の中にも魔法の草※はあるじゃないか?人を眠らせるものから、悪霊を殺すものまで、いろんな種類の草はあるぜ」
リュバーヴァは跳ね上がって、眼を輝かせて、ギュッと父を抱きしめた。
「そうだった!ありがとう、お父さん!」
「君は行きたい道を行けばいいさ。人の目なんか気にしなくていい。君は世界にたった一人の、俺の娘だから」
イワンは優しく娘を赤毛の頭を撫でた。
1.東スラヴ人は薬草の魔法の力を信じていた。その中で最も知られているのは以下の草です。
Плакун-трава。悪霊や鬼を従えられる草です。古い言い伝えによると、この草を見た悪霊たちは泣き出すそうです。
Нечуй-ветер。嵐を取り押さえられる魔法の草です。盲目の人しか探せないと言われていました。
Разрыв-трава。どんな鍵でも、どんなバリアでも壊せる魔法の草です。この草を魔法使いか、蛇や亀といった動物した目にできなかったという。