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1人目の女


 僕がこれまで出会い、そして通過していった女性たちとの思い出をここにグダグダと綴ろうと思う。どんな形であれ彼女達が今の僕を形作ったのだから、どれも貴重な体験だったと今になって思う。故にここに記すことで思い出を整理して葬るとしよう。



一人目の女


 僕は高一の時から予備校に通わされていた。高二になると本格的に受験勉強を始めようという多数の生徒が入塾してきた。彼女はその中の1人だった。大塚愛にほんのり似ている彼女のことを以降はアイと呼ぶことにする。最近で言えばコスプレイヤーのクルミが激似なのだがそれはあくまで僕の見解だし余談だし敢えて言う必要もなかったかもしれない。アイは小柄で茶髪のギャル寄りの女の子だった。僕と出会う前に年上の彼氏がいたアイは、恋愛の上でやや上から目線で僕と接していた気がする。異性のことをまるで知らなかった僕にとって、アイは恋愛学の先生みたいな存在だった。そしてアイは極度の恋愛体質だった。


 知り合った高二の夏頃、僕たちは交際を始めた。きっかけの詳細は忘れたが、僕から猛アプローチしたのは覚えている。元来ストーカーの素質に秀でた僕はあの手この手の思春期特有のキモいやり方で彼女の関心を惹こうと躍起になった。そのねっとりとした根気に負けた形で彼女がOKしたのは身の危険を感じた彼女の防衛本能だったのかもしれない。そんな感じで付き合いだした。


 その頃の僕と言えば情けないほど金欠で、まあ彼女も親から小遣いを貰っているわけだが、とにかく極貧の僕に金銭感覚を合わせる格好で、デートといえば専ら漫画喫茶マンボーが選ばれた。ペアシートで映画を観たり、スナック菓子を食べつつ談笑したり、時には良い雰囲気になることもあった。あわやここで初体験か?という瞬間を迎えるも、コンドームの使い方を教わらなかった僕は開封後即座にゴムをビロ~ンと展開してしまったごため使い物にならなくなり作戦は失敗、性欲は撤退を余儀なくされた。童貞の僕に対して経験者のアイは聖母のように優しかった。そんな彼女の優しさは僕のプライドを深く傷つけたが、そんなことより恥ずかしさが圧勝したのでそこは愛想笑いで誤魔化した。そもそも漫喫で何やってるんだという常識的なツッコミはこの際どうでも良いのだ。それが青春なのだから。


 時代はプリクラ全盛期。渋谷で彼女とのプリクラさつという人生初のハートフルイベントを経験すると、獲得したプリクラをお守りのように財布に忍ばせ懐で温めた。そんなホカホカのプリクラをふと家族に自慢した時のこと。父と妹は可愛い彼女だねえと褒めちぎった。『可愛い』も『彼女』も誰かから言って欲しかった待望のワードだったので僕は調子に乗った。しかし母は違った。「あらそんなに可愛くないわねえ」と言い捨てた母にマジギレする僕、本当のことでしょと開き直る母、余計に怒る僕、そしてあれ?実はそんなに可愛くないのか?と微妙な気持ちになる僕。もちろんちゃんと可愛かったと思うし、アイにとっては失礼極まりない話である。今にして思えば母性からくる嫉妬的な感情だったのかもしれない。


 これは喧嘩というか腑に落ちない話。ある日僕が友達と遊んでいると、アイから電話がかかってきた。急いで出たが、彼女はしばらく無言だった。間違い電話かと思い切ろうとしたがそうではない可能性も考慮して一応「どうしたの?」と訊いてみても彼女は何も答えなかった。正直意味が分からない僕が「もう切るよ」と言うと、彼女が「なんで分からないの?あたし泣いてるんだよ?彼氏なら何も言わなくてもわかるはずだよ?」とのこと。よくよく耳を澄ましてみれば、啜り泣くような声が聞こえる。泣いてたんかいと思うと同時に、そんな漫画みたいな以心伝心無理に決まってるだろとも思ってしまった。僕なりに理由を考えいくつか予想を立ててみたが全てハズレ、結局彼女の心を満足させることは叶わず向こうから一方的に電話は切られた。ちなみにこの時彼女が泣いていた理由は今尚判明していない。僕はせっかく遊んでたのに気分を害されるわ、彼女にちょっと申し訳ないなという罪悪感が残るわ、しかも答えはお預けでモヤモヤするわで散々な日になってしまった。今でもこの時の攻略法は分からずじまいである。女心という言葉を呪った最初の日だった。


 冬、アイと遊園地デートをした。ひとしきりアトラクションを楽しんだ後、テラス席でお喋りをしていると、アイが急に暗い顔になってしまった。ええっ!?なんかしたっけ?という疑問と、出たよめんどくせえ女心のやつだこれ!という直感が脳内で弾けた。デートは順調そのものだったし、今日はいつもより少し多めにお金を持ってきた(親にねだった)甲斐あってほぼ全て支払いも僕が済ませているし、彼氏としてのリード役も悪くなかったはずだ。数分後、その理由は考えるだけ無駄だったと思い知ることになる。彼女は涙ながらにこう訴えた。「元彼のことが忘れられないの」と。冷静に考えたらすぐさまテーブル越しに顔面をブン殴ってもいいくらいの案件だったが、その時の僕と言えばそれはもうしおらしい態度で、心では何言ってんだこの女は?頭おかしいんか?と思いつつもグッと感情を押し殺し、極めて紳士的にその問題に取り組んだ。「そうかい、ならその元彼がどんな人だったのか聞かせてごらん?」みたいな自分に酔い倒したセリフを恥ずかしげもなく吐き、聞きたくもない元彼との秘話を寒空の下延々と聞かされ、身も心も凍えることになった。話は聞いてるようであまり聞いていなかった。というより極寒の中でする話ではないし、人の往来も気になるし、遊園地のど真ん中のテラス席で彼女を泣かすDV彼氏として見られてる気がしてならないし、話を聞いたところで共感なんかできるわけないし、心の底から興味の無い話題だったからそれは仕方ないでしょう。結論から言えば、アイはまだ元彼にちょっと未練があるよってだけの話だったが、それを一つのジョークも挟むことなく遠回りに次ぐ遠回りを重ねて、限りなく自分が悪くないという風潮に持っていこうと必死な彼女の姿は滑稽でしかなかった。まるで悲劇のヒロインにでもなったつもりなのか、最後には泣きながら微笑むという有り様だった。へへっ、じゃねえよと思った。僕は吐きかけたがなんとか堪えて彼女をそっと抱きしめた。エモさとキモさの濁流に溺れかけた。しかもあろうことか僕は腕の中の彼女に「本当にまだ好きなら彼のところに行ってみなよ。もしダメならまた戻ってくればいい。俺ずっと待ってるからさ」みたいな福士蒼汰くんも言わなそうな激臭のセリフを吐き、彼女はマジで彼の元へ行ったそうな。そしてなんなく戻ってきたそうな。書き起こして分かる青春の怖さよ。


 そんなアイとの恋にも終わりが来る。あれは雨の日のバレンタインのこと。予備校の近くの駐車場に彼女を呼び出し、なけなしの小遣いで買った安いブランドのだせえネックレスをサプライズプレゼントした。サプライズもちゃんとしたプレゼントも初めてだったので、贈る側の僕の方が舞い上がっていたと思う。彼女はそれを手に取ると、困ったような笑顔で「ありがとう。でもこれは貰えないや。別れようと思って。」と言いネックレスを戻してきた。だいぶ早めのエイプリルフールかな?と現実逃避しかけたが、もう既に「さよなら」の「さ」の口をしている彼女を見て、マジのやつだと思い直した。なんか色々と言われた気もするし、悲しい別れにはしたくないから笑ってようねみたいなテンションだったと思うが、要約すれば金欠の僕とは今後やってけねえというリストラ通告だった。ビックリしすぎて何も言い返せなかった。この世に金欠だから終わる青春なんてあるのか?と天に向かって問うてみた。返事はまだない。とにかく極貧を理由に僕の最初の恋愛は幕を閉じた。雨の中、傘も刺さずにずぶ濡れになったのは厨二病特有のそれが理由だ。濡れてから激しく後悔した。


 後日談というかフラれた1時間後の話だが、その日も当たり前のように予備校の講義があり、僕もアイも同じ講義を受ける予定だった。普通ならそこまでコケにされれば悔しくて即帰宅だろうが、前向きで粘着質な僕はびしょびしょの状態で颯爽と講義室に現れた。それはアイが気に病まないように普段通りの感じで接しようとかそんな殊勝な想いから出た行動ではなく、あんな事があっても健気に授業に出てくる僕を見てあわよくば寄りを戻そうと言ってこないかなという淡い期待と、なんでびしょ濡れなのとみんなからの質問待ちの構ってちゃん気質の悪いところがちょうど気持ち悪くブレンドされただけだった。厨二病ここに極まれりたいった佇まいで座る僕の元に寄ってくる者はいなかったのが本当のオチで、思い出すたびに赤面してしまう黒歴史である。


誰かの目に留まりますように。

僕の実体験に基づく話なので読んでて不愉快な思いをされたかもしれません。申し訳ありません。

読んでくださった方、ありがとうございました!

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