2年前のあの日。
夢を見ていた。
あの日の夢だ。
あれは確か2年前の秋。
「母さんが倒れた。」
父からそう連絡がきて、
すぐに妹と共に病院へと向かった。
病院に着くと父から事情を聞いた。
母さんは極度のストレスにより
鬱病になったらしい。
原因は近所の人から嫌がらせだ。
母さんはできた人だ。
僕たちにはそんな事
これっぽっちも悟らせなかった...
気づいてあげられなかった...
後悔と怒りが頭の中を駆け巡った。
僕は長男だ。
妹の前で弱音を吐くわけにはいかない。
後悔も怒りも心の中に閉まった。
母さんが倒れてから3日後
病院の休憩室から外を眺めていると
「すみませーん!拾ってくださーい!」
後ろから100円と共に女性の声が飛んできた。
流石に僕の足元にある100円を拾わないのは
可哀想だと思い渋々100円を拾って渡した。
すると女性は屈託のない笑みで
「ありがとうございます‼︎」と言った。
僕は会釈だけしてまた外を眺めよー
としていると
女性は
「何か飲みますか?」と言ったが
僕は無視をした。
が、女性はカフェオレをぼくの頬に当て
「どーぞ!」
とまたあの笑みで言った。
いらないと言って断る方
がめんどくさそーなので
僕はブラックの方が好きだが飲んだ。
普段なら甘すぎて飲めたものではないが
飲んだ途端、涙が溢れてきた。
女性は少し驚いた様子だったが
「少年、名前は?」
「私は小野寺結衣。高校1年!いわゆるFJKよ!」
と自慢気に言った。
少しして、涙が止まると
「僕は長浜洋。中2です。」
と仕方なく自己紹介をした。
「洋くんかー よろしくね!」
「あ、はい」
かなりの温度差があったが
これは決して僕がコミュ障だからではなく
1人にして欲しかったのでわざと
冷たくあしらっただけだ。
決して僕がコミュ障だからではない‼︎
決してだ‼︎
とわいえ、これだけ冷たくあしらったのだ
流石にこの能天気女でも少しは
傷ついてこの場から去るだろう。
と思った僕が馬鹿だった。
この女、僕がずっと無視してるにも
かかわらずずっと話しかけてくる。
止むを得ず僕も応答した。
「小野寺さんは一体何者なんですか?」
「え? だーかーらーFJKよ!」
「いや、そうじゃなくて...なんで見ず知らずの僕にそんなに構うんですか?」
少しの沈黙の後に小野寺さんは
「ここの所ずっと少年が浮かない顔で病院をさまよっていたからお姉さんが元気を出してあげよーと思っただけよ!」
「なにせ、私は哲学者ですから‼︎」
一体、その善意と哲学者ということに
なんの因果があるのかはわからないが
僕は小野寺さんに母さんの事を話した。
すると
小野寺さんは
「洋くん思いつめてるでしょ?」
「お姉さんに任せて!聞いてあげる!」
そう言って後ろから抱きしめてきた。
振り払おうとしたが
涙がまた溢れてきてそれどころではなかった。
「どうして母さんのように人のために努力ができる善人が他人から搾取することしかできないゴミ人間の犠牲にならなくちゃいけないんだ!!どうして...どうしてそんな奴らばかり好い目を見るんだ!!どうしてこんなにも社会は腐っているんだ!!」
と声を荒げて言った、
涙と共に心に閉まっていたはずの
後悔と怒りも溢れてきてしまった。
こんな言葉を言ったんだ。
きっと小野寺さんもー僕を軽蔑しただろうと思っていると
「辛かったですね。でも私が受け止めてあげますよ。その吐き場所のない怒りを。」
「私が癒してあげますよ。そのボロボロの心も。」
そう優しく言った。
また涙が溢れてきた。
「洋はどういう社会であってほしいですか?
洋くんは何のために生きてますか?」
少し考えてたが良い答えが出てこなかったので「わかりません。」と答えた。
「では平等とはなんだと思いますか?」
また答えあぐねていると
「私はね、平等と言うのはそれぞれが正しく評価されることだと思うの」
「よく平等を全員が同じ富を得て、全員が同じ権力を持つ事だと思う人がいる。決して間違いではないと思うけれどそれでは頑張った人や優しい人が損をしてしまうと思うの」
正しく評価されるか…
僕は心の中で呟き
「じゃー今の社会は平等だと思いますか?」
と質問した。
「ある哲学者のイデアの考え方に近いけど
この世に完全や完璧ってないと思うの」
「りんごだってそー。色や形、傷や甘さ1つだって同じ物はないの。それぞれに長所があって短所がある。だから完璧はないと思うの」
「そーですか。」
少し答えをにごされた気がして無愛想な返事をしてしまった。
「じゃあまたね‼︎」
と言って小野寺さんは急にどこかへ行った。
次の日も僕は病院の休憩室で外を眺めていると、
「やー少年!調子はどうかね?」
と謎の口調で小野寺さんが声をかけてきた
「普通ですけど」と答えると
小野寺さんは僕の手を引っ張って屋上へと
連れ行った。
屋上につくと、しーんとした空気が流れた。
僕はその空気に耐えられず
「冷えるんで戻って良いですか?」
と言った。
少し間があって
「洋くんは夢ある?」
「ないです...小野寺さんはあるんですか?」
と言うと小野寺さんは僕の頬をつねってすこしむくれた。
「洋くん!私を小野寺さんと呼ぶのはやめなさい!」
「なんでです?」
「私だけ洋くんって呼んでそっちは小野寺さんだと不平等でしょ‼︎」
「平等とはそれぞれが正しく評価されることじゃなかったんです?」
「それとこれとは別です!」
「もーお姉さん怒りました!私のことは先輩って呼びなさい!」
「なんでですか?まー別にいいですけど」
「よろしい。」といって自慢気に手を組んだ
またすこし間があって
「で、先輩は夢あるんですか?」
と聞くと
「ありますとも!では発表します!」
先輩は自分で下手くそなドラムロールを奏でて「ヒーローです!」と大々的に発表した。
思わず僕は
「え!?ヒーロー」とすこし馬鹿にしたように言ってしまった。
「あーー馬鹿にしたなー!」
「はい少し」
「そこは嘘でも否定しなさい!」
「お断りします。」
「まー良いです。私はね、困ってる人、落ち込んでる人、悩んでる人、そんな人たちの助けになりたんです。そんな人たちの心の支えになりたいんです。そんなカッコいいヒーローになりたいんです。」
「私たちは特段意味を持たず生まれてきたのだと思います。だけどね、私たちはそこに意味を付け加える事ができます。だって私たちは考える葦なのだから、ね?」
「そして私は私の人生に意味を付け加えることができました。
『誰かを助けられるヒーローになるため』と」
僕はなんで生まれてきたのだろう
本当に生まれてくる必要があったのだろうか
母さんが倒れてそんな事ばかり考え、
自暴自棄になっていた。
自分の存在が本当は不必要なのでないかと。
けど、先輩の話を聞いてるうちに
少しずつではあるが心が晴れていっているのが分かった。
僕はまだ意味を付け加えられてないだけなんだ。
そー思えたから