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四話 魔人、実力を少し見せる

 話が決まれば、早速行動に移る。

 バリー達が地下から出ると、そこは廃墟とした教会だった。どうやら、さっきの場所は教会の地下だったらしい。


(教会の地下で魔人を呼ぶって……場違いにも程があるだろ)


 そんなツッコミも、カタリナには通用しないのだろう。恐らく、そんな常識すら、彼女には通用しない。指摘したところで、「別に廃墟だからいいと思って」なんて答えが返ってくるだけだろう。彼女と一緒にいたセシルには本当に同情するばかりだ。

 教会の外は、森になっており、バリーは久しぶりの太陽を拝みながら、


「さて……早速呼ぶか」


 言うと同時、バリーは口笛を吹いた。すると、しばらくして、何もないところから、唐突に猫らしきものが出現し、バリーの元へとやってきた。


「この子は……?」

「使い魔の猫、マックだ。こいつにオマエの幼馴染を探してもらう」

「猫って……その割にはかなり太っているように見えるけど……」


 その言葉が聞こえたのか、マックの首が九十度曲がり、その鋭い眼光がカタリナに向けられる。


「ひっ……!?」

「おいこら。そういうこと言うな。繊細な奴なんだから。それより、カタリナ。オマエ、セシルからもらったプレゼントとか持ってないか?」

「えっと、それなら、プレゼントで貰ったペンダントがあるけど」

「よし。なら、そいつをマックに嗅がせろ」


 言われて、カタリナはペンダントと取り出す。マックはそれに一瞬鼻を近づけると、すぐさま歩き出していった。


「こ、こんなので探せるの?」

「マックの探索能力を舐めるなよ。アイツに探し物をさせたら、右に出る者は誰もいない。たとえ、相手が大陸の果てにいようとも、必ず見つけ出す奴だからな」

「ふーん……ねぇ。他にも使い魔って持ってるの?」

「ああ。とはいえ、今のオレは魔人の力が弱まってるから、そこまで呼べないがな」


 本来の力があれば、そもそも使い魔の力に頼ることなく、自分でどうにかしている。それこそ、一瞬で居場所を突き止め、一瞬でその場所に転移することだってできるのだ。

 しかし、そうできないのが現状であり、辛いところである。

 などと考えていると。


「そういえばさ。そもそも、魔人って何なの?」


 素っ頓狂にも程がある問いかけに、思わず、バリーはその場に倒れた。


「―――おい。まさか、そんなことも知らないで、オレを呼び出したってのか」

「そうよ」

「即答かよ!! いや、ちょっと待て。オレを呼び出したってことは、オマエ、魔本持ってんだろ?」

「魔本……? ああ、これ?」


 取り出したのは、薄い黒い本。中身は十数ページ程しかない、小さな本だ。それこそが、魔本であり、バリーを呼び出す呪文やら方法が書かれてある代物だった。


「前に、何でも叶えてくれる魔人を呼び出す本ってことで骨董屋の人に貰ったモノだけど……」

「これは昔、オレが書いた魔本だ。こいつに、オレの呼び出し方を書いてある。そして、だ。最初の項目にちゃんと魔人とは何なのか、という説明を書いてあるんだが……」

「ああー……うん。ごめん。そこら辺、ちゃんと読んでない」

「よし、そこに座れ。取り敢えず、一発ゲンコツさせろ」


 他人の危機管理能力が無さすぎることに、こんなに苛立ちを覚えたのはいつ以来だろうか。

 多くの人間と契約を交わしてきたが、この手の馬鹿は、本当に頭が痛くなる。


「……まぁいい。取り敢えず、魔人っていうのは、物凄い強い人間って思っておけばいい」

「え、何それ。すっごく雑じゃない?」

「オマエ相手に一から説明するのは面倒臭いと判断した結果だ。んでもって、物凄く強いオレは、昔、ある天使に誰もいない世界に封印された。人間の願いを千個叶えなければ、解放されないっていう仕掛けが施された封印がな」

「? ちょっと待って。その世界には、誰もいなのよね? だったら、そんなの解けないじゃない」

「そう。あのクソ天使は矛盾の封印をしていきやがった。誰もいない世界で千もの人間の願いを叶えることはできない。つまり、絶対に解けない封印だ。全く、天使のくせに悪趣味な奴だったよ」


 天使と聞こえはいいものだが、本人は質の悪い詐欺師のようなものだ。それでいて、実力があるから手に負えず、結果バリーは封印されてしまったのだ。


「とはいえ、だ。そこで諦めるようなオレじゃあない。確かにオレの力じゃ世界から出ることはできない。が、他人の力を借りれば、話は別。一時的だが、弱体化した状態で世界から出ることが可能になる」

「じゃあこの魔本は、そのためのもの?」

「そうだ。オレ自身じゃなく、オレが作り出したモノなら別の世界に転送することが可能だったからな。だから、魔人であるオレを召喚する方法を書いた魔本を作り、それをこの世界に送ったってわけだ」


 魔本には、どんな願いでも叶える魔人を呼び出す方法、と書かれている。本来ならば、そんな夢物語など信じる者は誰もいない。だが、人というのは不思議な生き物。必死になり、後が無くなった人間程、そういう夢物語に縋る者は多い。

 そして、バリーはそんな者達の願いを叶えてきたのだ。


「……あのさ。私がいうのも何なんだけど、自分が弱体化してるって言っちゃっていいの?」

「別に問題はないだろ。少なくとも、アレしろコレしろと言われる前にちゃんと事前情報を伝えとかないといけないからな。一応、今のオマエはオレの雇い主ってわけだし」


 業腹ではあるが、しかし事実だ。今のバリーとカタリナは契約関係にあり、雇う側と雇われる側だ。ならば、契約が果たされるために、きちんとした情報を渡しておくのは当然だろう。


「そっか……あと、さ。そのー……こういうのって、対価がいるじゃない? だから、その……もしかして、私の願いが叶ったら、魂とか取られるの?」

「その質問がここで出る時点で、オマエのどうしようもなさが伺えるな」


 こんな常識外の契約するのだから、それ相応の代償があると考えるのが普通である。が、それを今、ここで確認してくるというのは如何なものなのだろうか。

 とはいえ、それに答えるのも契約の範疇内ではあるのだが。


「何も取りゃしねぇよ。願いを叶えることが、オレの目的だからな。それこそ、悪魔じゃあるまいし、人の願いを叶えて魂やら血肉をもらう趣味はねぇよ。ただ、オレは願いを叶えて自由になりたい。それだけだ」


 魔人と悪魔は似たようなものではあるが違う存在、とバリーは言った。これもまたその一つ。契約し、魂や血肉を喰らう、などという真似はしない。あくまで、契約を果たし、願いを叶えること。それがバリーの目的そのものなのだから。


「それで? 他に質問は?」

「えっと……それじゃあ、バリーは具体的に何ができるの?」

「何でも……と言いたいところだが、さっきも言ったように今のオレは弱体化してる。ある程度のことはできるが、それにも限度があるしな。だから今のオレは、人間よりもちょっと有能、くらいの認識で構わねぇよ」

「アバウトな言い方ね」

「しょうがねぇだろ。一々口で説明するわけには……ん? どうした、マック」


 何かを警戒しているかのような体勢のマック。

 その視線の先、茂みの中から現れたのは。


「グゥゥゥ……ッ」

「っ!? ビックボア!?」


 ビックボア。それが目の前にいる巨大な猪型の魔獣の名前である。

 全長はおよそ三メートルと言ったところか。巨大な身体、そして口元からはみ出ている鋭利な二本の牙。ギラついた瞳。それら全てが殺気で満ち溢れており、今にも突進してきそうな勢いである。

 だが、そんなものを目の当たりにしながら、バリーは全く動じることはなかった。


「おうおう。いきり立ってんな」

「馬鹿っ!? 挑発してどうするの!! アレは上級の魔獣なのよ!?」

「上級? なら、腕試しには丁度いいな」


 怖気付くどころか、不敵な笑みを浮かている。当然だ。この程度の相手に慌てふためく程度の男ならば、とっくの昔にこの世からはいなくなっているのだから。


「【ブラックソード】】


 その言葉を言い放った瞬間、バリーの右手に真っ黒な剣が握られた。柄も刃も鍔も、何もかも真っ黒であり、まるで黒い靄が集まったかのような代物。

 その剣先を構えながら、一言。


「そら、来いよ。お前の獲物はここだぞ」


 そのどこまでの挑発的な言葉と態度は、魔物相手でも通用したらしい。

 事実、次の瞬間ビックボアは、雄叫びを上げながら、一気にバリーめがけて突っ込んでいた。


「グォォォオオオオオオオッ!!」


 森中に響き渡る雄叫びと共に、ビックボアは一直線に駆ける。その巨体と速度から考えて、まず直撃すれば普通ならば即死だろう。加えて、ビックボアは身体が硬いことで有名だ。言ってしまえば、鉄の塊が突っ込んでくるのと同じことだ。


 けれど、一方でそれが弱点でもある。


 確かにビックボアは身体が大きく、そして硬い。まともに突進を喰らえば死ぬのは当然のこと。しかし、その体当たりは直線的な攻撃であり、故に攻撃される先は読みやすく、避けやすい。

 だが、バリーは避ける様子は一切なかった。それどころか、防御の姿勢すらとっていない。

 彼はただ、ブラックソードを振り上げる。

 そして、全てのタイミングが揃った瞬間、そのまま振り下ろした。


「ふんっ!!」


 刹那。

 強烈な一擊は、ビックボアを真っ二つに叩き斬った。

 それだけではない。

 ビックボアの後方にあった森の木々。それらも全て、剣の一擊による風圧で、次々となぎ倒されていった。


「う、そ……」


 あまりの光景に、カタリナも言葉を失っていた。

 彼女自身、最上級の冒険者であり、何より聖女だ。故に力には自信がある。実際、今のビックボアも自分で倒そうと思っていた。

 だが、それでも、剣の一擊で、こんな芸当はできない。

 しかも。


「ふぅ。久しぶりのせいか、思ったより弱かったな」


 目の前の男は、そんな言葉を零していた。


(今のが弱かった……? そんな、じゃあコイツが本気を出したら……)


 一体どれほどの威力が出るのか。

 全く想像ができない力を持つ男に対し、カタリナは思わず口にする。


「アンタ……ほんとに一体、何者なの?」

「ただの魔人。それ以外の何に見える?」


 当然と言わんばかりの言葉に、カタリナはただただ呆然とする他なかった。

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