二十二話 ゴーレム、トンデモ発言をする
その後、村に戻ったバリー達は、村人達に事の詳細を報告した。
ブラッドウルフの殲滅。そして、それを裏で操っていたのが、魔女の死体であること。その魔女も既に退治したということ。
無論、報告だけではない。証拠としてブラッドウルフの残骸も持ち帰った。とはいえ、魔獣のほとんどはカタリナの炎で燃えかすとなってしまい、魔女自身もバリーが粉々に粉砕してしまったので、残骸を探すのに少々手間取ったが。
そして、それだけでは安心できないだろうと思ったカタリナは何人かの村人を引き連れ、洞窟へと案内した。中の構造を説明し、魔女がいたことを話し、もういないということを目で確かめさせたのだ。
そして、全てを聞き、そして見た村人達は、安堵の表情を浮かべたのだった。
「ありがとうございました、聖女様。これでようやく、この村にも平穏が戻ってきます……」
「いえ。私がしたくてしたことですから。ただ、今回のようなケースは特例中の特例だと思ってください。本来なら、組合に依頼し、冒険者にやってもらうこと。聖女が個人的に依頼を請け負うことは稀だと思ってください」
念を押すように言うカタリナ。しかし、これは大事なことだ。聖女が助けを求められれば、誰でも助ける、という風評が広がってしまえば、他の聖女に迷惑がかかる。本来、こういった仕事は冒険者の役目だ。それをカタリナは今回、奪うような形となってしまった。誰も依頼を受けなかったから、というのは正直なところ、言い訳にしかならない。
「それから、申し訳ありませんけど、組合へのキャンセルはそちらにお任せするようになります。恐らく、依頼料の半分は取られてしまうと思いますが……」
ギルドに一度依頼し、それを取り消す場合はキャンセル料が発生してしまう。これは、気軽にギルドへ依頼することへの防止策だ。確かにギルドは多くの依頼を請け負っているが、それでも多すぎれば、本当に困っている依頼が埋もれてしまう可能性もある。それを防ぐための策の一つが、キャンセル料である。
「はい。それは問題ありません。こうして無事に解決したのですから」
笑みを浮かべながら、村長は安堵したように言葉を告げる。確かに、キャンセル料は痛手だが、しかし逆にいえば、半分の金額が戻ってくる、という見方もできるだろう。何せ、本来ならば全額支払った上で魔獣を倒してもらう必要があったのだから。そして、求める結果を手に入れた上で、料金が半分になった、となれば村にとっては利益になったと言えるだろう。
「それにしても、流石は聖女様です。まさか、森の中で彷徨っていた少女を助けた上で、魔獣たちと魔女を倒してしまうとは」
「え……ええ。そうですね。その点については、幸運だったと言えるでしょう」
苦笑しながら、言葉を返すカタリナ。
それは、いつものような「流石は聖女様」という言葉に反応したわけではない。どちらかというと、ちょっとした罪悪感からくるものだった。
村人達に話していないこと。それは、リーゼの事だった。彼女については、先もいったように、森で彷徨い、魔獣に襲われていたところを保護した、ということにしている。流石に今まで村の家畜を襲っていた少女だ、などとは言い出せなかった。
とはいえ、だ。もうリーゼが家畜を襲うようなことはなく、森の中からブラッドウルフはいなくなった。加えて、元凶である魔女の死骸も消失し、この村から危機は去ったと言えるだろう。無論、この状態がずっと続くとは言えない。今は確かにブラッドウルフはいなくなったが、他の魔獣が住み着く可能性はないのだから。
しかし、それでも、今この時は村長が言ったようにこの村にも平穏が戻ってきたのだ。故に、それに喜び、安堵するくらいは大丈夫だろう。
そして、カタリナ達の仕事もここまでだ。あとは、当初の予定通り、セシルを探す旅を続ける。
そう、そのはずだったのだが……。
*
「というわけで、わたしも貴方がたと一緒に行くことにしましたので。よろしくお願いします」
何故か、リーゼが一緒についてくることになったのだった。
「いや、ちょっと待って。何でそういう展開になるの!?」
村で借りている家の中で、思わずカタリナは大声を上げてしまう。
しかし、そんな彼女とは裏腹にリーゼは淡々とした口調で続けて言う。
「っていうか、そもそもわたし達についてきても、貴方にメリットとかないでしょ」
「まぁメリットはないですが、母を倒してくださった礼をしていませんし。それに、色々と考えたのですが、わたしには生きる目的らしきものが見つからないので。それで、どうせなら貴方がたについて行こうと思った次第で」」
「いや、そんなついでに、みたいな感じで言われても……」
あまりにも唐突な発言に、カタリナは思わず頭が痛くなった。
命を助け、さらには彼女の復讐したい相手も倒した。リーゼからしてみれば、カタリナ達に恩義を感じるのは当然とも言える。故に、一緒についてきて、役だとう、というのは理解できる。それに、彼女からしてみれば、外の世界へ行くことへの不安もあるのだろう。ゴーレムである彼女が、人間社会に自分の意思で行くというのは、それなりの覚悟が必要だ。
けれど……と思うカタリナに対し、バリーが口を挟む。
「別にいいんじゃねぇか? オレ個人としては、問題ねぇし」
「それはあれ? 女が周りに増えるのは問題ないとか、そんな理由じゃないでしょうね?」
「おっ。よく分かってるじゃねぇか」
「否定しなさいよっ!! ホント、そういうところは最低ね!!」
前々から思ってたいが、やはりこの魔人はどこか感覚がおかしい。特に、女関係に関しては、普通とは真逆のことしか言わない。
とはいえ、だ。自分が彼女を助けたのは事実。責任の一端があるのは確かだ。このまま村に残れ、などというのは当然無理な話だ。何せ、自分が迷惑をかけた村だ。そのまま暮らすことなど無理だろう。
バリーは知らんといったが、カタリナからすれば、このまま放っておく、というわけにもいかない。
「ったく……セシルを探さなくちゃいけないってのに」
「セシル……?」
「こいつが探している喧嘩別れした幼馴染だよ。ま、喧嘩別れつっても、ほぼこいつの自業自得だけどな」
「はいそこ。事実であっても、余計なことは言わないで」
へいへい、と言いながら不敵な笑みを浮かべているバリーは、続けて言う。
「そんでもって、オレはちょっとした事情からそれを手伝ってるわけだ」
「……、」
バリーの言葉を聞いて、リーゼは何やら考え事をしているかのように顎に手を当てた。そして、しばらくするとカタリナに対し、問いを投げかける。
「……そのセシルという方は、カタリナさんの幻影に出てきていた人ですか?」
「ええ……そうだけど……」
言われて、嫌な記憶が蘇る。そっくりだったとは言え、幻影如きにあれほどまでに取り乱した自分が情けなく、そして何より恥ずかしい。加えて、それをバリーにもリーゼにも見られていたのだ。気まずいどころの話ではない。
だが、そんなことも、リーゼの次の言葉によって、吹き飛ばされる。
「それがどうかしたの?」
「いえ。わたし、その方に二ヶ月程前に会ったことがあるので」
ふと。
目の前にいるゴーレム少女は、そんなとんでもない発言をしたのだった。




