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十四話 魔人、洞窟に入る

 ブラッドウルフ達の痕跡を追いながら、バリー達は森の中へと進んでいく。

 そして、それは何の前触れもなく、簡単に見つけることができた。


「ここが連中の巣穴ね」


 予想通り、というべきか。

 そこは、斜面に口を開けているかのような洞窟だった。何の変哲もない、ごく普通の洞窟だが、しかし地面に残っている足跡の数や方向から考えて、まず間違いはないだろう。

 洞窟に魔獣がいる。それくらいのことは、無論珍しいことではない。

 だが、今この状況に置いては、少々事情が変わってくる。


「さて……どう思う?」


 そう問いを投げかけたのは、バリーの方だった。

 魔人であるバリーは多くの修羅場をくぐってきている。しかし、カタリナは聖女であり、冒険者でもある。だからこそ、彼女に意見を求めたのだった。


「罠……の可能性は大ってところかしら」

「可能性って……この場合、絶対にあるだろ」

「いや、まぁそうなんだけど。何というか、嫌な感じはしないのよね。危険なオーラっていうか、雰囲気というか。そういうのが全く伝わってこないっていうか」


 それは確かにその通りだった。

 通常、魔獣の巣穴などからは殺気やら嫌な雰囲気が漂ってくる。それこそ、異臭などで一般人でも、「ここはまずい」と分かってしまうところもある。

 しかし、ここからは本当に何も感じない。あれだけのブラッドウルフが巣穴にしてるはずだというのに。

 そして、だからこそ、それが逆に怪しい。


「これは、完全に誰かが細工をしてるわね。気配や雰囲気を殺して、ここには何もないっていうのを出してるっていうのかな」

「その割には魔獣の足跡とかは残ってはいるがな」

「それは多分、何か予想外なことがあったからだと思うけれど。ほら、足跡は新しいものだけだし。多分、さっき私達を襲ってきた魔獣達のものだと思う。逆にそれ以前のものが一切ない。ここが連中のねぐらなら、もっと前の足跡とかもあるはずなのに」

「つまり、いつもは証拠隠滅してるが、今日は何か慌てるような自体が起きて、それどころではなくなった、と」

「恐らくはね」


 カタリナの分析は、尤もだった。

 気配や雰囲気を消しているというのに、足跡だけは残っている。誰かが意図的にこの場所を隠していたとするのなら、足跡があるのは不可解だし、誰も細工をしていないというのなら、気配や雰囲気を消されているのはもっとおかしい。

 だとするのなら、だ。カタリナがいうように、いつもは隠蔽をやっているが、何かが起きて、それをする暇がなくなってしまった、という推測が一番考えられる。

 そして、だ。


「そのイレギュラーとして考えられるのは、オレ達ってわけか」

「そういうこと」


 カタリナの推測が正しいのならば、さっきの件もある程度頷ける。自分達を排除するために、わざわざ百体のブラッドウルフを差し向けた、と考えるのが筋だろう。


「けどまぁ、今のはただの推測。証拠が少なすぎる。だから、ここが単に普通の洞窟って可能性も捨てきれない」


 だからこその、罠の可能性が大、という言葉。

 九割方、敵がいるという予想は立てられるが、今のところ、決定的な証拠がない。だからこそ、罠が必ずあるとも断言できないのだ。


「とはいえ、だ。オレらのやることは変わらない。そうだろう?」


 バリー達はこの森にるブラッドウルフを退治しにきたのだ。その巣穴が目の前にある。ならば、入らないという選択肢はない。

 無論、先程襲ってきた連中が全て、ということも考えられるが、それはあまりにも楽観的すぎる。少なくとも、巣穴を確認し、残りがいないか確認する必要はあるはずだ。

 などと言っても、恐らくこの先にあるのが、残りのブラッドウルフ、なんてことはないだろうが。


「ええ。でも、警戒は怠らないで。魔女かどうかは分からないけど、ここが妙なのは確かだし」

「いずれにしても、入ってみないと分からないってわけか。上等上等。そういう行き当たりばったりなのは、いつものことだ」

「それを堂々と口にしてる時点で、やっぱりアンタは頭おかしいと思う」


 そして、それが彼の有り様だと分かっているので、カタリナはそれ以上追求することはなかった。


「んじゃ、さっさと入るとするか」

「はぁ。全く、緊張感のない口ぶりね」

「別にそんな気を張ることはねぇだろ。確かに警戒することは大事だが、それでもやることは変わらねぇ。そもそも、オマエだってびびってるわけじゃねぇだろ」

「まぁ、そうだけど……」

「なら、普段通りにしてればいい。そういう状態でも、オレもオマエも、危機を察知し、対応できるんだから」

「……、」

「何だ? 何か変なこと言ったか、オレ?」

「いや……もしかして、今、私褒められたのかなって」

「別に褒めたつもりはねぇよ。事実を言ったまでだ」


 その言葉に嘘はない。

 カタリナの戦い方は既に見た。そして、彼女の冒険者としての知識も経験も知っている。それらを統合した結論が、先程の言葉なのだ。

 彼女は強い。そして実力も経験もある。故に、変に緊張する必要もない。そう思ったまでである。


「んじゃま、行くぞ」


 そして、バリーとカタリナは洞窟の中へと入っていった。

 緩い勾配。しかし、確実に二人は下へと降りていた。そう、下である。この洞窟は奥に行くにつれて、下へと向かっているのだ。

 そして、進むにつれて、縦も横も幅がどんどんと広がっていき、しばらくすると大勢の人間が横一列で通れるくらいの広さになっていた。


「これは……」

「ええ。完全に人の手入れがされてるわね」


 上下左右の地面。それらは全て自然とそうなってできた形ではない。誰かがこの洞窟を作った感じがどこからともなくしてくる。そもそもにして、今まで歩いてきた地面も人が簡単にあるけるように整理されているようにしか思えない。


「とはいえ、今のところ異常はなさそうだが」


 松明を右手に持ちながら、辺りを見渡す。魔人であるバリーの視力は、常人のそれを遥かに超えている。故に、たとえ松明がなかろうとも、彼にはこの洞窟内がきちんと見えていた。この程度の暗闇など、問題ではない。

 無論、暗闇だけの話なら、だが。


「どうかしらね……仮に魔女が相手なら、目に見える罠なんて仕掛けてこないでしょ。それこそ、禁術を用いた何かをしてくると考える方が妥当よ。だから―――」


 気をつけて……そう、カタリナが言おうとした刹那。

 二人の視界は、一瞬にして漆黒の闇に包まれたのだった。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

正直需要があるかどうか未だに分かりませんが、今後とも頑張っていきますので、何卒よろしくお願いいたします!

感想・評価・ブクマなどもお待ちしております!

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