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十二話 魔人、魔女について語る

 魔女。それは、聖女とは対をなす存在。

 魔に取り憑かれながらも、超常的な力を行使する者達。

 通常、魔術師という、魔術を使う者達がいる。魔術とは、人間が持つ魔力を使う術であり、それらは使用が許可されている。

 しかし、魔女の場合は違う。

 彼女たちが使うのは、悪魔から授かった特殊な力であり、魔術とは異なる禁忌の術。即ち、禁術である。そして、これらは悪魔に魂を売り払うような行為であり、故に使うことを禁じられている。それらを使う魔女は、聖女とは対照的に、人々から恐れられていた。

 そして、だ。

 そんな魔女が、この森にいるかもしれない、という情報は無論重要なことだと言える。


「何でそういうことを、今になって言うんだよ。いやまぁ、大事なことをさらりというところは、オマエらしいといえばらしいが」

「うるさいわね。噂話よ、噂話。本当にいるのかどうか、不明なの。実際に見たって人は少ないし、見た人も森で妙な女を見たって言ってるだけだし。それが本当に魔女かどうかは分からないわ」


 そんな事を言い合いながら、バリー達は森の中を歩いていた。無論、ただ歩いているだけではない。地面の足跡や草木の折れ方などを見ながら、ブラッドウルフの巣穴を探している。

 そして、唐突に言われた魔女の存在。しかし、それがいるかどうかは分からない、というのはバリーも否定はできなかった。


「ま、そうだろうな。見かけで判断できる程、魔女っていうのは分かりやすくはないしな」

「ええそうよ。っていうか、アンタ魔女を知ってるの?」

「まぁな。これでも長いこと生きてるからな。魔女くらいは知ってるよ」


 バリーは今まで多くの人間の願いを叶えてきた。そして、それだけ長い年月生きていると言える。その中で魔女のことは無論知る機会があったし、実際に何人かの魔女には出会ったことがある。


「しかし魔女か……また面倒なのが相手だな」

「だから、絶対にいるってわけじゃないの。むしろ、その話自体、怪しいんだから。一応、そういうのがいるかもしれないって程度の話。大体、今じゃ魔女なんてそうそうお目にかかれるものじゃないし」

「そうなのか? 昔は確かに数は少ないが、珍しいって程でもないだろ」


 言うとカタリナは信じられないと言わんばかりの目つきでバリーにいう。


「アンタ……一体いつの時代の話してるの?」

「なる程。その反応から察するに、この情報もかなり昔のものってことか」

「少なくとも、百年以上前のものよ、それ」


 その台詞から察するに、百年程前に何かあった、ということのだろう。


「何があったんだ?」

「今から百年くらい前に、魔女と人間の間で戦争があったのよ。事の発端は色々。迫害されてきた魔女たちの怒りが爆発したとか、力を持ちすぎた魔女に人間が恐怖を感じたからとか。とはいえ、一番大きな要因は、三大魔女の登場だけど」

「三大魔女?」

「魔女の中でも別格の三人の魔女。一人ひとりがとんでもなく強くて、個人で国を相手取るくらいな連中って話。ホントかどうかは知らないけど、実際、魔女によって多くの国が滅んだとは聞いたわね」


 それは初耳だった。

 少なくとも、バリーが知ってる魔女の情報に、そんなものは無かった。そもそも、魔女とは悪魔と契約し、力を得て、それを行使する者達。故に、その力は絶大だが、代わりに代償を支払っている。魂の一部とか、血肉とか、その他諸々。大きな力にはそれだけの見返りを必要とする。

 故に、国を滅ぼす程の力を持つ魔女は、一体どんな代償を支払ったのだろうか。そんな疑問が湧いてくる。


「で、結局のところ、当時の聖女達と一人の英雄が三大魔女を倒して魔女達は壊滅。その後も各地で魔女狩りが行われて、結果魔女の数はかなり減ったってわけ。ちなみに、その時に悪魔を呼び出す呪文やら方法を書いた書物もほとんど燃やされたから、新しい魔女も誕生しにくくなったのよ」


 その話が本当であれば、確かに理屈は通る。

 元々魔女の数は少なかった。それが、戦争で多くが死に、さらにはその生き残りも魔女狩りによって数を減らされてしまえば、絶滅、とはまではいかないものの、確かに早々お目にはかかれないだろう。


「そう言われれば、魔女がいるって可能性は低いな」

「でしょ? けどまぁ、逆に絶対にいないって断言できるわけでもないから、警戒はしといてね。もしも、本当にいるとすれば、厄介だから。連中のほとんどは悪魔に魂を売ってでも何かを成し遂げたいって奴だし、そういうのに限って、何をしでかすか分からないし」


 その指摘は的を射ている。

 悪魔に魂を売る。その行為自体が、既に常軌を逸しているのだ。そんな連中が相手となれば、何をしてくるのか、予想できないのが普通だ。現にバリーも魔女には何度か手を焼いた経験があった。

 とはいえ、だ。ここにそれがいる可能性はかなり低い。警戒するに越したことはないが、変に気を張りすぎても精神を削らすだけ。適度に気配を探り、歩きながらもバリーは口を開く。


「ま、とはいえ魔人に頼ってきてるオマエには、何も言えた義理はないだろうけどな」

「うぐ……」


 魔人と悪魔は違う。確かにその通りではあるが、しかし聖女ともあろう者が、怪しげな魔人などという存在に頼ろうとした時点で、それはもうアウトだろう。

 しかし、そのおかげでバリーはこの場におり、尚且つカタリナの願いを叶えれば自由になれる。そういう観点からみれば、彼女には感謝するべきなのかもしれないが。

 それでも、素直に礼を言えないのはなぜだろうか。


「その指摘、何回目よ。もういいでしょ。いい加減しつこいと私も―――」


 刹那、バリーはカタリナの前に片手を出し、彼女の言葉を遮る。

 それと同時に、彼女もまた周りの状況を一瞬で理解した。


「……バリー」

「ああ。どうやら、お客さんが来たようだ」


 その言葉通り、こちらを食い殺さんと言わんばかりのさっきが、二人を捉えていたのだった。

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