十一話 魔人、村に着く
※今回は短めです。
翌日。
早朝に街を出たバリー達は、昼頃にライラの村にたどり着いた。
そこにいたのは、憔悴しきっている村人達。どこか怪我しているとかではないが、顔色が明らかに悪いものが多かった。
「既に、二十以上もの家畜がやられておりますのじゃ……これ以上被害が出てしまえば、もううちの村は壊滅してしまいます……」
村長からの話で、大体の状況は察することができた。
農村にとって、家畜とは重要な存在だ。それこそ、生活の一部といっても過言ではない。それが二十もやられているとなれば、確かに尋常ではない被害と言えるだろう。
「幸いにも人の被害は出ていませんのじゃ。しかし、それも時間の問題かと……」
「そうですね……ブラッドウルフは常に血に飢えています。特に、人間の血に。今は家畜の血肉で満足しているでしょうが、一度人間の血をすすれば、奴らは家畜に目もくれず、人を襲うようになるしょう」
人の血肉の味を覚えた魔獣は、好んで人を襲い始めるという。恐らく、この村を襲っているブラッドウルフは未だ人間を殺したことがないのだろう。家畜や野生の動物ばかりを標的にしてきている。ならばこそ、今の内に退治しておかなければならない。
今は被害が出ていなくても、いずれは必ず死傷者が出る。それこそ、連中は血に飢えた狼、ブラッドウルフなのだから。
「聖女様……ぶしつけなお願いなのは重々承知の上です。ですが、どうかこの村を救ってはくださいませんか……」
「分かりました。では、詳しいお話を聞かせてもらますか? 連中がいつ頃家畜を襲い始めたのか、どこからやってきているのか。何頭いるのか。それらも含めて」
そこから、カタリナは徹底した情報収集をしていった。
被害が出始めたのは半年ほど前からということ。西の森からいつも足跡が残っていること。その足跡から考えて、少なく見積もっても十頭以上はいること。他にも実際に家畜を襲われる瞬間を見た者から、ブラッドウルフがどれくらいの大きさなのかなど、聞ける情報は全て聞き出していった。
(手馴れてるな……)
やはり、というべきか。カタリナは冒険者としては凄腕の地位にいる。そして、それだけの能力を持っているのだ。
それは戦う力だけではない。こうして、事前の準備や情報収集を欠かさない点も、冒険者として重要な資質と言えるだろう。
中には本当に力だけで全てを解決する者もいるが、そういう連中に限って、仕事が荒い。たとえ、魔獣を倒したとしても、その反動で村が半壊状態になったりすれば、話にならないのだから。
そして、村中の人間から話を聞き終えたカタリナに対し、バリーは言う。
「どうだ?」
「問題ないわね。連中が来るのは西の森かららしいわ。とはいえ、被害からしてそれなりの数はいるらしいけど、それでも対処できない程じゃないと思うわ。でも、急いだほうがいいかも。連中、襲ってくる間隔がだんだん短くなってるらしいから」
「よし。それじゃあ」
「ええ。早速行くわよ」
そう言って、二人は魔獣退治へと向かったのだった。
*
しばらくすると、村人が話していた西の森に到着した。
「ここか……」
森の入口付近でバリーは呟く。
確かに、魔獣の気配がここまで感じ取れる。となると、敵の数はそれなりにいるらしいのは間違いない。
そして、森へと入ろうとするバリーに対し、カタリナは待ったをかけた。
「ちょっと待った。はいこれ。臭い消しの香水。一時的だけど、自分の匂いを消せるから、身体にかけといて」
「へぇ。便利なの持ってるな」
「当たり前でしょ。私、これでも冒険者なのよ? 魔獣対策くらいは用意するのなんて、常識よ」
「いや、それはそうなんだが……何というか、予想外だった」
「? 何が?」
「オマエの性格上、準備なんて必要ない! 敵はバンバン倒していく! ……ってスタイルだと思ってたから」
「アンタ何? 私を脳筋か何かだと思ってるわけ……?」
心外だと言わんばかりに、カタリナはため息を吐いた。
「確かに私の能力は、ゴリ押しの攻撃系だけど、そこまで考えなしじゃないわよ。というより、考えて戦わないと、周りに被害が出るし。だから、こういう調査とか準備とかはちゃんとしとかないといけないの。それこそ、必要以上と言われようがね」
彼女の能力……つまりは聖女の力に関しては、バリーも把握済みだ。そして、言われてみれば、確かに彼女の能力は考えなしに使えば、周りに被害が出てしまう。
特に、こんな森の中では。
「それに、手練の冒険者はこういう基本をしっかりしているものよ……まぁ、中には準備なんて不要って考える奴もいるけど、そういうのは例外中の例外だし」
「なる程。基本をおろそかにする奴は、業界じゃあ生きていないってのは、どこも一緒ってことか」
「そういうこと。ああ、後言い忘れてことがあるんだけど」
「? なんだよ」
バリーの疑問に、一拍置いてカタリナは。
「この森、魔女がいるんですって」
そんなとんでもないことを付け加えてきたのだった。




