一話 魔人、召喚される
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―――あと一つ、人間の願いを叶えれば自由になれる。
その魔人は、かつて戦った天使によって、千の人間の願いを叶えなればならない、という封印をかけれれていた。それにより、彼はずっと、誰もいない世界で封印されている。自由になれるのは、人間が彼を呼び、そして願いを叶えるまでの期間のみ。しかも、その僅かな時間の中でも、彼の力は大幅に下げられている状態だ。故に、人間の願いを叶えるのも一苦労なのである。
そんな状態でありつつも、彼はここまで九九九の願いを叶えてきた。
そして、次で最後。
それがどんな願いであれ、叶えてしまえばこちらのもの。誰かを殺して欲しい。金持ちになりたい。力が欲しい等など……人間の願いとは千差万別。それこそ、星の数程ある。
だが、しかし、そんな無数にあるであろう望みの中で、だ。
「私に絶縁を叩きつけていった幼馴染を探して欲しいのっ!!」
千番目の願いは、そんなモノだった。
「…………………………ううん?」
思わず、奇妙な声が出てしまった。
そこは地下室のような場所。周りは暗く、部屋にある松明のみが光源だった。そんないかにもな場所での召喚は、魔人にとってはいつものことだった。床に描かれた魔法陣も、見慣れたものである。
目の前にいるのは、一人の少女。長い金髪は後ろで赤いリボンによって結ばれている。容姿は人間として上質なものだろう。ただし、目つきが悪い。それによって、温厚そう、という印象は一切なかった。
恐らく、彼女が自分を召喚した張本人なのだろう。
なのだろうが……。
(オレは今、何て言われた……?)
魔人は冷静に、冷静になりながら、今言われたことを整理する。
自分の耳が悪くなった、という可能性がないとするのなら、だ。
目の前にいる少女は、幼馴染を探して欲しい、と言った。
まぁ、それが生き別れになったとか、誰かに攫われたとか、そういう類のものなら、百歩譲ってアリとしよう。
だが。
「……よし。ちょっと待て。お前は、その幼馴染に絶縁を突きつけられたのか?」
「そ、そうよ」
「つまり、それだけお前はその幼馴染とやらに嫌われていたと?」
「そ……そうよ」
「だというのに、お前はわざわざ魔人と契約までして、その幼馴染とやらを探したいと?」
「…………そうよ」
だんだんと声が小さくなっていく少女は、覇気すらも縮こまっていた。どうやら聞き間違いではないらしい。
だとするのなら、これはまた、相当おかしなことになってきた。
魔人を呼び出してまで、誰かを探す、という願いは珍しいが、ないわけではない。だが、それが絶縁を叩きつけられた相手となれば、話は別。というより、聞いたことがなかった。そもそも、幼馴染に絶縁を言い渡される状況というのが思いつかない。絶交、ならば分からないこともない。子供なども「もう絶好だ!」と口にすることもある。
だが、わざわざ絶縁と言い渡すということから、相当根は深い問題なのだと思われる。
「せ、正確には、見つけて話をつけることだけどっ」
「話をつけるって……オマエ、絶縁を突きつけられたんだろう? それって相当嫌われてないと無理だろ。オレ、魔人だけど幼馴染に絶縁を叩きつけるって聞いたことないぞ」
「う……そ、それは……その……」
「大体、そういうのって魔人を呼び出してまで願うことか? いや、別に願いの数は人それぞれだし、構わないんだけどよ。それでも……これはあんまりだろ。せめて自分の力でなんとかしようと思わなかったのか?」
「う、うるさいわねっ!! それができなかったから、こんなことしてるんでしょう!!」
少女の叫びに魔人は少し納得する。
なる程、自分で探そうという努力はしていたわけか。しかし、それも当然だろう。人を探すために、いきなり魔人に頼み込む、なんてことはまずない。
そして、自分の力の限界を感じたからこそ、彼女は魔人と契約を交わすというところまで行き着いた、というわけか。
「それで。結局できるの、できないの?」
強気な少女の言葉に、魔人はしばらく沈黙していた。
結論を言うと、人探し程度のことはできる。力が弱くなっているからといって、その程度のこともできなければ、人の願いなど叶えてこられなかった。
だが、しかし。
「……その問いの答えを言う前に、だ。少しオマエの記憶を見せてもらう」
「っ!? ちょ、何でそんなことになるのよっ!!」
「その方が手っ取り早いからだ。一々何があった、どうしてそうなったのか。それをお前の口から聞かされるより、よっぽど早い。それに、オマエが嘘をつく可能性もあるしな」
「なっ、そんなこと……」
「ない、か? なら別に記憶の一つや二つ、見せてもいいだろう? 嘘を言うつもりがないんだったら、見せない理由はどこにもないはずだが?」
人間という生き物は、自分に不都合なことは口にしない。ましてや、それが魔人相手なら尚更だろう。故に、これは当然の確認。契約相手がどんな人間なのか、把握するためにはこのやり方が一番だ。
その上で、契約をするかどうかを決める。
確かに次の願いを叶えれば、自由の身ではあるが、それでも相手を選ぶ権利だって、魔人にはあるのだ。
「わ……分かったわ」
少女はあっさりと了承の言葉を述べる。
予想外の展開に魔人は、少し驚く。先程からの言動、そして態度からして、もう少し駄々をこねるか、突っぱねて契約をしないという方向になるかと思っていたのだが。
(いや……違うか。それだけ、この女も本気というわけか)
多くの人間を見てきた魔人だからこそ分かる。
目の前にいる少女が、生半可な気持ちではないと。
本来なら人探しなど、自分の力でできないのなら、それこそ他の人間に頼めばいい。だが、少女はここで魔人を召喚した。幼馴染を探す、たったそれだけのために。
それは何故か。どうしてか。
その疑問は、魔人にとっても、微かではあるが、興味があることだった。
そして。
「では、見せてもらうぞ。お前の記憶」
その言葉を口にした、次の瞬間。
魔人は彼女の記憶へと入っていったのだった。
次は、今日の15時前後に投稿します。