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SSSランク勇者パーティを追放された実は最強の不遇職が辺境の地で聖女に求婚される悠々自適ライフ  作者: 一ノ瀬るちあ/エルティ
追憶ノ章

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6話 エンバーミング

「……不死身かよ」


 確かに殺したはずだった。

 俺の振るった剣は確実に目の前の魔族の首を切り裂いた。血が吹きこぼれた跡は残っている。幻覚なんかじゃない。だというのに、魔族はまるで無傷だ。


「キヒッ! 呆けている暇はないです、よッ!!」

「っ! 抜かせ」

「くひひっ、あなたは対応できても、後ろの女人はどうですかね?」

「なっ」


 その時、視界の隅で影が動いた。

 あれはホブゴブリン?

 その手に握られているのは……クロスボウ!?


「チィッ、させるか!」


 ザシュ。

 ホブゴブリンが放った一撃を剣で叩き落とす。

 続けざまに懐から投げナイフを取り出す。


「お返しだ」


 俺が放った投げナイフは、ホブゴブリンの眉間に的中した。一撃確殺。ホブゴブリンは「グギャ!?」と声をあげ、すぐに沈黙した。


「ほぅら、足元ががら空きですよ?」

「っ、次から次へと!!」


 次いで、地面が隆起して食人植物(マンイーター)が現れた。

 俺は盛り上がる地面に合わせて跳躍。


「第二星剣二式«宵の明星(ヘスペロス)»ッ!」


 そして、落下の勢いを上乗せした一撃を上段から振り下ろす。ぐちゃりと植物を潰した液体が飛散した。


「ほらほら、隙だらけですよォ!!」

「ぐはっ」


 だが、跳躍したのは短期的には正解であったが、長い目で見ると短絡的だった。俺の着地地点を予想していたのであろう。食人植物(マンイーター)を倒すと同時に魔族の攻撃を腹に受けてしまった。

 ごろごろと転がり、背中に衝撃が加わってようやく止まった。どうやら木の幹にぶつかったらしい。


「……はぁ、はぁ。ちっ、厄介な奴め」


 一対一なら勝てたかもしれない。

 だが相手は魔物を使役でき、一方で俺は聖女を庇いながら立ち回らなければならない。言わずもがな、不利な状況だ。


「勇者様、勇者様!」

「……なん、ですか。聖女様」

「一つ、気付いたことがあります」


 聖女が駆け寄ってきた。

 俺は聖女を庇う様に前に出て、視線は魔族と向き合ったまま聖女の話を聞くことにした。


「気づいたこと、ですか。なんですか?」

「はい。勇者様は、あの魔族を魔物使い(モンスターテイマー)とおっしゃりましたよね」

「えぇ。フロストグリズリー、ホブゴブリン、食人植物(マンイーター)を操っていますし、間違いないかと」

「その前提が、少し違っているかもしれません」

「……どういうことですか?」


 敵の出方に注意を払いつつ、聖女の言葉にも耳を傾ける。魔物を使役しているにもかかわらず、モンスターテイマーではない可能性?


「あの魔族はネクロマンサーかもしれません」

「ネクロマンサー? ですが、あれは死体を操る能力者でしょう。俺が倒したフロストグリズリーも、ホブゴブリンも、死体には見えませんでしたが」

遺体衛生保全(エンバーミング)です」

「エンバーミング? 遺体の腐敗を防ぐ技術の事ですか?」

「……! よくご存じですね」

「まぁ……」


 エンバーミング。

 遺体に手を加え、防腐処理などを行う技術だ。

 王国では遺体を神聖な物として扱うため、一般にはこの技術は外法に分類されている。国が徹底して秘匿しているためその名を知るのは少数だが、隠密をしていれば、そう言ったことに対する見識も広く深くなる。


「フロストグリズリーの時は勘違いかと思いましたが、あの魔族が使役する魔物からは防腐剤の香りと、……わずかに、死体の匂いがします」

「聖女様、待ってください。エンバーミングの工程には血抜きがありませんでしたか? あいつらには血が流れていました」


 現に、魔族は血痕を胸元に飛び散らしている。


「私にも信じられないのですが……あれは、血管ごと差し替えているのかと」

「血管ごと?」

「はい。あのホブゴブリンの指先……細い血管が本来なら存在する部分が異様に青白くなっています」

「血抜きをした後、血色を誤魔化すためにただのチューブで血管を補った……?」


 本来、血液というのは細胞が必要とする物質を運搬する通路だ。そのため、一部の物質は血管の壁を通り抜け、細胞と行き来できるようになっている。

 血が止まると細胞に老廃物が溜まり、それが腐敗の原因になるのだが、血液から細胞へ物質が流れない管に差し替えてしまえば確かに血抜きの状態と同じだ。


「目的は、勇者様が予想したように――」

「敵に魔物使い(モンスターテイマー)と誤認させるため、ですか」

「おそらくですが」


 なるほど。

 ありえない話ではない。

 それに、そう考えると疑問が一つ解消される。


「……あの魔族も、防腐処理を施した死体か」

「……っ、そういう、仕組みですか」


 そう。

 俺は確かに殺したつもりだった。

 だが、殺せていなかった。


(なるほどな、死体を殺すことはできないよな)


 だがそうなると、取れる手段は限られてくる。


「聖女様、あの死体を浄化することは可能ですか?」


 もっとも太い可能性はこれだろう。


「……エンバーミングは外法だと王国では言われていますが、実際のところは清めの様なものです。加えてネクロマンサーが操る死体には導くべき魂もありません。不浄のアンデットとは違い――」


 背後で、聖女が息をのむのが分かった。


「――私の力では、不可能です」


 期待は泡沫のように儚く崩れた。

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[良い点] 聖女の足手まとい感が増したw [気になる点] わざわざめんどくさい手間かけてるな そこんとこがちょっと気になる [一言] なにかの実験かな?
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