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第九話 氷魔

『ギャオオオオオッッッ!!!!』


 ベヒーモスの雄叫びが奴隷市場に鳴り響き、木が、石が、人間が吹き飛び辺りは荒れ果てる。


「ば、ばば馬鹿な!? 弱体化の魔法はしっかりとかかっていたはず!!」


 奴隷商は気づいていない。

 彼が高値で買った弱体化の効果がかかった足枷はベヒーモスが新たに身にまとった鎧によって砕け散り足元に散らばっている事を。


「何だ何だ!?」


 騒ぎを聞きつけ奴隷商に雇われた用心棒が駆けつけてくる。

 この場が包囲されるのも時間の問題だろう。


「おい主人あるじよ、ワシはどうすればいい」


 ベヒーモスは自らを解き放った悪魔を主人と認めたらしく、指示を仰ぐ。

 本当は今すぐにでも人間を八つ裂きにしたいだろう。大した忠誠心だ。


「あんたはそこのエルフと強力してここに捕らわれている魔族を全員解放してくれ。敷きに俺の仲間も合流するだろう」


 悪魔の仲間達は国の外から見張っており、騒ぎが起き次第突入する手はずになっていた。

 もうすでに向かっている頃だろう。


「あいわかった。主人はどうするのだ?」


「決まってる」


 悪魔は覚悟を決め、宣言する。


「お前の仇を討ってくる」






 ◇






「デューク様! 敵襲です!」


 テーブル一つ置かれた簡素な部屋に突如けたたましい声が響く。

 その部屋は全面が宝石の如く煌めく石で出来ており、その部屋の主が只者ではないことが伺える。


「五月蝿いですね……何事ですか?」


 部屋の主、三英雄の一人デュークは面倒くさそうに衛兵に答える。

 デュークは部屋に多数置かれた氷の彫像を眺めていたようで、それを邪魔されたのが不愉快のようだ。


「奴隷市場の方で奴隷の反乱がおきた模様です! 現在各商会の猛者が事態の鎮圧に取り掛かっておりますが苦戦している模様です!」

「それは一大事ですね……しかし、それよりももっと大変なことがあります」


 デュークは「え……?」と戸惑う兵士に近づくと兵士の肩に手を置き、耳打ちする。


「私の部屋に土足で踏み入らないでくれますか?」


 その瞬間デュークの手から物凄い氷の魔力が兵士に送り込まれ、兵士は絶望の表情を浮かべたままものの数秒で凍り付いてしまう。


「フフフ、至福の時間を邪魔されたのは腹立たしいですがいいコレクションが手に入りました♪」


 デュークは兵士の氷漬けを片手でヒョイと持ち上げると眺めていた彫像の列にそれを加える。


「さて、楽しそうなことが起きているみたいなので行ってきますよ皆さん。またお友達を増やしてあげますからね♪」


 デュークは嗜虐的な笑みを彫像達ひがいしゃへ向けると、部屋を後にした。







 ◇




「うおおおおおおっっ!!」


 中央広場では悪魔が人間たちと激闘を繰り広げていた。


(流石に今までの奴らとは一人一人の強さが違うな……)


 それもそのはず。

 今までは所詮村人が武装していただけだったが、この国には腕利きの用心棒が多数いる。

 いくら力で上回っていてもわずかな隙を突かれ傷を負ってしまう。


「スキあり!!」


 僅かな隙を突き悪魔の脇腹に鋭利な槍が深々と突き刺さる。

 致命傷にはなりえないが鋭い痛みが悪魔を襲い僅かに反応が遅れてしまう。


「今だ!! 愚かな悪魔に天誅を下せ!!」


 人間たちが隙を見せた悪魔に向けて一斉に武器を構える。

 人間たちの頭には魔族を殺せる喜びと討伐してもらえる報酬しかない。


 ゆえに、膨れ上がる悪魔の魔力に気づくことが出来なかった。


「死ね。悲憤の棘(ネガティブ・ソーン)!」


 悪魔を囲むように黒いいばらが地面より吹き出し人間たちを串刺しにする。


「が……ぁ……?」


 人間たちは何が起きたのかを理解することも出来ずその命を散らしていく。

 魔法の範囲は広場を丸ごと飲み込むほどであり、ゆうに100人を超す人数の殺害に成功していた。


「ふう、上手くいったようだな」


 そう、悪魔はこの攻撃の為にわざと攻撃を食らっていたのだ。

 悪魔の特殊能力スキル負荷抗力ネガティブ・パワー』は負の感情が大きくなればなるほど魔力が上がり、それと同時に魔力の回復も行われる。

 その為にわざと人間に囲まれパワーアップを図ったのだ。


「へえ、中々の腕前ですね。楽しめそうだ」

「……来たか」


 悪魔が振り返ると、そこには無数の死体を意に介さず悠然と近づいてくる一人の男がいた。

 2mはある長身に短くそろえられた銀髪。

 一見すると端正で女性受けしそうな顔だがその瞳はひどく濁っている。


「成程ね、こんな目立つところで暴れていたのは私をおびき出すためでしたか。これはまんまと引っかかってしまいました」

「その割には落ち着いているじゃないか」

「フフフ、当然でしょう? 悪魔ごときにこのデューク、負けるわけがありませんからね!」


 デュークはそう言いながら手より巨大な氷塊を生み出し悪魔に向かい放つ。


「形ぐらいは残ってくださいよぉ! コレクションに出来なくなっちゃいますからねえ!」


 氷塊はものすごい勢いで悪魔に着弾。轟音を辺りに轟かしながらその破片をまき散らす。

 その威力は絶大であり、中央広場の肩tリガ変わってしまうほどだ。


「フフフ、どうやら期待外れの様でしたね。まあいいでしょう、逃げた奴隷で楽しむとしますか」


 デュークは己の勝利を確信し踵を返す。

 しかし。


「おいおい、まだお楽しみは始まったばかりだろ?」

「!!」


 突如デュークのすぐそばで囁かれる声。

 急ぎデュークは振り返るが……


「遅い!!」


 油断していたデュークの頬に打ち込まれるは魔力を込めた渾身の拳。

 圧倒的破壊力を秘めたその拳はデュークを目にも止まらぬ速度で吹き飛ばし、瓦礫の山へ沈める。


「立ちな、貴様に教えてやる。俺たちの怒りを」


 その言葉に呼応するかのように瓦礫の山が吹き飛びデュークが姿を現す。


「フフフフ、いいコレクションが出来そうです!!」

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