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第六話 幸福

 その後、悪魔達は次々と村を襲い魔族を解放していった。


 エルフが千里眼で村の中の情報を伝え、知略に富んだ眼鏡の悪魔がそれを元に作戦を立案。

 そして手先の器用なドワーフ族の拵えた武器を持った肉体派の魔族で攻め立てた。


 全ての襲撃は夜に行われた。

 魔族には夜目がきく者が多く、更に隠れながら生きながらえてきた魔族には隠密活動に長けた者も多かったからだ。


 例えば蜥蜴人リザードマン

 人間よりも体格が一回り大きい彼らは一見隠密活動に適さなそうだが、しなやかな体と垂直な壁をも縦横無尽に動き回れる鉤爪は隠密行動にうってつけだ。


 他にも上空より音も無く襲いかかる有翼人ハーピィや混戦時に無類の強さを誇る牛頭人ミノタウルスなど、それぞれの強みを生かした戦闘戦術を組むことにより一行は負傷者を出すことなく付近の村全てを壊滅させたのだった。



「お疲れさまでした魔王様」

「……まだその呼び方は慣れないな」


 悪魔が椅子に腰かけ休んでいると飲み物を持った眼鏡が飲み物を持ってきて悪魔に差し出す。

 その周りには多数の魔族が食って飲んでの大騒ぎをしている。

 人目を気にせず騒げるのは初めての経験なのだろう。みな心から楽しそうにひと時の幸せをかみしめている。


「それにしてもここまで上手く事が運ぶとはな……お前のおかげだ、ロス」


「いえ、全ては魔王様のおかげですよ。私は今まで自分の頭脳を生かせずにいました。しかしあなたのおかげで優秀な人材が集まり、存分にその力を振るえるようになりました」


「そうか……。それよりその魔王って呼び方はやめないか? 最近は他の者までそう呼び始めて困っているんだ」


「しかしあなた様は伝承に存在する魔王そのもの! こればっかりは譲れません!」


「そうかい……」


 この世界には魔王の伝承が遥か昔から存在する。


 それは【魔族が危機に瀕した時、圧倒的な力を持った『魔王』が生まれ魔族を救う】といったものだ。

 しかし、人間側にも良く似た伝承が存在し、そっちでは『魔族』が『人』になり、『魔王』が『勇者』になっている。


 事実今より200年前実際に魔王と勇者は戦い、勇者が勝利を収めている。

 その為魔族は迫害を受け、人間が栄華を極めているのだ。


 そしてその時魔王を倒した勇者こそが首都国家『センチュリオン』の現国王だ。

 彼は三人の仲間と共に当時暴虐の限りを尽くした魔王を打ち取り、三つの国を築きそれぞれに三人の仲間を守り手として置いた。

 そう、その三人の仲間の子孫こそが三英雄なのだ。


「確かに前魔王は酷い人物だったと聞いてます……しかし我々魔族全員がこんな目に会うのは間違っている!」


「そうだな、俺たちで勇者様に一泡吹かせてやるとしよう」


「はい!」


 二人は拳をぶつけ合い、固い約束を交わしたのだった。






 ◇





「こんなところにいたのですね」


 宴も終盤に差し掛かったころ、悪魔の元にエルフが訪れる。

 手には料理が乗った皿を持っており、宴を楽しんでいたことが伺える。


「あんたは……これからどうするんだ」


「え?」


「もうここいらの魔族はあらかた片付けた。これからは本格的に人間と殺しあうことになる、あんたは故郷に帰った方がいい」


 元々エルフは魔族を救う手助けの為だけについてきていた。

 本来であればもう同行する理由はもうないのだが、悪魔の言葉を聞いたエルフは不満そうだった。


「何かあればすぐ出てけって、そんなに私が嫌いなんですか!!」


「別にそういうわけじゃない。ただ……」


「ただ?」


「あんたには傷ついて欲しくないんだ」


「え?」


 予想外の返答にエルフは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。


「あんたは絶望した俺の心に一筋の光をくれた。今の俺にはあんたが傷つくのが何より辛い」


「ちょっちょちょっと待ってください!!」


 エルフは顔を真っ赤にし腕をバタつかせながら悪魔が喋るのを遮る。


「何ですかいきなり! まるで私に気があるみたいじゃないですか!」


「気がある……確かに俺はお前のことが気になっている」

「!!」


 悪魔は今気づいたかのようにポツリと呟く。

 負の感情に晒され続けた悪魔は正の心に気づくことが出来なかったのだ。


「へ、へぇ。じゃああなたは私のことがす、好きなんでしゅか?」


 動揺からか変な口調になるエルフ。

 頑張って踏み込んだことを聞くエルフだが悪魔の返答は意外なものだった。


「……しかしこの気持ちは忘れるべきなのかもしれない」


「へ?」


「俺の特殊能力スキル負荷抗力ネガティブ・パワー』は心に負荷がかかればかかるほど力が増す。逆もまた然りだ」


「まさか……!」


 そう、この力は悪魔は不幸になればなるほど強くなる。

 つまり裏を返せば『幸せになればなるほど弱くなる』のだ。

 もしここで恋仲にでもなってしまったらこの先強敵を相手に勝つことは不可能だろう。


「だから俺の前から消えてくれ。これはあんたの為でもあるんだ」


 エルフの眼を見つめ、強く言い放つ悪魔。

 しかし、それはどこか悲し気な声でもあった。


「……」


 それは聞いたエルフはしばらく俯き逡巡いた後「よし」とつぶやき面を上げる。


「決めました、私もついて行きます」


「なに!? どうしてそうなるんだ!?」


「そんな状態のあなたを放っておけません!! それに私にはあなたをその力に目覚めさせた責任がありますからね! それに……」


「それに?」


「戦いが終わったら先ほどの返答をしなければいけませんからね!」


 エルフはこの日一番の笑顔をし、そう宣言したのだった。

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