魔王「もし、私の仲間になったら世界の1000万分の1をやろう」
「お前が魔王か……」
ここは踏み入る事の出来ぬ魔の土地。その奥深くの魔王の住処。そこで1人、勇者は対峙していたーーーー魔王と。
玉座から、静かに魔王は呟く。低く重厚な響き。その声で空気が震えるのを勇者は感じた。今までの敵とは別格だ。
勇者は剣を抜く。勝つ。勝つしかない。勇者は覚悟を決める。魔王が玉座から腰を上げた。それだけで魔王からの威圧が強まる。
来るか。奥歯を噛み締めて足に力を込める。先手必勝。長引く程こちらが不利になるのは明確。ならば、一気に決めるーーーーだが。
「まあ、待て勇者よ」
「……?」
その言葉に思わず勇者は足の力を抜く。力が抜けたのは静止の言葉よりも、威圧がなくなった事が大きい。空気を張り詰めていたプレッシャーが0になる。
そして魔王はゆっくりと玉座から腰を上げーー。
「どうだ勇者よ。私の味方になるなら世界の……」
何だ。懐柔か? 勇者は怪訝な顔を浮かべる。……そんな誘惑に負けるような心は持っていない。例え世界の半分をくれようともーーーー。
「お前に世界の1000万分の1をやろう!」
「少なっ!」
思わず勇者は声を荒げる。
「少ないかぁ……」
「少ないだろう……って俺は何を……」
勇者は我に還る。無論、魔王からの誘惑に乗るつもりは微塵もない。だが、あまりの少なさに突っ込んでしまった。流石に1000万分の1はケチ過ぎるだろう。勇者ながらそう思うのも無理はない。
だが、そう思う勇者を他所に魔王は続ける。
「よし……じゃあ西の山脈から大陸の端まで全てやろう」
先程の条件よりは面積は比べ物にならない位には広い。だが……勇者は知っていた。
「そこ毒の沼地とかばっかだろ!」
「ギクッ」
図星を突かれた。空気が震えた。正に魔王は虚を突かれたのだ。ああ……調子が狂う。一体なんなのだろうか。これ以上魔王のペースに合わせているとおかしくなる。けれども魔王は。
「ま、まて。あと100通り条件を用意してある」
「は、はあ?!」
「よし、行くぞ!」
ーーーー
ーーーー
「…………っは?!」
目が覚めるとそこは宿屋の中。……夢か。そうだ、まだまだ旅は長い。魔王など遥かに先の事。にしても……嫌な夢を見た。額に浮かんだ汗を拭いながら思う。
「ど、どうした。うなされていたのか?」
横を見ると仲間が心配そうに見ていた。いや、何でもない。そう勇者は返す。しかし、随分訳の分からない夢を見ていたものだ。……しかし。
「……1000万分の1は少な過ぎだよなぁ」
結局、頭に浮かんだこの想いは魔王を倒すその日まで消える事はなかった。