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魔法でよくね?  作者: 富士見の娘
魔法との出会い編
9/67

灼熱の隠れ里と儀式

―第9説 灼熱の隠れ里と儀式―


「うげぇ………。」


選也は思わず口を開いた。

それもそのはず、男が連れてきたその場所には、人知を越えた光景が広がっていたのだ。


足元で赤々と点滅を繰り返す、異常に粘度の高い溶岩。その上に螺旋状に作られた棚のような居住区。それから、天に空いた大穴の中には外と同じく青い空が続いている。


そう、選也が立っているのは紛れもなく、活火山の中だった。


そんな関心と不安の混じった心情で、辺りを見回す選也と、男の元に若い男が駆け寄って来る。


村長むらおさ! 」


大男は若い男の方に身体を向けて、落ち着いた声で答えた。


「野田、どうかしたのか。」


野田と呼ばれた若い男は、大男の言葉に背筋を伸ばしてから、慌てた様子で続けた。


「侵入者が現れて、祭壇が! 祭壇が崩れて………! 」


「なに!? 」


野田のその言葉に、大男も表情を変えた。

選也は男が急に大きな声を出したのに驚いて、


(祭壇、え、なにそれ? )


と後ずさってしまった。

すると、不気味な音と共に後ろに動かした足に熱が伝わる。


「あづっ!! 」


どうやら、足元の溶岩にはその熱を保った部分もあるようだ。その悲鳴に、大男と野田は選也の方を向く。それから大男は、


「気を付けろ。死ぬぞ。」


少し呆れたような声で、選也を注意した。選也は冷や汗を流しながら、男に叫ぶ。


「死ぬんですか!? 」


野田は選也の存在にそこでやっと気づいたのか、大男の横から顔を出しながら、訝しそうに選也を見た。


「村長、彼は? 」


大男は手を顎に当てて、そこに生えた白髭を少し撫でてから野田に答えた。


「彼は野次馬のために遙々都会からやって来た、エセ魔道師だ。」


「しかも、なにそのふざけた説明!? ちゃんと紹介して下さいよ! 」


選也は予想外の男の言動に両手を胸の前で、掌を上にして、指を軽く折って構える。野田はその様子を見てからぽつりと呟いた。


「やじうまどうし………。」


「あんたも乗るんかい!! しかもちょっと語呂いいのが腹立つな! 」


選也はなんか緊張がぶっ飛んだという。

野田はなんで選也に怒鳴られたのか分からないのか首をかしげてから、思い出したように大男の手をとった。


「ああ、そうだ、そんな事より、祭壇に早く来てください! 」


「そんな事より!? そう思うなら最初からスルーして下さいよ! なんで一旦ボケたんですか! 」


と頭を抱える選也を残して。


「てっ! ちょっと待って下さいよ! ねぇ! 何も聞いてないんですけど!! 」


選也は慌てて二人の後を追いかけた。



彼らを追った先にあったのは、祭壇というより、複数の弧状石碑が合体した、蕾のような異様な建造物だった。外側から剥がれるように土台が溶岩に沈んでいってはいるが、いまだにそれらの石碑の上には生き物のように脈打つ、複雑な単色の紋章が重なり、それが独特のグラデーションを産み出している。


選也はその光景に見入られるように、足を止めた。すると前から、


「まずいな。」


と大男が囁くのが聞こえる。

男の囁きに続くように、野田がおずおずと大男に訊ねた。


「どうしましょう。」


男は苦い表情のまま、早口に指示をした。


「状況は悪いが、侵入者の姿はもう見えないようだ。今すぐ《継続の儀》を行うんだ、出来るだけ人を集めろ。」


「分かりました。」


野田はそれに一つ返事で答えると、螺旋を駆け上がっていった。


「俺も、なにかしますか? 」


選也は彼等のただならぬ雰囲気に男に声をかける。男は選也の方を見て、首を振った。


「何もするな。お前に手伝えることはない。奴等に見つからないように隠れてろ。」


「でも………。」


と選也は食い下がろうとしたが、大男は取り合わず、祭壇の近くに走り寄り、詠唱を始めた。


選也は立ち尽くしたままそれを見ていたが、すぐに思い直して、その横に並び、男を見た。


(詠唱が聞こえる。魔法と同じように、俺にだって出来るはずだ。)


それから、選也は隣から聞こえる声を、じっくり頭の中で反芻し、その呪文を口から吐き出す。しかし、


「でない………。」


魔方陣は形成されなかった。


(なんでだ? くそっ、もう一度。)


そこに、声がする。


「祈るんだ。」


選也が声の方を向くと、大男が選也の方から見える方の片目をあけて此方を見ていた。男は続ける。


「信仰心が無い者に《神術》は使えない。術を使いたければ、神のお力を信じるんだ。」


「信じる………。」


選也は神様というものを必死に想像して、当て付けのような信仰の言葉を唱えながら、もう一度詠唱した。


だが、やはり魔方陣は出ない。


(やっぱ無理か………。)


選也はがっくりと肩を落として、深くため息をついた。


選也も、毎年初詣くらいは行く、でも神様なんて、一度も信じたことがなかった。いや、選也からしてみれば、信じようとすること自体、馬鹿らしかったのだ。


どうして、姿も見えない、声も聞こえない、存在しているかどうかさえ危ういものを、信じられるだろう? 人を助けてくれるから? 自分達がいつ、彼らの助けを受けた? 人を助けてくれたのは、いつだって、人を救おうと、前に進もうと奮闘した、人間自身だろう?


だから選也には、男の「信じろ」という言葉が、やけに難しく聞こえた。


(神様を信じるって、一体、どんな気持ちなんだろうな。)


しかし、そんな冷めきった思考の選也でも、信じたい「人」なら沢山居る。

親、兄弟、教師、クラスメート。

それから―――親友の秀真。


そして、そこに思い至ると、選也は、目の前にはいない親友に、心の声で語りかけた。


(俺は神よりお前を信じたいよ。そのために、知りたいんだ。都市のこと。魔法のこと。お前のことも。)


そんなことを考えていると、急に目の前に、火が付くように、魔方陣が出現した。


「え? 」


そして、それは大きな光となって火山全体を照らす。


「出来た………? 」


選也は唖然として空を見上げた。

男も驚いた様子で、選也の方を見る。


祭壇の崩壊は、止まっていた。

選也はなんともいえない達成感に胸を踊らせる。


しかし、喜んでばかりはいられないらしい。


「あららー。直っちゃったかー。」


それは多分、崩壊の原因を作った張本人で、《魔道都市》の人間。


「もっと派手に壊しておけば良かったかなぁ。ま、君たちの術が見れたからこれはこれでいっかー。」


彼は自己完結する言葉を並べて、火山の壁に突き刺さった大きな機械の腕に座っている。大男はその姿を捉えると、近くの燃えたぎる溶岩に魔方陣を浮かばせて、そこから男が座る腕に火柱持ち上げた。


機械の腕は無惨に融解するが、眼鏡の男はその太い腹に似合わず、ひらりと腕から飛び降りて火柱をかわすと、その下に待ち構えていた浮遊する歯車状の台座に飛び乗った。


そして、男は歯車に浮き上がらせた魔方陣からパソコンを取り出すと、楽しそうに笑う。


「それに、もっかい壊せばいいだけだもんね。」


大男はパソコン魔道師を睨みながら、小声で言う。


「まだ中にいたのか。」


この展開上、戦闘は避けられないだろう。選也も腕を男に向けて構えて、戦う準備を整える。


だが、そのまま戦闘にはならなかった。


「村長! 」


そこに野田と彼が呼んだ4人が合流したためだ。パソコン魔道師は「ふうん。」と感心するような声をあげると、言った。


「これじゃ僕が不利かな? 」


そして、その言葉と共に、4本の浮遊する機械の腕を呼び出す。それから、


「フィールドを整えないとね。」


と呟くと、その全ての腕の掌に魔方陣を呼び出して、そこから水を噴射し、そのまま、スプリンクラーのように歯車の周りを回転させた。


それを打ち落とそうと、大男を含めた、村の人間たちが赤々と光る溶岩に魔方陣を浮かばせて、火柱を吹き上げる。選也は自分の魔法を打ってみたが、とても届かない。それに加えて、さっきの神術のせいなのか、異常なほどに疲労感を感じる。


(なんだよ、ちくしょう。)


男はパソコンのキーを手早く叩きながら、歯車を移動させ、村人の神術を悠々と避けた。


すると、見る間に溶岩は熱を失い、灰色へと変わっていく。そして、気がついたときには村の人間の魔法はすっかり止んでしまっていた。


(いったいどうしたんだ? )


戸惑う選也と、


「ああ、神火が………! 」


と怯える村人に魔道師は言う。


「さて、始めようか。」


声に呼応するように、更に数本の腕が火山の壁を破って現れた。


(ああ、俺、ここに来てからこんなんばっかり………。)


選也は嘆きながら、拒絶する身体を抑えて、詠唱を始めた。


―つづく―

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