表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法でよくね?  作者: 富士見の娘
魔法との出会い編
7/67

二人の乱入、乱れる戦況

―第7説 二人の乱入、乱れる戦況―


(苦しい………。)


身動きの取れない選也は、死を覚悟した。


しかし次の瞬間、


男はなぜか首を絞めていた手を急に離し、選也を地面に突き飛ばして、その場から距離をとるように飛び退いた。


(え? )


意図せず解放された選也は驚いて、尻餅をついた姿勢のまま、周囲を見る。すると直ぐに、自分のいる地面に、大きな影が落ちているのに気が付いた。


(これってヤバくない? )


選也が危機を感じて、咄嗟に影の外へ転がり出ると、直後、影のあった場所には、大きな偶蹄が叩きつけられる。


選也は地面に窪みを作ってしまう程の衝撃に耐えながらも、その全貌を確認するために、目線を上へと動かした。


そこには、高さだけでも4メートルはあるだろう、巨大な豚がいた。


その豚は、白く淀んだ粘液を口から途切れ途切れに垂らしながら、焦点の定まらない虚ろな目で、こちらを見ている。


(え? なにあれ………。)


更に、そんな思考停止しかけた選也に追い討ちをかけるように、


辺りに銃声が響いた。


選也が驚いて、それが聞こえた方に目を移すと、そこには妖艶な雰囲気を纏った、黒いドレスの女が立っていた。女は片手に銃を持ち、その周囲には防御陣が浮かんでいる。

彼女は銃口を向けたまま、大男に、魔性を感じさせる声で、語りかける。


「余所見は駄目でしょ? 」


大男は無傷のようだが、先程まで手に持っていたランタンは火が消え、遥か後方に転がっている。


男はランタンを拾おうとはせず、女を憎らしそうに見つめた。


選也がそうやって大男と銃女の方に意識を向けていると、今度は頭上から声がする。


「そーだよー、余所見は悪い子ー。」


そして、声に少し遅れて、豚の口が選也に覆い被さった。


選也は慌てて火の魔法を豚の舌めがけて放つ。


豚は目を大きく開けて、選也から顔を離した。


するとまた、頭上から声がする。


「あー! 食べるの邪魔したー! チビスケちゃん悪い子! 」


それは幼い少女の声で、豚の背中辺りから聞こえてきた。


選也がよく確認すると、そこには、10歳前後の、可愛らしいピンクの服を着た女の子がのっている。


少女は続けて言った。


「テリヤキ! 悪い子は踏み潰しちゃえ! 」


そして、声に従うように、最初と同じく、豚の足が選也に向かって降り下ろされる。


選也は今度は雷の魔法を放って、その足を退けた。少女は足が当たらなかったのを見ると、頬を膨らませてご立腹の様子。


「もう! なんで邪魔するの! 悪い子! 」


それは、なぜ選也が自分の攻撃を避けるのか、本当に理解できていないようだった。


(リアルな狂人きたー! )


そんな狂人は頭をかきむしる選也を狙って、また攻撃を仕掛けてくる。


選也はそれを迎え撃つように、また呪文を詠唱した。選也の手の前に産み出された魔方陣からは水が噴射される。


豚はまた怯えるように体を揺らして、足を引っ込めた。


(うーん、寄せ付けないことはできるけど、やっぱり効いてないみたいだ、狙うなら上の人間か。)


そう思った選也は今度、腕を上にあげて、少女の方を狙う。だが、射程距離が足りず、彼の攻撃は自身が被ることになった。


(つめたっ! )


狂人はそんな水が滴る選也を無視して、標的を大男に移す。


大男は逃げ回っているが、既に何発もの銃弾を受けて、ボロボロだ。無傷の選也よりも、彼の方が狙いやすいと思ったのかも知れない。


「いっけー! 」


傷ついた男に、容赦なく少女の高らかな声と、豚の足が落とされる。


男はそれを後ろに飛び退いてなんとかしのいだ。選也は男の行動に疑問を持つ。


(なんであの人、さっきから魔法を使わないんだ? )


あの大男の魔法なら、最初に選也と距離を詰める時にやったように移動して、女との距離をとることも、選也がやったように豚を寄せ付けないことも出来る。なのに、男はそれをしない。


だが、仮にも今は戦闘中。それを長く考えてはいられなかった。


引っ掛かりを覚える、選也の思考を引き裂くように、少女は悲しそうな声をあげる。


「えー! こっちも悪い子なの!? ヒドイ! ヒドイよぉ! 」


銃女は少女に怒鳴る。


「ちょっと! アロロ、邪魔しないでよ!」


銃撃を意図せず妨害されて、怒っているようだ。しかし、少女の方はそれを気にする素振りを見せない。


「アロロ、邪魔してない! アロロ、こっちがいい! 」


それに呆れてしまったのか、女の方が折れて、選也の方に銃口を合わせた。


「もう、ワガママなんだから! 」


(え? ちょっ、まっ! )


選也は慌てる。

当然だ。豚の遅い攻撃は避けられても、銃弾なんてとても避けられるものじゃないし、選也が扱う低級の魔方陣では、銃の威力を殺しきれない。


だが、そんな選也を待ってくれる訳もなく、女は引き金を引いた。


選也は頭が真っ白になった。


そこに、後ろから衝撃。

選也は前のめりに地面に倒れこむ。


そのお陰で、銃弾は選也を貫くことなく、選也の頭上を通りすぎた。


衝撃は、豚から逃げる大男の身体が選也にぶつかったもののようだ。


その証拠に、衝撃に遅れて豚が選也と女の間を通る。女は叫ぶように少女に言った。


「邪魔しないでって言ったでしょ! 」


どうやらまた少女に怒っているらしい。

選也は銃撃が止まったその隙に、何か無いかと視線を必死に走らせた。


そうして、選也がなんとか見つけたのは、頭上にあった仕掛けの弓矢。選也は目線を少女に叫ぶ女に向ける。


(矢を撃っても、防御陣に防がれるよな。)


(でも………。)


選也は顔を上げて、女の後ろの騒ぎに目を向けた。そこでは大豚が男を追い回して走っている。


(あれを使えば、なんとかなるか? )


思考を廻らせていられる時間はそんなに無い。女はついに少女に怒鳴るのをやめ、こちらを向く。


(時間がない、やろう。)


選也は魔法で氷の塊を飛ばして、弓矢を打ち落とすと、それを片手でキャッチし、もう片方の手を銃女の方へ向けた。


―つづく―

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ