魔道都市の所在と嘘
―第5説 魔道都市の所在と嘘―
「………って言ってもなぁ。」
選也は自室でパソコンをいじりながら、ため息を漏らす。
「魔道都市なんておとぎ話みたいなのの所在が分かる資料なんてないんだよなぁ。」
彼は今、《魔道都市のあった場所》について調べていた。なぜかと言えば、
「何が起きたかを調べるのには、現場に行くのが一番手っ取り早いのに。」
という理由からだった。しかし、かれこれ4、5時間は調べているが、魔道都市の存在や魔法の実在をほのめかす書き込みや記事はあっても、場所の記述はなかった。いや正確にはあったのだが、東西南北ありとあらゆる所にそういう噂があって、本当の場所だと思える場所が無かったのだ。
「無理かぁ………。」
選也はついに探すのに疲れきって、座った椅子をくるくる回して、天井を見上げる。
彼は暫くそうしていたが、椅子が何かにぶつかった気がして、動きをを止めた。ぶつかったのは床に投げ捨てるように置いてあった、道徳の教科書だった。回してる内に、椅子がは少しずつ移動してしまったんだろう。
そこでふと選也は思い出す。
「確か昨日の授業で………。」
そして、それはあっさり見つかった。
魔道都市という伝説があるのは、《仄照村》という場所らしい。さらにご丁寧に地図までついている。
「一時間あれば行ける場所だな。」
選也は初めて道徳という科目に感謝し、出かける準備を始めた。
※
昼休みのチャイムが鳴った。
さっきまで授業を受けていた生徒たちは弁当を片手に持ち、友人を誘って、または一人でそさくさと教室を後にする。
選也はというと、自分の机に突っ伏して、寝息を立てていた。
昨日、夜遅くまで調べものをしていた上に、はりきって準備までしてしまったのだから当然だろう。
「おーい、選也。飯食いにいこうぜ。」
しかし、弁当を抱えて教室に入ってきた秀真は、眠る選也をいつものように誘う。
当然だが、秀真の右腕には仰々しく包帯が巻かれている。寝ている選也を見た秀真は左手に持っていた弁当を選也の横において、選也を揺すった。
「選也ー、起きろよー! 今起きれば特別に、もれなくピーマンをプレゼントするぞ! 」
すると、その手を急に掴まれた。
「それ、嫌いなもの押し付けてるだけじゃねーか。」
掴んだのは、勿論選也だった。そんな選也のツッコミを無視して、秀真は弁当を左手に持ち直し、通常運行な笑顔を浮かべる。
「おー、起きたか。飯食いにいこうぜ。」
選也はやれやれと自分の机の横に掛けてある弁当袋を持つ。
そして立ち上がろうとしたとき、「ん? 」と秀真が目をしばたかせた。
「それって何処かの観光案内? どっか行くの? 」
秀真が目をつけたのは、選也の机の中から僅かに顔を覗かせていた仄照村のパンフレットだった。これは昨日、下調べ代わりに選也が印刷したものだ。
「いや、別に? 」
秀真に問われた選也は咄嗟にパンフレットを机に押し込み、嘘をついた。
なぜそうしたのか、彼自信でもよくわからなかったが、そうしなければいけない気がしたのだ。
秀真はなんだかそわそわした選也を不審に思ったのか、首を傾げて、少し考えてから言った。
「あ、もしかしてデート? 」
変に否定してもおかしいと思って、選也は適当に頷いた。
「え、まぁ、そんなとこ? 」
秀真も今度は疑問には思わなかったようで、
「彼女いたのかよー、いえよー。言ってくれれば、彼女にお前の携帯からセクハラメール送りまくって関係悪化させてやったのに………。」
と心底残念そうに言う。
「いや、なんでだよ! なんで、そんな陰湿な嫌がらせしようとしてんだよ! 俺なんかした!? 」
「お前だけにいい思いはさせない、リア充爆発しろ!そして、土に還れ! そして、綺麗な花を咲かせてろ! 」
「もうやだ、なにこの非リア! 」
※
そんなろくでもない会話をしたのを選也はなんだかとても昔のように思い出す。
今思えば、あんなやつでも、連れてくるべきだった。しかし、後悔しても、もう遅い。
「………。」
(本気で迷った。)
仄照村のバス停に置いてあったのは、10年以上前の古地図で、それを頼りに歩いた選也は早速、帰り道も、進む道もを見失っていた。
―つづく―