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魔法でよくね?  作者: 富士見の娘
氷城の獣編
30/54

氷洞の決戦

-第30説 氷洞の決戦-


獣は透き通った身体を、不自然なほど緩やかに動かして、威圧するような目で選也を見る。


向こうは既にやる気だ。


選也はまだ痺れを感じる脚を気にしながらも、出来る限りの強がった声で獣に語りかけた。


「はは、なんだよ、強行突破したから怒ってるのか? 」


智美は最初の攻撃で尻餅をつき、すがるように獣を見ている。恐らく、この様子では智美の助けは期待できない。


やるしかない。


獣は挑発に乗った訳では無いだろうが、選也の言葉の後、太い足で氷を蹴った。


「げっ! 」


選也は予期せず動いた獣に慌てて、さっき自分の胸の前辺りに用意していた魔方陣から火のついた剣を抜いて、後ろにひき、向かってきた獣に突き出す。


剣は獣に当たった瞬間、猛火を吹き、その全身を包むが、獣の足はまだ止まらなかった。


獣は選也に向かって両前足を振り下ろす。


あまりに早い攻撃、選也は避けられないと判断し、威力を少しでも抑えるために防御陣を作った。


凄まじい衝撃と、全身に伝わる痛み。

獣の一撃は選也の立っている位置を中心にして、氷のトンネルにクモの巣状の亀裂を生み出す。


選也はつぶされそうになりながらも、防御陣の上に更に二重の魔方陣を呼び出して、のし掛かってくる獣に最大出力の火炎放射をして追い払った。


(あんなの、まともに食らったら負傷どころじゃなく即死じゃん! )


嫌な汗が選也の頬を伝う。


智美はまだ放心状態で、うなり声を上げる獣を見つめたままだ。


獣は選也に溶かされた身体を、下に魔方陣を浮かばせて回復し始める。


「させるかっ! 」


選也は剣を握り直し、それを身体の横で床に引き摺るように持って、獣の前まで走り、一気に切っ先を持ち上げた。


獣は回復に集中しているのか、剣擊を回避しない。


選也は剣は獣の左前脚を切り落とした。


「よしっ! 」


しかし、やはり氷で出来た生き物だ、血も流れなければ、痛みに叫びを上げることもない。


ただ目線を選也に向けて、唸った。


(くそっ、思ったほど効いてないのか。)


選也は次の行動のために、体重を後ろに動かす。


一方で智美は、そこでようやく状況を理解し始めたのか、足に力を込めて、上半身を前に倒し、手を前につき直して立ち上がった。


すると、今まで動かなかった物が動いたことが気になったのか、獣は顔を智美に向け、狙いを定めて、左右に飛びながら接近する。


(まずい、間に合わない! )


選也はすぐに智美を庇いに行こうと思ったが、一旦距離を取ろうと後ろに飛び退き始めていた身体は言うことを聞かなかった。


智美は軽く目線を持ち上げてから、再び落として、氷の壁に触れる。


(ちくしょう! )


選也は目を瞑った。


瞬間、硝子が砕け散るような耳に刺さる音と、それに続く何かがぶつかり合う連続音。


「え? 」


目を開けると、獣は地面から生えた電柱ほどの太い氷柱に腹を貫かれ、それとは別に大量の細い氷柱も突き刺さり針ネズミ状態になっている。


「ごめんね。お兄ちゃん。」


智美は小さな声で詫びた。

あれをやったのは智美なのだろう。

選也は繋がらない前後の記憶に混乱しながら、心の中で叫んだ。


(いや、自分の兄に容赦なさすぎだろ!さっきまでの動揺はなんだったの!? )


智美は唖然とする選也に気付いて、声をかける。


「選也くん、大丈夫? 」


選也は自分に向けられた声に、小さく肩を動かした。


「あ、え、大丈夫、ですけど………。」


「そっか、良かった。」


智美はそれを聞いて安堵したように、息をつく。

選也はその反応に、小声で呟いた。


「お兄さんは大丈夫じゃないっぽいんですが………。 」


智美はそれに気付いて、聞く。


「何か言った? 」


選也は目を反らしながら答えた。


「いえ、ナニモイッテマセン。」


「なんで片言なの? まぁ、いいけど。」


「いいんだ………!? 」


「付き合ってくれてありがとう。」


「しかもあっさり解散する流れ!! 」


選也は頭を抱える。


「お疲れ様。」


しかし、そうやって二人のやり取りが終わったちょうどその時、轟音が響いた。

選也は目線の先にいる智美に言う。


「………ありゃりゃ、これは疲れるのはこれからってことかな。」


音源は獣。


獣は自身に刺さった氷柱を全身で飲み込んで肥大化し、背中からヤマアラシの様な刺を生やした。


智美は壁から氷の鎌を取り出して構え、選也に言葉を返す。


「そうみたい。」


獣との戦闘の2ラウンド目が始まった。


-つづく-

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