都市の非道と忠告
―第12説 都市の非道と忠告―
「それでも、納得できません。」
選也はあの魔法使いを倒した後、大男―村長から、色々と説明をされた。
村と魔道都市の因縁。
魔道都市の人間の非道な行い。
そして、男の説明を裏付けるように、村の中では、手足や目など身体の一部を失った女性や子供、老人がいたし、例の石碑には、都市によって殺された犠牲者達の名前が、収まりきらないほど彫り込まれていた。
それでも、選也には、魔法使いを殺したことが納得出来なかったのだ。
村長はその「納得できない。」という言葉にため息をつきながらも、村の隅で座り込んでいる彼に、お茶を出す。
「なにが疑問なんだ。」
選也は、そう聞かれて、少し、考えてしまった。なにが駄目なのか、自分の中でも、よく分からなかったのだ。行き場を失った目線は、男が出した茶の表面に立つ波紋に向いた。
男の理屈は通っている。
《殺されそうになったから、殺した。》
法律にも、正当防衛という考えがあるし、理論的には問題はないはずだ。加えて言うなら、もうとっくに死刑になっていてもおかしくないほどの人間を殺してきた相手だ、過剰防衛だと叫ぶのも、むずかしい。
(でも、はいそうですかって簡単には言えないだろ。)
村長はそうやって黙ったままの選也に、落ち着いた声で語りかけた。
「お前は、目の前で身近な人間が殺されていないからな。実感が沸かないんだろ、いいことだ。無理に理解する必要はない。」
それから、選也の隣に座って、こう続けた。
「もう、都市を探すのはやめろ。」
男の言葉は短いが、そこに込めた思いは、文字数よりもずっと多かっただろう。選也にも、それははっきりと伝わった。だからこそ、胸につっかえた靄を吐き出せず、ただ飲み込んだ。
「………あの儀式って何だったんですか? 」
そして、その思考を止めるために、話題を変える。男は、それに対して疑問を投げ掛けるようなことはせず、すんなり答えた。
「"継続の儀"は、ここに住み続けるための神術だ。人が住めないような場所を住みやすい場所に変える術だと思ってくれればいい。」
「あんな疲れる術を、しょっちゅう行ってるんですか? 」
選也はまだ整わない息から、先程の疲れを思い出す。男は首を振った。
「"継続の儀"は、かなり長期的な術だ。特別なことがない限り、一年は続く。それに、そんなに負担の大きいものじゃない。」
「俺がもやしだって言いたいんすか。」
選也は男の言葉にムッとする。男は苦笑いを浮かべて、選也をたしなめた。
「そうは言ってない。あれは本来、10人程度で行うんだ。今回は、君が先走ってしまったが。」
しかし、選也は益々苛立つ。
「はぁ!? 貴方も隣でやってましたよね!? 」
男は額に血管を浮かばせる選也の疑問に、困った顔で答えた。
「あれは祭壇が崩れないように保っていただけで、別に儀式をしていたわけじゃ………。」
選也は男が弱った様子を見せたため、ここぞとばかりに畳み掛ける。
「そんなの知りませんよ! てか、俺も同じ呪文唱えましたよ!? なんで違う術になるんすか! 」
だが、男は選也の予想とは違い、きょとんとした表情を浮かべた。
「………魔法は全部呪文が違うのか? 」
「!!? 」
魔法の発動、最早そこから選也と認識が食い違っていたらしい。選也はおずおずと男に聞く。
「あの、まさか、神術って………。全部同じ呪文だったりします? 」
男はあっさり答えた。
「ああ。」
「くっそ楽じゃないですか! 」
選也はその答えを聞いて一瞬、なぜか自分が物凄く無駄なことをしてきたような感覚に陥った。しかし、すぐに思い直す。
(確かに初級の本でも結構な呪文数があって大変だったけど、「火」が必ずしも近くにあるとは限らないし、魔法を覚えたのは無駄じゃないか。)
そんな風に、一人で頷く選也に、今度は男が質問をした。
「それで、これからどうするんだ。」
選也は尋ねられて、やっと重要なことを思い出す。
「あ、そういえば、俺のバッグ火の海の底じゃん! 宿の予約券とICカード地獄の炎に抱かれて死んでるわ、どうしよう! 」
男は慌てふためく選也を見て、提案した。
「それ以前に、この時間じゃ、もうバスがないな。必要なら、私のところに泊まっていくか? 仄照の家なら部屋数があるが。」
「え、ありがとうございます。 」
選也はその提案に素直に頷く。
しかし、選也が彼の家に泊まることはなかった。なぜなら………。
「選也ー! おーい、どこだー? 」
という間の抜けた声が、火山の外から聞こえて来たからだ。
―つづく―




