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すべてはあなたの為に  作者: 飛鳥 実華
9/18

8話 ドレス

ブックマーク登録、評価ありがとうございます。励みになります。

今回は話の展開上、いつもより文字数が多いです。

翌日は朝から慌ただしかった。

朝食後には用意されていたヒナシアの花束をマリーナが抱え、ガウェインを連れて聖堂に向かう。

近づけば近づく程に心が穏やかになっていく。


わたしにとって聖堂は特別な場所だ。

とても落ち着くし安心する。

ここでならなにも心配はいらない…なぜかそう思える。


聖堂にはわたしが生まれたときに三女神様から贈られた守護石が祀られている。

光の加減で色を変える不思議な石。

これがあることによって三女神様たちのお声が届きやすくなっている…らしい。

他のどの教会よりも聖堂よりも三女神様たちと繋がり深い場所になる為のものと聞いている。


「三女神さま。ヒナシアのお花がとてもきれいに咲きました。是非見ていただきたくって!」


花束を祭壇に起き、跪く。

わたしの後ろでマリーナとガウェインも跪き、両手を組んで瞳を閉じる。


(三女神さま…ルナマリアは狭い世界でしか生きてこなかったのだと実感しています…。このままではいけないと思うのですが不安です)


組んだ手に力が入る。

あまりマイナスな事は言ってはいけないとお父様に言われていたのに…どうしても不安がでてしまう。


(ヒナシアのお花がこのようにきれいに咲くことは良いこと。不安に思うこのなんてなにもないとそう思いたいです。ルナマリアは、国のみんながしあわせでいてくれるとうれしいです。みんなが笑顔でいられるように三女神さまたちに見守っていただきたいです)


(せかいの しあわせは るなまりあが しあわせなこと)


(るなまりあが しあわせ なら みんな しあわせ)


女神の声ではなく幼いこどものような高い声が脳内に響く。

これは精霊の声だ。

部屋にいてもどこにいても精霊たちは側にいるが声を出すことが出来る精霊は少ない。

わたしが言っていることは通じているので意思疎通にそんなに困らないが声を発するのはそこそこ上位精霊にならないと厳しいそうだ。


でも聖堂では少し勝手がちがう。


三女神様の祝福を受けた場所ということもあり精霊たちの力を増す効果があるらしい。

それ故、普段ならば言葉を発することが出来ない精霊たちとも会話をかわすことができる。


(ルナマリアだけがしあわせではだめよ…?ルナマリアはお父様にもお母様にもクロイツ兄様にも…マリーナもガウェインも…みんなみんなしあわせでいてほしいわ)


(みんな るなまりあが しあわせ だと よろこぶ)


(もう!だからちがうの!みんながしあわせでいてくれることが大切なのよ!)


わたしだけが幸せではだめだ。

わたしはわたしの大切な人たちに幸せでいてほしい。

王宮から出たことがないこともあり…正直まだ王女としての自覚と言われると薄い。

国民にも幸せであってほしいと思うが身近な人たちの幸せを願う気持ちのほうが大きいのが正直なところだ。


(三女神さま…ルナマリアは…わがままです。わがままを言ってみんなを困らせています。でも…それでも兄弟仲良くしたいという気持ちを捨てきれません…。どうか見守っていてください…)


肩を優しく抱かれた気がした。

頭を撫でられた気がした。

祈る手を包まれた気がした。


お言葉は頂けずともそこに存在を感じることができる。


恐れ多いことだが…わたしにとって三女神様は姉のようであり母のようである存在だ。

いつも優しく見守ってくださる…。


「さぁ…お部屋に戻りましょう。お母様がお待ちだわ。もうマダム・クリオッティはいらしているかしら?」


「朝一で来るようにと陛下の名で連絡が行っているはずですので…もうお部屋で生地を広げているかもしれませんわね」


「では急いで戻りましょう。無理をいって来てもらっているのだから…」


急ぐといっても走る訳にはいかないので少し早く歩くことぐらいしか出来ないのがつらいところだ。

それに五歳の足には限界がある。早く歩いているつもりでも大人の歩幅と比べてしまうと…。

しかし抱えてもらう訳にも行かないのでわたしに出来得る最高速度で早歩きをするしかない。


部屋に戻ると…色の洪水状態だった…。

いろんな色の生地が並べられお母様ともう一人の女性がなにか話し合っているところだった。


「戻ったのねルナマリア」


「はい。ごきげんよう、マダム・クリオッティ。わがままをいってしまってごめんなさい…」


マダム・クリオッティは赤毛に灰色の瞳を持つ少しきつめの顔つきの美女だ。

彼女が手掛けるドレスはいつも流行の最先端。ドレスを作ってもらおうにも予約待ちでなかなか手に入らないと聞いている。


「とんでもございませんわルナマリア王女殿下。わたくし…実はルナマリア王女殿下の為に最高の生地を集めておりましたのよ。ですからすぐにでも取り掛かれますわ」


誇らしげに胸を張るマダム・クリオッティの言葉が一瞬理解できなかった。


「え?集めていたって…どうして…?」


「マダム・クリオッティは貴方も五歳でお披露目になると思って用意をしてくれていたのですって」


「ええ、ええ。わたくし、ルナマリア王女殿下のお披露目用のドレスは絶対に作らせて頂きたいと常々思っておりましたからね。ですから最高の生地を各国から集めておりましたのよ。ですが…わたくしにお声がかからない!まさか他のものが…?と思いきや誰にもお声がかかった様子はない…。ルナマリア王女殿下のお披露目はまだされないのかしらとやきもきしていたところに昨夜のご連絡ですもの!喜々として参上いたしましたわ」


滑らかに青く光る生地を抱えてくるくると回るマダム・クリオッティを見てまるでミュージカルを見ている気持ちになった。

マダム・クリオッティは時々舞台役者のよう。


「うれしいわ。ルナマリアは、マダム・クリオッティのドレスが大好きよ。いつもとっても素敵なドレスを作ってくれるもの」


「光栄ですわ。さぁさぁルナマリア王女殿下、こちらへ。生地とデザインを決めなくては!わたくしデザイン画を多数お持ちしましたのよ」


十枚以上あるのではないだろうか…これは確かに以前から描きだめてくれていたのでは…と思う量だ。

そしてどれも本当に素敵…。

繊細なレースを多数使ったデザインが多く、やはり五歳ということもあって可愛らしいイメージのデザインばかりだ。


「わたくしとしてはこちらのデザインをおすすめしたいですわ。そして生地は是非こちらを」


薄い紫色のその生地は、先ほどマダム・クリオッティが抱えていた青い生地の色違いのようだった。

滑らかな光…これは…前世でいうシルクではないだろうか…?


「とっても綺麗…。触った感触もとても気持ちがいいわ!さらさらしているのね!」


「まぁ…こんな生地は初めて見たわ…」


「西方のリゲロン国というところで売られているシルクという生地ですの。まだデーベルゲン王国には出回っていない生地ですので…ルナマリア王女殿下のお披露目にぴったりだと思いましたのよ」


やはりシルク…。前世の知識と呼び方が違うものもあれば同じものもあって少し混乱してしまう。

リゲロン国というのもどこだろう…。まだ講師をつけて頂いていないからまわりの国のことすらよくわからない…。


「そうね…ルナマリアに相応しい生地だわ。あとは色だけれど…そちらの青と薄紫だけなのかしら」


お母様も手触りが気に入ったようで生地をゆっくりと撫でてその感触を確かめている。

確かに他の生地とちがってさらさらしていてとても気持ちがいい…。

でも絶対にすごく高いと思う…。かなり貴重なものなのではないだろうか…。


「そうですわね。実のところあまり色の展開がまだございませんの…。こちらの二色を陛下の瞳の色と王妃様の瞳の色と思ってご用意させて頂きました」


「どうしましょう…陛下のお色をまとうほうが素晴らしいと思うけれど…陛下からは装飾品を頂くことになっているの。ですからそちらで陛下のお色を頂いたほうがいいかしら…」


「こちらは薄紫といってもどちらかといえばピンク寄りですわ。とても淡い紫ですからね。愛らしいルナマリア王女殿下に相応しいかと。青は少し大人っぽいかもしれませんわね」


どちらもとても素敵だけれど確かにこちらの生地は薄紫というよりピンクに見える。


「ルナマリアはこちらがいいわ。淡い色のほうが好きよ」


「そうね…ではこちらの生地にしましょう。デザインも…こちらで…そうねパールを縫い付けるのはどうかしら?」


「そうですわね…少し散らばめるのも美しいでしょう。レースとパールで光の加減で姿がかわる美しいドレスに仕上げてみせますわ!」


時間がないのになんだかとても手の込んだドレスになりそうで…お母様とマダム・クリオッティがデザインについて話し合う姿に不安になった。

こんなに手が込んだドレスは初めてだ。普段着用のドレスしかいままで仕立てたことはないからそこまで華美なものは持っていない。


もうすぐだ。


はじめてのパーティー。

はじめて…王宮を出る。

はじめてたくさんの人に会う。

はじめてお兄様とお姉様にお会いする。


はじめての事がたくさん。


わたしの世界は広がっていく。












.

ご覧頂きありがとうございました。

もう少しでナイゼルとイザベルをだしてあげられそうです。


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