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すべてはあなたの為に  作者: 飛鳥 実華
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7話 魔法のことば

ブックマーク登録、評価ありがとうございます。

感想もとても励みになります。本当にありがとうございます。

書きだめがない為、毎回違った時間帯に投稿申し訳ありません。

お茶のおかわりをいれてもらい、お兄様の勉学のお話や講師たちとの楽しい話をたくさん伺った。

そうこうする間に夕食の準備が出来たと侍女が呼びにきたのでクロイツお兄様と手を繋いで食堂へと向かう。


どきどきする。

どうやって話を切り出そう。

どんな順序でお話すればいいだろう。クロイツお兄様とのお約束のこともある。

クロイツお兄様のお顔もいつもよりも強張っている気がする。


扉をあけてもらうとすでにお父様とお母様は席についていた。


「おや、二人で一緒に来たのか?」


「ふふふ…本当に二人は仲がいいわね」


侍女に席をひいてもらい着席する。

すぐに紅茶が用意され、前菜が目の前に置かれた。


「今日はなにをして過ごした?父に教えておくれ」


「僕は今日は歴史の勉強と剣の鍛錬を。反応速度が上がってきたと褒めてもらいました」


「そうか、よく頑張っているようだな。お前が師事しているガレンツは我が国一番の剣の使い手だ。よく学ぶのだぞ」


「はい、父上。ガレンツ先生の教えはわかりやすいですし…あの強さに憧れます」


「怪我には気をつけるのですよ…?やはりどうしてもわたくしは心配で…」


「わかってますよ母上。僕だってちゃんと受け身だってできるんですから。なんたって最初は防御についてしか教えてもらえなかったんですし」


防御は大事だと言う話で盛り上がり、心配性なお母様のことをお父様が宥める。

どうしてもかすり傷などは絶えない為、お母様としては毎日心配でたまらないらしい。

お父様もお兄様も大怪我でなければ鍛錬上仕方のないことだと笑う。

心配しすぎですよと笑うお兄様の指は最近少し堅くなってきていることを今日も実感した。

手を繋いだ際、よくわかる。わたしの手はまだ五歳なだけあってぷにぷにしていて堅さなどどこにもない。


「ルナマリアは?ルナマリアは今日はなにをして過ごしたのだ?」


「今日はお庭をお散歩したの。ヒナシアのお花がとってもきれいに咲いていたのよ!お父様とお母様にも見ていただきたいわ。三女神さまにも見ていただきたかったけれど…今日は持っていけなかったから明日にでも聖堂にお持ちするわ」


「そういえば…侍女が言っていたわ。ヒナシアが綺麗に咲くことは吉兆。喜ばしいことね」


「そうだな。明日の礼拝時に持っていくといい。花束にして用意するように言っておこう」


そうだ。明日の朝、お祈りの時間に持っていこう。

聖堂にいくとすごく安心する。空気が全然違うように感じるのだ。

こう…日本人的感覚でいうと湯船につかってるような…。

今日感じたへんなもやもやもきっとなくなる。


「あのね…お父様…。ルナマリア、お願いがあるの」


勇気をだそう。言いづらくても言わなくてはならない。


「お願い?めずらしいな。どうした?」


お父様の目はとても優しい。

わたしを愛してくださっているとその目でその態度でその言葉で表してくださる。

だからこそわたしは生まれてから今までお父様の愛を感じなかった日はないし疑ったこともない。


「あのね…あの…ルナマリア…ナイゼルお兄様とイザベルお姉様にお会いしたいの」


その瞬間。

わたしでもわかった。空気が凍ったと…そう表すのだろう。

お兄様は苦しそうなお顔。

お父様とお母様のお顔は凍りついて…。


「突然…どうした。いままでお前の口からその名を聞くことはなかっただろう?誰かになにか言われたか?」


「いいえ…あのね、クロイツお兄様もルナマリアも第二だから…第一がいらっしゃる?ルナマリアにはお兄様とお姉様が他にもいらっしゃる?ってふしぎに思ったの。それではじめてお二人のことを知って…お会いしたことがないからお会いしたいなって…」


グラスをゆらゆらとまわしながらお父様はため息をつく。

お母様もフォークとナイフを下ろし、ナフキンで口をおさえた。


「そうか…そうだな…。なにも説明してこなかった…お前ももうそういうことにも気づく頃になっていたか…」


「だって…お兄様とお姉様でしょう…?会ったことがないなんて寂しいわ…」


「まだお前は幼い…。もう少し大きくなってからでよいのではないか?」


「もう少しっていつ?クロイツお兄様も五歳でお披露目されたと聞いたわ!じゃあルナマリアも今年はお父様の生誕パーティーに出席したいわ!そこでならお二人ともお会いできるでしょう?」


お父様は話を流そうとしていらっしゃる。

そう感じたから噛みつくように食い下がった。

このままだといつまでたってもお会いできないとそう思った。


「生誕パーティーか…。確かに皆五歳でお披露目としたな…」


「ですが陛下…生誕パーティーはもう来月…。ルナマリアはお披露目用のドレスは仕立てておりません…」


「ルナマリアのことは…まだお披露目する気はなかったからな…。まだお前には醜いものなど見せたくないと…そう思っていたんだがな…」


確かにドレスは用意していない。

もう来月のことだ…30日もない。仕立ててもらうとしたら仕立屋にかなり無理をしてもらうことになるだろう。

わがままだ。完全にわがままだ。

でもお兄様たちはみんな五歳でお披露目なのにわたしだけちがうというのもやっぱり嫌だった。


「でも…ルナマリアだけお披露目してもらえないのは…かなしいわ」


「そうか……エドワード、明日一番にマダム・クリオッティを呼べ。急ぎで最高のドレスを仕立てろとな」


うつむいていた顔を勢いよくあげる。

マダム・クリオッティは有名なデザイナーだ。いつもわたしやお母様のドレスを仕立ててくれる。


「かしこまりました。すぐに使いの者をやります」


「お父様…!」


「お前の頼みだ。叶えるしかあるまい。そのかわり…ナイゼルとイザベルと会うのはその日だけだ。それ以外に私の許可なく会うことはできない。その日に会ってからまた考えるといいだろう」


それでも…一度も会えないよりは前進だ。

お会いしたい。どのような方なのか知りたい。


「わかったわ…!大好きよお父様っ!」


「装飾品も…必要だな…。ベアンナ、明日はお前がついてマダム・クリオッティと打ち合わせを行うといい。ドレスが決まったら教えてくれ。装飾品は私が用意しよう」


「…かしこまりました陛下」


お母様の顔色は冴えない。

やはり…お母様を悲しませてしまったのだろうか。

不安に思うわたしとクロイツお兄様の目があった。


そうだ。


「あのね…ナイゼルお兄様とイザベルお姉様と仲良くしたいけどね…お父様の跡を継ぐのはクロイツお兄様がいいって思っているのよ。それは絶対かわらないわ」


お兄様との約束。

お母様が悲しまない為の魔法のことば。


先ほどの凍るような空気とは別で…でもまた空気がかわった気がした…。

凍りついた訳ではない。でも…なんだか居心地が悪い空気だった…。


「それは…」


何か言おうとして言葉を飲み込むお父様。

そんなお父様は珍しい。

お母様は目を丸くして驚いているようだった。


「ルナマリアはね、将来王様になったクロイツお兄様のことをささえるのよ。だから…だからね、ナイゼルお兄様とイザベルお姉様ともご一緒にクロイツお兄様のことをお手伝いできたらなって…」


もじもじとナフキンを手で遊びながら言葉を選ぶ。

なんて言えばいいのだろう。どう伝えればいいのだろう。


「そうか…そのように…考えているのか…」


「陛下…」


「よい。もとよりクロイツを王太子としてすでに決定している。変わらぬというだけのことだ」


お父様の言葉にお母様がほっとした顔をした。

お兄様も眉が下がってはいたが、どこか安心した顔をしていた。


お母様の頬は少し赤くなっていた。

先ほどまでよりも顔色がよくなって表情も柔らかくなった気がする。


お兄様の言う通りだった。

クロイツお兄様を王太子にと言うだけでお母様の悲しみは薄れたようだ。


「クロイツ。今までよりも更に励むがいい。お前は大怪我をすることも。大病にかかることも許されない」


「はい…父上。ご期待に必ず応えてみせます」


お父様とクロイツお兄様のやりとりを聞きながら、来月の生誕パーティーに思いを馳せた。


きっと何かが芽生える。

きっと何かがはじまる。


そんな予感があった。














.

ご覧頂きありがとうございました。

ルナマリアは自分の価値をいまいち理解していません。

まわりにどのような効果をもたらすか。まだそのことを理解することができません。

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