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すべてはあなたの為に  作者: 飛鳥 実華
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5話 専属騎士

ブックマークありがとうございます。励みになります。

今回は、ルナマリア視点ではなく専属騎士ガウェイン視点でのお話となります。

けたたましい音と共に床に転がる男を見つめながら拳を爪が食い込む程に握りしめる。

怒りで脳が焼ききれそうだった。


「もうし、申し訳ございません……!お許しを…お許しを…!」


その蛆虫は口から血を流し床に這いつくばり頭をこすりつける。

ああ、虫だ。虫けらだ。我が主の近くにいてはならないものだ。


「王宮に王族以外の者は許可なく足を踏み入れてはならない。それを知らなかったとは言わせんぞ」


「も、もちろん存じております!アメリア様付きの侍女たちが陛下の許可を得ていると申したのです!」


「なに……?陛下の名を語ることは重罪…侍女たちもそれを知らぬとは言わないだろう!」


傍らに控えていたマルツが虫けらの胸ぐらを掴み上げる。

アメリア様を送り届けた後、マルツはアメリア様を通した虫けらを連れてきた。


「ガウェイン…これが本当ならば侍女たちを取り調べなければならないぞ…」


マルツとは騎士学校時代の同期だ。

共に学び、共に近衛騎士団へと配属した。

場をわきまえ敬語を使うが普段はくだけたしゃべりをする。


「あの侍女たちはアメリア様が陛下の庭を訪れることになぜ許可がいるのかと叫んでいた。それを罪だと思わなかった可能性もある…。アメリア様付きの侍女たちの選出はどうなっているのだ。あまりに教養がなさすぎる」


「……もういい。お前は下がれ。此度の事は陛下にご報告させて頂く。後日あらためてお前と侍女たち両方から聞き取りを行い沙汰を出す。お前はそれまで謹慎していろ」


マルツの言葉に顔を青くさせ、身体をふらつかせながら虫けらは退室していった。

退室するのを確認し、マルツは髪を苛立ちながらかき混ぜる。


「側室の侍女といえど…アメリア様につきたがる者は少ない。離宮にいる侍女たちは低位貴族の娘たちやアメリア様が学園に所属していた際に学問を共にしていた商人の娘たちだと聞いている…」


「本来王族の側に寄ることすら許されぬような者たちか…」


そんな者たちが我が主の住まいに足を踏み入れたのか。

この世で最も尊きお方の近くに…。


「ガウェイン…その顔…ルナマリア様に見せるんじゃないぞ…」


「当然だ。ルナマリア様の前でこのような姿を見せる訳がないだろう」


「ルナマリア様のご様子は…?今まで王宮内で陛下に許された者以外と交流を持ったことがなかっただろ?」


「マリーナ殿がついている。少し…様子がおかしかった。やはり何かしら不安を感じられたのかもしれん…」


部屋に戻るまでもルナマリア様は不安そうにうつむいてマリーナ殿の手を握りしめてらした…。

幼くとも俺たちの不穏な空気を察したのだろう…今まで穏やかな空気しか知らずに育った温室育ちの姫様には恐ろしいものだったのかもしれない。


「陛下へのご報告はどうする?」


「すでにお時間を頂きたいと伝えてある。夕食をルナマリア様と共にするとの事で、その後報告をさせて頂ける事になっている」


「はー…いったいどうなってるんだか。最近はアメリア様に動きなどなかったのにどうしていきなり…」


ルナマリア様がお生まれになるまで、ベアンナ様とアメリア様の立場はいまと全くの逆だった。

陛下は王宮に寄りつかず、離宮で寝食をアメリア様と共にしていた。

すべてが変わったのは5年前。ルナマリア様がお生まれになったその日からだ。


王の寵愛が明らかなアメリア様が勢いづき、ベアンナ様が軽んじられるようになっていたあの頃。

その頃俺はまだ十八で、騎士学校を出たばかり…近衛騎士団に所属したばかりであった。

侯爵家の出であったこと、騎士学校での成績。それによって近衛騎士団に配属され俺の騎士生活はまさに順風満帆だったといえるだろう。

ベアンナ様とアメリア様の対立も、その頃の俺には関係がないと思っていた。

第一王子派と第二王子派に別れた派閥争いも、我がメイデン侯爵家は中立の立場をとっていた為俺が守るのは陛下であることには変わらず、どちらが王となっても守ることにはかわらないと思っていた。


そんな時だ。

三女神様の降臨…。ベアンナ様がルナマリア様をお産みになられたあの日。

全てが反転した。

陛下は離宮から離れ、王宮で過ごされるようになった。

ベアンナ様に寄り添い、クロイツ殿下、ルナマリア様と過ごす時間をなによりも重視されるようになった。

ベアンナ様を軽んじていた者たちは皆手のひらを返したように「聖母」と讃えだした。


陛下は城の敷地内に聖堂を作り、三女神様への信仰を深めた。

とても…とても喜ばしいことだった。

我がメイデン侯爵家はもとより三女神様への信仰厚い敬虔な信者。

領地には大きな教会を持ち、領民たちも敬虔な信者ばかり。

領地を離れ、王都に住むようになった俺も毎日のお祈りはかかさず、時間がとれる限り城下町の教会へ通った。

城に作られた聖堂は恐れ多くも三女神様よりルナマリア様へ贈られた守護石…それを祀る聖堂。

そんな場所へ毎日通える喜び…!

さすがに毎日城下町の教会へは通うことは難しかったが城の敷地内ならば毎日通える。


三女神様に祝福されし愛し子…。

ルナマリア王女殿下…。いったいどのような方だろう?

王宮の人事は一新され、陛下の信頼の厚いものに総入れ替えされたという。

かすかに漏れ聞こえてくる噂で聞くところによると透けるような白金色の髪にベアンナ様と同じ紫水晶の瞳を持つ大変美しいお顔立ちとのこと。

いつの日かお会いできるだろうか…。ルナマリア様のお披露目はいつになるのだろう…。


お目にかかれる日を夢見て過ごした3年後。

俺はルナマリア様の専属騎士として選出された。


「ルナマリアのきし?ルナマリアをまもってくれるの?」


あの日を俺は一生忘れないだろう。

陛下の腕に抱かれた幼き姫。

まだ生まれて三年…赤子の域を出ないというのにその姿は神々しく…人の子であるとは思えなかった。

姫のまわりだけ空気が違って見えた。

ああ…これは聖堂で感じる空気だ。尊き女神の吐息だ。


陛下の腕から下り、跪く俺の前に降臨した小さな女神。


「ルナマリアのきし。ルナマリアのガウェイン!」


俺の頬に触れる小さな手。


ああ、この方の為ならなんでもしよう。

この手が汚れることなどないように。俺の手をいくらでも汚そう。

この方が笑ってくださるなら、この方が幸せでいてくださるなら。

他の誰が泣いても、不幸になっても構わない。


「はい。ルナマリア様だけの騎士です。我が剣、我が忠誠、我が心。全てをルナマリア様に捧げます」


誰を不幸にしてでも

誰を犠牲にしてでも

絶対に貴方を守ってみせる。














.

ご覧頂きありがとうございました。

ガウェインは狂信者といってもいいレベルの信者です。

幼き女神としてルナマリアを崇拝し、害するものを許しません。

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