1話 目覚め
ブックマーク登録ありがとうございます。
文章を書くこと自体初心者ですが頑張って参ります。
「お誕生日おめでとう愛しいルナマリア」
抱き上げられ額に口づけされたその瞬間。わたしは思い出した。
いや急に覚醒したと言ったほうがいいかもしれない。
混乱を悟られないように、膝の上に座らせてくれた父親に微笑み返す。
「とーさまありがとうございます!」
そうだ。このキラキラと目に痛いほどに美しい男性はわたしの父親…。
デーベルゲン王国 国王セルゲイ・フォン・デーベルゲンその人である。
サラサラの金色の髪…透き通ったビー玉のような青い瞳。
まだ二十代だろうか?それとも三十前半だろうか?
あいにくわたしにはヨーロッパな顔つきを外見で年齢を判断できる能力はなかった。
そう。わたしは思い出した。
今のわたしはデーベルゲン王国 第二王女ルナマリア・フォン・デーベルゲン…。
生まれたその日に三女神より祝福を受けた女神の愛し子。
思い出したのはそんなわたしが前世…日本という場所で生活していた記憶だ。
自分の名前も家族の顔も思い出せないがたしかにそこで生活していた記憶がある。
魔法ではなく科学が発達したその世界で。
おそらくはそこそこの年齢までは生きていたのだろう。
今のこの思考が子どものもの…とも思えない。少なくとも高校生ぐらいまでは最低でも生きていたのではないだろうか。
「ご覧、ルナマリア。これらは全てお前の為に用意されたものだよ」
お父様に背中を預けるように座り直させられて部屋の中をあらためて確認すると箱の山であった。
文字の如く、本当に箱の山である。積み上げられた箱・箱・箱。
「わぁ…!とーさまこれぜぇんぶルナマリアの?」
知識として前世の記憶を思い出したとしても今生のわたしはまだ三歳になったところ。
たくさんの箱を見れば何が入っているのかとわくわくする気持ちを抑える事はできなかった。
やはり現在の精神年齢に引きづられてしまうのであろう。
「そうだ。これは全てルナマリアのもの。国中の貴族がお前の為にと贈り物を寄こした。他国の王族からもお前へ贈り物が届いているよ」
お父様は誇らしげにわたしの頭を撫でお砂糖がとろけるような瞳でわたしを見つめ微笑んだ。
「ルナマリア!ルナマリア!ぼくからのプレゼントも早く見て!」
お母様譲りの青みを含んだ銀色の髪、お父様譲りの青い瞳…元気にはしゃぐ男の子。
わたしの同腹の兄であり第一王位継承者である第二王子クロイツ・フォン・デーベルゲン。
「クロイツにーさまはルナマリアになにをくださるの?」
「はい!あけてみて?母さまと一緒に選んだんだ!」
クロイツお兄様から小さな箱を受け取り小さな手でもたもたと開けると中には繊細なレースで編まれたアイスブルーのリボン。
「わぁ…きれいなリボン!とーさまとにーさまのおめめの色!クロイツにーさまありがとう!ルナマリアのたからものにする!」
クロイツお兄様の首に抱きつき頬にキスをするとお兄様も優しく抱き返し頬にキスを返してくれた。
日本とは違うこの世界でこんなにも繊細なレースはとても貴重だろう。
お互いに何度もキスを贈り合いくすくすと笑っているとクロイツお兄様が急に離れていった。
「クロイツ、そろそろわたくしと代わってちょうだい」
クロイツお兄様の肩に手を置き優しい声で微笑むのは大好きなお母様。
ベアンナ・フォン・デーベルゲン。わたしとクロイツお兄様の母親でデーベルゲン王国の王妃だ。
青みを含んだ銀色の髪はいつ見ても艶々で紫水晶のような瞳はわたしが受け継いでいるらしい。
らしい…というのがわたしは鏡を見た覚えがないのだ…。
どうやら前世を思い出す前は鏡に興味がなかったか…本当に見たことがないのか…。
侍女たちの言葉で覚えている限り、わたしはお父様の濃い金色の髪より薄い白金色の髪にお母様と同じ紫水晶のような透き通った紫の瞳を持つ…という事だけだ。
それ以外は侍女たちに美しい可愛らしいと褒められた記憶しかなく具体的なことはわからない。
「かーさま!みてみて!青いリボンなのとってもきれいなの!」
「ええ、ええ。よかったわね。クロイツがとっても悩んで選んだものなのよ」
お母様に頬をくすぐられ思わず声をあげて喜んでしまう。やはり思考と態度に差が出てしまう。
思考は精神年齢が高めであるというのに実際に口にでる言葉も態度も歳相応になってしまうので自分の中で違和感が残る。
これもおいおい心と身体が釣り合うようになるまでの我慢なのだろうか。
「ルナマリア。わたくしの宝石。わたくしの太陽。あなたの誕生日を祝えることがどれほどの幸せか…何度伝えても伝えきれる気がしないわ。愛しい子…三歳の誕生日おめでとうルナマリア」
お父様よりもクロイツお兄様よりも。きっと誰よりもわたしを愛しているのはお母様だと思う。
そう思えるほどお母様はわたしに愛を注いでくださる。
わたしは仲睦まじいお父様とお母様の姿しか知らないがわたしが生まれるまでは不仲であった…と侍女たちの話をまとめるとそうらしい。
信じられないことだがお母様とお父様の仲を深めることになったのがわたしの存在だとかなんとか。
それもあってお母様はわたしを幸運の象徴のように思っているようだ。
「わたくしからはこれを…」
目の前で小さな箱を開けてくれるお母様の手元を覗き込むとサファイアが散りばめられた羽の形をしたブローチが台座にちょこんとのせられていた。
子どもサイズで小ぶりのそのブローチは窓から射す光をキラキラと反射させる。
わたしだって女だ。美しいものには心がときめくし宝石なんてこの年齢でもったいない!と思いつつも嬉しい。
「きれー…かーさまとルナマリアの色!かーさまありがとうございます!」
お母様の手で胸元にブローチをつけてもらいお父様とお兄様にも似合っているよと褒めてもらう。
ああ…幸せだなぁ。優しい家族に囲まれて。
「かーさま今日はルナマリアと一緒に眠ってくださる?とーさまもクロイツにーさまも一緒がいいわ!」
「まぁまぁ…わたくしとクロイツはいいとしてもお父様はお忙しいのだから…」
「いいや構わないとも。ルナマリアの誕生日なのだ。願いを叶えてやらねばな」
「今日はルナマリアと一緒?ルナマリア、寝る前にぼくが本を読んであげる!」
ああ。本当に幸せだ。
前世の記憶なんて関係ない。今生のわたしは家族に愛されて幸せに暮らすのだ。
愛してもらえる幸せ。
愛してもらえることを幸せと思えなくなるなんてこの時は思ってもいなかった。
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ご覧いただきありがとうございました。
ルナマリアはまだ三才。閉じた世界しか知りません。
今後成長と共に視点が広がらないと見えないものがたくさんあります。