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すべてはあなたの為に  作者: 飛鳥 実華
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プロローグ 勝利者

初投稿です。のんびりと更新していきたいと思いますのでよろしくお願い致します。

知らなかったの。

こんな設定があったなんて知らなかったの。

あんなに大好きだったゲームがこんなにもおそろしいものだったなんて…知らなかったの…。

ああ…お願い…お願い…。彼女に伝えて。

いますぐ逃げて…と。特別なちからなんてないと言ってほしいと…。

ここはあなたの世界ではなくわたくしの世界なのだと…。








ベアンナはギリギリと歯を噛み締めその痛みに耐えていた。

女にとって、いいや貴族にとって、王妃にとってこれは戦なのだと自分を鼓舞しその痛みを耐えていた。

公爵家の娘として生まれ、数々の令嬢の中から選ばれ王太子妃となり王妃となった。

女として最高の地位に上り詰めたはずであった。

政略結婚であり王との間に愛などなくても王妃であるプライドも実力もあった。

それでもベアンナは敗北したのだ。


側室であるアメリア…男爵令嬢でしかなかった女が王に側室に望まれた。

そこまではまだ許せた。アメリアを愛しているのだと王に言われても所詮は側室と思えた。

しかし…ベアンナよりも先にアメリアが懐妊し王子を産んだ。

愛するアメリアとの間に生まれた王子をそれはそれは王は喜び、更にアメリアへと傾倒していった。

王子を産んだことによりアメリアも調子づき、ベアンナを軽視するようになると他の貴族たちからも陰口を叩かれるようになりベアンナは惨めさでお気に入りであった扇を床に叩きつけた。

アメリアの出産より1年遅れてベアンナも王子を出産すると世継ぎは王妃であるベアンナの産んだ王子であると公言されまたベアンナのまわりには人が侍るようになる。

しかし王の寵愛はアメリアのものであることは誰の目にも明らかであり、ベアンナの出産の二月後にはアメリアは王女を産んだ。


そして…2年の時がたち今ベアンナは出産の時を迎えていた。

いまだに王の寵愛はアメリアのものであり、義務を思い出したかのように王はベアンナを抱く。

そんな中で授かった命…ベアンナは優秀な子を産むことしか頭になかった。

出産はベアンナにとって戦いである。

王の寵愛を望めないのであれば己の子を次の王に。

ならばアメリアの子よりも優秀な子を産まなくてはならない。

王に愛されずとも子に愛されればいい。次の王を産み、育て、真の国母となるのだ。

それが公爵家に生まれ王妃になるべく教育されたベアンナの願いであった。

そして…その時は訪れる――――








「おぎゃあ!おぎゃあ!」


大きな産声が部屋に響き渡ったその時。

部屋中に光が集まり、その場には三人の女神が降臨していた。

その三女神を知らぬものなど存在しない。

創生の女神たる三女神。この世の誰もが信仰を捧げる唯一神。


『なんと美しい魂でしょう…』


『愛おしい…このように愛おしく思うことなど初めてじゃ…』


『祝福を!我らの寵愛をこの娘に!』


生まれたばかりの赤子を女神が抱き上げ額に口づけると額に模様が浮かんだかと思えば身体に沈むように消えていく。


『お前はこの世のなによりも美しく育つでしょう。全ての美の祝福を』


『お前はこの世のなによりも愛されるであろう。全ての愛の祝福を』


『お前はこの世のなによりも豊かに育つでしょう。全ての富の祝福を』


交互に抱き上げ額に口づけ女神たちはその赤子に祝福を与え、その光景を誰もが言葉もなく見つめていた。

誰もが息を殺して見入る中、荒々しく扉が開かれる。

女神の降臨を聞き、執務室より走ってきた王の姿がそこにはあった。

息をきらし肩を激しく揺らしながら王はその目をこぼれそうなほどに見開いた。


「まさか…本当に…三女神様が…」


呆然と三女神とその手に抱かれる赤子を見つめる王に対し三女神は赤子を高々と持ち上げると声を張り上げた。


『我ら三女神の祝福を与えしこの娘に我らが名を与えよう』


『この娘に危害を加えるものは我らからの天罰がくだると知るがよい』


『この娘の名は……ルナマリア。我ら三女神に祝福されし娘』


ベアンナの腕に赤子…ルナマリアを抱かせると三女神はゆっくりとその姿を消した。

まるで夢であったかのような気持ちでベアンナがルナマリアを見つめるとその胸には女神の刻印がキラキラと銀色に輝き夢でなかったことを証明した。


「ベアンナ…」


「陛下…」


横に立ちルナマリアを覗き込む王にベアンナはルナマリアを差し出した。


「陛下…ルナマリアです…。わたくしと陛下の大切な愛しい娘です…」


女神の祝福を受けた己の娘を怖怖と受け取ると胸の刻印を見つめ、ベアンナへと視線を移す。


「ベアンナ…よくやった。よくルナマリアを産んでくれた…」


優しく己に微笑みかける王などベアンナは知らない。

婚約前から今に至るまでベアンナに微笑みかけることなどなかった王がベアンナを愛おしそうに見つめている。

ああ…わたしは勝ったのだ。この戦に。

これ以上の勝利などない形でわたしはこの戦に勝利したのだ。

もう何も恐れる必要もない。もう何も悔しく思う必要も惨めに思う必要もない。

王の愛はこの身に。そして何よりも優秀な子もこの身に。

ルナマリアはベアンナの幸福の象徴となった。












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ご覧いただきありがとうございました。

次回よりルナマリア視点でのお話となります。

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