~世界でただ一つの魔法装身具おつくり致します。~ (7)
ダーリは合唱を始めた腹の音の反乱を抑えるため、階段を下りて一階に向かった。
ツンとした香りが鼻を刺激し、ダーリは壁一面に張り付けて乾燥させていた「キオクナグサ」を一瞥した。二つまみ程水に溶かして対象人物に飲ませると、大体1週間くらいの記憶が完全消滅してしまう毒素を持つ薄のような草である。
ただ、その成分は乾燥させたときのみ発現する物質であるため、生で食べると非常に美味である。普通のマーケットで売られており、手に入りやすいのだが、毒素を持つ成分を精製する方法は非常に手間であり、手順も複雑なので多くの職人たちは簡易的、合成的に作成された類似品を使用している。
ダーリは乾燥の具合を目視で確認し、いつもより5倍軽やかな足取りで誰もいない1階の工房へと足を進める。
ダーリは好きなのだ。
誰もいない工房の、静謐さと、誰も存在していないのに愛情を込めた道具たちが囁き合うような音のない空気が。
そう。
ダーリは、静かなる工房を、何よりも愛していた。
のにもかかわらず。
「おっじゃましまぁ~す」
ダーリの至福を邪魔をする人間というのは、師匠が言うようにどこにでも存在するものである。
ダーリは、美麗な顔を苦痛にゆがめた後、対象物に向かって近くに置いていた棒の先端を差し向けた。
「ダーリ!!!」
泡を食った声がダーリの耳朶を打つが、無礼なならず者に対し、世間評判そのものの様相を呈する彼女は決して容赦しない。
10カ月と11日。太陽と月と、暗闇の音を聞かせて呪いを込めたオーダーメイドの杖を握り込んだ。