~世界でただ一つの魔法装身具おつくり致します。~ (6)
おおよそ、日常生活破綻者、というほどではないにしろダーリは日々の生活が非常に億劫だった。できれば息をしているように魔法装身具だけを作って生きていきたいし、めんどくさいので呼吸もしたくない。
1つの装身具を作るとき、集中しすぎて睡眠と食事を忘れ、気絶して訪問した客に発見され世話になったことも一度や二度ではない。人間の平均的な体力を持っているのかどうかさえも甚だ疑わしいダーリだが、実のところは不眠不休で「還らずの森」という森林系ダンジョンを4日で踏破するほど、体力はある。
これは魔法装身具職人全般に言えることだが、そんじょそこいらの戦士よりはずっとダーリの方が使えるのである。
人間として、一大人として欠落している部分が多いダーリではあるが、それでも「生きていなければ」魔法装身具を作り続けられないのは熟知しているため、栄養を欲する資本となる体をいじるするために布団干しもそこそこに階段を下りて台所に赴くこととした。
ダーリのささやかな工房は2階と1階に、そして地下に作業所である工房が一部屋ずつある。1階の攻防の隣には商品を受け渡ししたり商談をしたり、陳列するためだけの部屋があり、その他は台所とトイレ、お風呂と仮眠室がある。洗濯物は衛生面を配慮して、お金を払って近くの代行サービスに頼んでいるという次第である。
元々店舗兼居住工房だった中古物件を、ダーリの師匠が購入し、ダーリを借金まみれにして押し付けたのが経緯で、現在はその借金をすべて返済し、この家はダーリの所有物になったのである。