~世界でただ一つの魔法装身具おつくり致します。~ (19)
エルジャ・ネイタムが最後の最後のダンジョン「エスタリーク」に赴く真実の理由。
そして、そのダンジョンに挑むために、ネイサン・バールという四英雄の一人を護衛につけた理由。
父親がネイサンという人物と知り合いであり、恩人である理由。
ミエルダ・バークレイにあるといわれる世界最高峰の魔法装身具を創りだす職人、ダーリ・アシャという人物に会いに来た理由。
それは全て。
「そうか。リィナは死んだのか」
深い悲しみと愁いを帯びた声音が微かにエルジャの鼓膜を振動させた。
「最後の最後のダンジョン。エスタリークに挑んでお前、夜鉱石を見つけようと思ったんだな」
何も語らず、石を抱きしめ嗚咽を漏らす少年にダーリは視線を静かに注ぎ続ける。
黒髪と赤い瞳。
一見しただけでそれが「誰」に連なるものか、名前を聞かずともわかる。その魔力が渦巻く存在にして、相反する属性に苦しんでいる者をダーリは誰よりもよく知っている。
かつての盟友の忘れ形見―――。
呪いの予言を受けてもなお、腹に宿し続け、産むのだと豪語した豪快で偉大で、繊細な。
「リィナ」
親友だ。
漆黒の火焔の大魔術師、リィナ・ネイタムの子供。
「お前は母親似だな。同じ魔力のにおいがする」
くんと鼻をひくつかせて、ダーリは言葉をこぼす。
猫っ毛の柔らかい黒髪に深淵のような赤い瞳。顔だちもなるほど、父親の商人より母親によく似ている。きかん坊で唯我独尊。プライドも高く、人一倍情に脆く、強すぎる魔力ゆえに魔に魅入られ、呪いを受け、それでもなお「産む」と決めた愛し子。
最後の会話の情景を、ダーリは昨日のことのように思い出せる。
「いつかまた」
いつかまた――。
「あなたを」
あなたを―――。
ダーリは親友の面影を強く残す、もう一人の自分をそっと抱きしめた。
一瞬驚いたように体をびくつかせた少年が、恐る恐るダーリの袖を掴んだ。その指先は萌え出る嗚咽とともに少しずつ大きくなり、最後は縋るようにダーリの二の腕に爪を立てていた。
「かあさま―――っ」
いつかまた、あなたを強く。
強く抱きしめるわ、ダーリ。
私の大切な、ちいさな妹。
血のつながらない、私のちいさな勇者さま―――。
全てもう間に合わなかったのだとしても、あなたがいたから、私は魔法装身具職人になったんです。
ダーリは左眼から零れ出た涙をそのままに死者を悼んで天を仰いだ。




