~世界でただ一つの魔法装身具おつくり致します。~ (16)
ネイサンが泣きながら剣を抱え、ダーリの指さし方向指示に従って中庭の中井戸に走り去っていく様子を口を挟むことすらできず傍観していたエルジャは、静まり返った工房に丁寧に配置された「非常に魔術的な香り濃い」工房の様子に気づいた。
互いが互いをけん制し、その場所に合って存在を内側に封じられるような場所に、たくさんの魔法装身具が置かれているのだ。あちこち乱雑に置かれているような布や本、ペン先や床に転がる何かの石ころでさえ「魔法使いである」エルジャの目視できない目にははっきりと見える。
「不可視の網」
「・・・・・・・・・・・・・なんだお前。やっぱり魔法使いか」
嘲るのでも感じ入るのでもなく、単なる事実の確認として、初めてダーリが少年に言葉をこぼした。
エルジャはハッと身構え、腰からずり落ちそうになる布を慌てて手で押さえた。
妖精の羽根色の瞳がまっすぐにエルジャに注がれている。
けだるげに黄金の髪のひと房を持ち上げ、彼女の髪の毛が揺れるたびまとわりつく朱金の鱗粉がエルジャには「視える」。―――境の者たちだ。
「黒髪に赤い目。そうかお前、ネイタムの家の子供か。確かに魔術師の一族の子供にふさわしい素養を持って生まれたようだわね」
「・・・・あ」
まるで生まれた時から知っているような口ぶりで、ダーリは初めて微笑んだ。
「今日は店はやってないんだけど。ネイタムの家の子なら歓迎するよ。――――幻想魔法装身具専門店へようこそ、ネイタム・・・えーと」
「エ、エルジャ! エルジャ・ネイタム」
前のめりになり、エルジャは心が躍るように口から言葉を発している自分を恥じた。
「よろしく。エルジャ・ネイタム。ダーリ・アシャだ」
エルジャに差し出されたのは、傷だらけの白くて細い華奢な手だった。
嬰児を祝福するかのような柔らかく優しい笑みに、エルジャはこの工房へやって来てから今まで体験した、ありとあらゆる災厄―――つまり、先行で目が焼かれるように痛んだり、呪い物に襲われそうになったり、妖精のシロップをかけられてべたべたになったり、みっともない姿にプライドがズタズタになったり―――をコロッと忘れてしまったのである。




