~世界でただ一つの魔法装身具おつくり致します。~ (11)
なまぐさダーリは台所で立ったまま食べかけのパンと、淹れたての薬草紅茶を飲みながら職場でもある工房部屋にそっと目を向けた。もちろん、向こうからこちらの様子をうかがい知ることができないよう、間仕切り壁によって仕切られている。
ダーリが感じようとしているのは、招かざる客たちの雰囲気である。
そういえば、とここへきてダーリははじめて見慣れない客を思い出した。
どう見ても若い――。少なくともダーリよりは年下の、黒髪の赤い目をした少年だ。見たところ、騎士見習いか何か、魔法使い見習いだろう。
一見さんお断りではないにしろ、紹介がないままこの店に訪れる珍客はどれぶりだろうか。いや、今回のアレは確実にネイサンがらみの何かに違いない。
「あの、疫病神め」
自分のことを棚に置いて、ダーリは妖精はちみつの付いた親指をぺろりとなめると、ぼんやりとした頭をフル回転させ始めた。
「ダンジョンの入り口にぶっ飛ばしたのがもう、半月前…だっかなぁ?」
半月前、突然盗賊よろしくダーリの店の扉をけ破り入り込んできたならず者がいたことをダーリは思い出す。もうおぼろげで容貌すら思い出せないが、非常に迷惑極まりなく、大っ嫌いなオーダーの打ち合わせ中であったダーリの虫の居所は「瞬間湯沸かし器」よりも速いスピードで一瞬で沸点に達した。
気付いたときは近くに在る魔具の一つで、相手をダンジョンの入り口まで送ってやった。生死は知らない。運が良ければ生きていることだろう。
店を開店させたときのごたつきよりかはまだましだが、あれはあれで1日で収束してしまったし、弟子を崖から落とすように放り出した師匠も心配性が先行して数か月ストーカーのように夜討ち朝駆けが如くこのあたりをうろついていた時に比べれば、まぁ。
「まだましか」
ダーリは「永続的に適度にひんやり冷たい大型保管箱」の中からレモンに似た風味の果実を一つ取り出した。ちなみに色彩はピンクと紫のマーブルで、ドラゴンフルーツのようにいくつもとげが出っ張っている。ナリムの実という。土に植えると3日で目を生やし、9日後には大木になっているが周りの養分を吸い尽くして20日後には枯れてまた大地に循環していくのだ。
ナリムの実を調理台の上に転がして、ダーリは開き扉から取り出した包丁を木目の天板の上につきたてた。




