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~世界でただ一つの魔法装身具おつくり致します。~ (10)

顔を真っ赤にして台所に駆け込んだダーリは、真紅のポットを取り出して水を入れコンロの上にのせて火をつける。水はいつも、水がめの中に「決して腐ることのない清水」が湧き出すよう、刻印と魔法が込められている。


浄水施設があり、水道が管理されていればこんな苦労はないのだが、この世界にそんなものは存在しないのだ。


全く持って非常に便利になったものだが、これもすべてこの世界の実在する「魔法」という「道具」のおかげである。


「瞬間湯沸かし器マジでほしいわ~。今度作ってみようか~。つーか、早く帰ってほしいわ~。仕事したくないわ~」


だるいわ~。


最後に心を込めた本音をこぼしダーリは顔をかきむしるようにこすって、長い溜息を吐いた。


邪魔臭い黄金の髪の毛を払いのけ、すっかり色彩が変わってしまった瞳を軽く閉じる。



ダーリはどこからやってきて、どうしてここに居るのか?


客の中で興味本位でダーリという魔法装身具職人に問うてくる者がいる。


ダーリはおもしろくもない個人的な話がうまくできるほどコミュニケーション能力がない。


しかし、真実を語ったところとて「この世界の住人も」笑い飛ばすに決まっている。




―――≪この世界に≫記憶喪失状態でやってきて、もう16年が経つ。


≪とある事実の発覚≫によって、ダーリは自由にあちら側とこちら側を自由に行き来できるようになったものの、ダーリの居場所はあちらではなく、こちらだったのだとお戻るたびに思い出すのだ。



ダーリ・アシャ。


既に本名と等しくなってしまった名前も、実は生まれた時両親からもらった名ではない。むしろその両親こそが現況であったのだと知り、ダーリは悲しくなった。


一人暮らしには十分すぎる間取りのキッチン全体に、あの国のあの場所の面影はかけらもない。


非文明的で、非科学的で引き快適な日常こそが今のダーリのすべてなのだ。


つまり。


漆喰の天井とひわんだ木の床。隙間風と日が差し込む虫入り放題の窓。あめ色につやびかるカントリー調の食器棚や、一つ一つ手作りの食器たち。乾燥中の薬草や長期保存色。生の肉やアイスクリームを保存できるような「冷蔵庫」という代物はあり得ない。


その代わりに「魔法を利用した箱」で冷たい環境や空間を保持はできる。この世界ではダーリの発明物になってしまったが、あちらの世界では大手家電メーカーの専売物だった。


「特許侵害とかで、訴えられかねん」


ダーリは火炎の魔力が込められた発火台―――キッチンを見下ろしながら、自分の発明物にケチをつけた。


「火の調整ができん」


火炎を閉じ込めた魔石の中で踊る妖精が、一瞬怒ってポットを燃え上がらせた。

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