~世界でただ一つの魔法装身具おつくり致します。~ (9)
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ネイサン・バールという男との出会いは、ダーリがまだ師匠の下で修業中だった頃に遡る。
ダーリの印象としては、とにもかくにも始終気が抜けた炭酸のような、気安く軽薄な男、という印象しかなかった。
また、性格的な要素もあるのだろうが、一言でいえばおせっかい。客観視すれば、それに輪をかけて「厄介ごとを押し付けられる」タイプの人間のようだとダーリは観察していた。
たしかあの頃も今と同じように、新米の騎士見習いを横っちょに引っ付けて歩いていた記憶がある。
「そんなに睨んでも何も出ないぞ」
ネイサンはへらっと笑って、ダーリが申し訳程度に出した妖精のシロップ入りジュースを飲む。とろりとしたはちみつ色の液体が濃紺色のグラスの中で踊っている。
「・・・・睨んでない。考え事してる」
ダーリはぶっきらぼうに答え、長い長い溜息を吐いた。
同時に、腹部から隠しようのない音が高らかに主張する。
「アッハッハッハ!」
「死ね」
ダーリは冷たく言い放つと、自分用に用意していたグラスをネイサンに向かって投げつけた。
「あっぶね!」
「んぶ!」
グラスは―――。
「帰れ!! 今すぐ帰れ!!!」
ダーリは顔を真っ赤にしながら逃げるように台所に走って消えた。
「んー! んー!!」
不当だ、と主張する音にネイサンはここでようやく気付いた、というように背後を振り返る。そこには。
「んぐ、んぐーーー!!」
口に拘束用のテープを巻かれ、全身をロープでぐるぐる巻きにされた挙句床の上に放置された人間的に未熟で幼すぎる新米魔法使いが転がされている。
「あーあ」
ぶちまけられた液体が見事に当たったようだ。命中したかどうかは知らないが、若き魔法使いの下腹部を濡らすにはちょうどだった。液体は腰下からじわじわと床上に広がりを見せ、少年の急所の近くに破損を免れたグラスが転がっている。
どうやら両方とも、無事のようだ。
ネイサンはからからと笑いながら、ダーリが走り去っていった工房奥に瞳を注いだ。
おはようございます。
幻想魔法装身具専門店 ダーリのお店
本日も開店です。




