復活2
リリス編です
玉座の間は基本的に魔王とその使い魔しかいない。各守護者は許可を受け入ることができるのだが、全員が呼ばれるのは異例だ。人間であれば1000人は入れるような部屋が53人の守護者だけで息苦しく感じる。ダークドラゴンやイビルシンボルなど人よりも遥かに大きな魔物が集まれば仕方がないだろう。
部屋の入口から玉座に続く赤い敷物を縁取るように魔物たちが道を空けている。
その敷物の上に膝をついている者が2人、一人は守護者たちを呼び出したリッチだ。そしてその隣にいるのは人間の女。
リリスは無数の視線に汗が止まらない。自分より想像がつかないような強さを持つ者たちの視線を全身に浴びているのだ。普段なら刺すような視線に快感を感じ欲情してしまうのかもしれないが、さすがにこの状況では緊張が勝るようで呼吸がしづらい。
しかし、今回は失敗するわけにはいかない、王の前で言葉を間違えば即座に殺されることはわかっている、それはリリスだけでなく主であるリッチも巻き込んでしまう。
「面を上げよ」
魔王の声が響く、全身に感じていた視線がなくなっていくのを感じる。
「先ほどグレーターリッチから簡単な話は聞いた。実に理解しがたい。正直間違いだとしか思えん。だから直接申してみよ。リリスに発言を許可する」
再びリリスに視線が集められるのを感じる。魔王が一応は話を聞いて落ち着いていることに多少安心し先ほどより落ち着いて話し始める。
「はっ、まずは私が死に至るまでの経緯からお話しさせていただきます。私は今回陛下の領地を拡大するため、ここより南にあるエレールという人間の村に行ってきました。人間の戦力を調査し、後日行われる侵略の作戦を練るのが目的です」
各守護者はうなずく、ここにいるメンバーは近く人間の領地への侵略計画を知っている、今まで侵略を行わなかったのが遅いくらいだ。
「村に着いた私は、まず村人を誘惑し捕虜としました。村の様子を知るものをさらい、人間についての情報を引き出すためです。その次に兵士を村から誘い出し殺しました。我々に抵抗できる戦力とは到底思えず、私一人でも村人を食べつくすことが出来ると思えるほどです」
全員の視線に力が増すのを感じる
「しかし6人いたうちの最後の兵士を殺そうとしたとき、冒険者と呼ばれる人間が現れました。冒険者はとても強く私が全力を出しても倒しきれませんでした」
そこまで話し終えリリスは殺意を感じる、自分の全力で倒せない人間がいるからそれがどうしたということだろう。守護者はリリスよりはるかに強い。みんなそのことには確信がある。格下のリリスと同格だからと言って守護者に勝てないはずがないと思うのは当然だろう。
「もちろん私と同じ強さを持つ人間など、守護者の方々からすれば気にする価値はないでしょう。しかしながら守護者の皆様に一つ聞かせていただきたいのです。皆様は全力で防御をし逃げようとする私を殺すのにどのくらい時間がかかるでしょうか」
全力で攻撃すれば40レベルほどのリリスなど1撃で殺せるだろう、ただし抵抗がなければの話だ。リリスは幻術を得意としている、自身を守るための魔法も使えるし自分に強力な暗示をかけることで一時的に50レベルほどの力を扱うことが出来る。防御するリリスを殺そうとすれば2,3発の攻撃は必要だと思った方がいい。守護者達のレベルは最大のもので50、リリスの暗示強化が防御に使われればさらに殺すのが難しくなる。しかも逃げることが目的になると力に自慢のある守護者達には殆ど手段がなくなってしまう。今まで城に侵入したものたちは向かってくるものはいても逃げる者はほとんどいなかったのだ。
「私を殺した人間は、私を1撃で叩き潰しました。あれは全力ではなかった。たたきつけられた武器は大地に突き刺さると大地を割ったのです。殺される前に私は爪で攻撃をしましたが、強化をした上で傷一つつきませんでした。その防御力は怖ろしく高く、ここにいるアダマントス様よりも上だとおもいます」
全員が動揺の声を上げ、一人の守護者を見つめる。
アダマントス、最も固いといわれるアダマンチウムから作られたゴーレムである。その体はアダマンチウムでありながら、魔力を込められることによってさらに硬さを増している。
「私を殺した人間の強さはこの玉座の間で対峙したとしても陛下を上回る可能性が高いです。この玉座の間以外では、守護者の皆様全員を合わせても全滅は間違いありません」
誰も言葉を発しなかった。ありえないはずの話だがリリスの話には説得力があった。実際全力のリリスを遊びで殺したのならこの場にいる誰も人間の男の全力を計ることはできない。あってはならない話だがその男と戦えば全滅する可能性がゼロではなくなってしまったのだ。
「私がわかるのはここまでです、この先はより詳しいものに話をさせましょう。陛下、お願いでございます。どうかそのものを信じてください。私はそのものに死してなお救われたのです。皆様もどうかご慈悲をお与えください」
「わかった、そのものの命を保障しよう、連れてくるがいい」
「ありがとうございます、その者は私の中に居ます、私が意識を弱めればその者の意識が覚醒するでしょう」
リリスはもう一度首を垂れると糸が切れたように床に倒れこむ。
言葉を続けるようにリッチが話し始める。
「陛下、私も信じてはおりませんでしたが、過去にリリスがここまでいうのは記憶にありません。そして何よりリリスが人間の体をしていることがこの話の異常性を表していると思います。今までありえなかったことが起きていると。そのことを踏まえ最善の行動をとるべきです。リリスの話が嘘だったならば私も当然ながらこの身を捧げます。しかしながら、万が一にもこの話が事実、もしくは事実に近い強さの人間がいるのであれば他の地の魔族にも知らせるべき話でしょう」
王はうなずき立ち上がる。
「グレーターリッチよ、私も同感だ。何より興味が出てきたぞ。我々より強い人間に。そしてリリスを助けた人間に。たとえ作り話にしても、対策は考える価値はあるだろう、今まで考えたこともなかったが、すでにわれわれより強い人間がいる可能性を踏まえて」
「ありがとうございます、それでは今しばらくお待ちください」
「意見のあるものは私に直接言え。なければそのまま待機だ、手出しは許さん」
再び静寂が玉座の間を支配する。