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インタートライバル・リンケージ  作者: 西亥はるま
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追うものと追われるもの2

「だ、だれか助けてください」


 エレールの村に飛び込んできた女は助けを求める。女の服装は白いシャツに茶色のロングスカート。手は薄汚れており農作業をしている村人のもののようだ、ところどころに土がついている。


 エレール村には村人が約50人、この村人の人数は魔族の支配する地では多い方だ。魔族の地といっても村に魔族がいるわけではない。暮らしているのは人間だ。ではなぜ魔族の地かというと、王国の護り手である兵士や騎士たちの数が足りず、エレール村のすぐそばまで強い魔物が出現しており、安全が保障されていないからだ。

 そのため常駐している数人の兵士だけでは当然守りきれないのだが、この村が現状を保っていられるのは定期的に強い冒険者へ護衛のクエストを依頼しているからに他ならない。

 冒険者にクエストを頼まない時期の村の警備は王都から派遣されている兵士が6人のみ、彼らの役割が冒険者が来るまでの時間稼ぎであることを本人たちも知っているため士気は限りなく低い。

 6人全員が王都へ帰ることを願っており、王都へ帰る理由を毎日のように相談していた。何度目かの話し合いの中で魔族の侵略を報告することが案に上がった。


 魔族が襲ってきたと偽りの報告を王都に上げ、冒険者ギルドに討伐の依頼を出す。実際には襲って来る者などいないため、冒険者と一緒に周辺のモンスターを適当に退治する。その際に違和感なくけがを負うことができれば、魔物と戦った兵士ということで堂々と帰れると考えたのだ。

 逃げれば犯罪者、負傷して退けば英雄扱い。ほんの少しの差だが今後の生活は天と地ほども変わるだろう。何とも雑な計画ではあるが、毎日魔物に襲われるのではないかとおびえている6人には素晴らしい方法に映る。


 6人は運命共同体である誓いを何度も行った。当然ながら企てがばれると全員まとめて犯罪者だ。それに計画がうまくいったとしても全員がけがをするなど不自然極まりない。恨みっこなしの1発勝負。冒険者が来た後はその時の流れで、けがを上手く演じることができた者は王都にもどれる。もし戻れなかったとしても戻った人間が残りの兵士たちの勇士を伝える。そうすることで少しでも彼らの家族の生活が豊かになることを願って。

 

 このまま何も起こさず、戻れなくても交代の期間まであと1年。しかし普通に戻ってもまた貧しい生活に戻るだけだ。そういう意味でも手柄を立てるということは6人とも喉から手が出るほどほしいのだ。嘘がばれるような失敗ではなければ取り返しは聞くだろう。そんな甘い考えを持ったまま1日が終わろうとしている。

 これまで何とかなってきた、これからもきっと何も起こらない。

 心の底から6人は願う、どうか魔族が攻めてきませんようにと。


 しかし6人の願いもむなしくその時は確実に近づいていた。



 リリスは村から1キロほど離れた見渡せる場所に着くと細かい文字を見るように目を細める。


 村を攻める際の戦力分析が目的なのでするべき仕事は、村のことに詳しい人物の誘拐と村で戦力になりうる人物と戦い強さを確かめる事。

 誘拐については村人であれば誰でも問題ない。リリスが幻術で人間に偽れば村人を誘い出すくらい簡単にできるはずだ。主人が命じたのもそのためだろう。

 戦力の確認の方は少し問題がある、幻術と精霊魔法が多少使えるとはいえ腕力にそこまで自信があるわけではないのだ。リリスと同じレベルの人間一人ならどうにかなるだろうが村を見ている限り4名の兵士が見える。同時に相手をするともしかして苦戦するかもしれない。しかも家の中までは見えないため後数人いると考えたほうがいいだろう。


 対象者が全て武装した人間であればまず戦うことから選んだかもしれない。しかし、武装した人間以外に村人を拐うとなれば先に誘拐する方が賢明だとリリスは考えた。兵士が思わぬ強敵だった場合に逃げる手段として盾にするためだ。最初にさらった後はここまで戻って昏睡状態にしてしまえば逃げることもないだろう。


「イリュージョン」


リリスはそう呟くと全身を靄がかかったように歪む。幻影に身を包んだリリスは村に向かって丘を駆ける、目を凝らさなくても人が確認できる距離まで近ずくと先ほど遠くから見えた獲物を探す。リリスが獲物を見つけたときちょうどそれと目があった。



「チャーム」


 これで誘拐の8割は成功だ。目のあった村人にはリリスが仲のいい友達に見えている。手招きをするとすぐにこちらへ歩き始めた。一定の距離を保ちながら先ほど物見をしていた付近まで誘導し終えると今度は軽く口づけをする。


リリスの特技の≪甘い誘惑≫だ。


 魔力を持たない村人だったため、抵抗なく睡眠に成功する。これで1時間は起きないはずだ。眠った村人の顔に右手で撫でまわし、今度は自分の顔を触る。触れた場所が娘の顔に変化する。



助けを求める声の主を探し兵士のケイジは村の入り口へたどり着いた。駆け寄ってきた娘を抱きとめる


「一体どうしたんだ」


「魔族に捕まっていたんです、偶然現れた戦士に助けられてここまで逃げてきました、助けてくれた戦士はまだ魔族と戦っているはずです、助けてあげてください」


 ケイジは愕然とした、魔物が現れたと今日自分が騒ぎ立てる役目だったからだ。うまく怪我をよそえるか心配していたが、まさか本当に魔族が攻めてくるという心配は想像していなかった。


(くそっ、なんだって本当に魔族が現れるんだ。どうにかして怪我をしないと――)


必死にけがをする方法を考えている途中一つの案をひらめく。


(待てよ、運が悪いと思っていたが俺にとってが絶好のチャンスかもしれないな。すでに冒険者が戦ってるところを助けることで一躍英雄と呼ばれるかもしれない。怪我をして逃げ帰るよりも、怪我をしつつ撃退した方がいいに決まってる。それに兵士達以外の目撃者がいれば話の信憑性も十分だろう)


 そんなことを考えているとはつゆ知らず、兵士の反応が遅い為リリスは見破られたかと焦り始める。


「は、早く、助けに行かないのですか?」


「もちろん助けに行くとも、近くまでで構わないから案内してくれ」


 笑顔で答えるケイジの笑顔に偽りはなさそうだ。リリスも微笑む。

 

 他の5人の仲間達には悪いが自分一人の手柄になるだろう。王都に戻ったらそれなりに頑張っていると伝えてやろう。少女の後ろを走りながらケイジは笑いをこらえるのに必死だった。


 浮かれすぎてケイジは違和感に気付かない。浮かれているケイジより少女の方が楽しそうにしていたのだ。ケイジの前を走る少女の足取りは軽く鼻歌は平原をかける夜風にかき消されていた――


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