日常1
「レラルド、ここも全滅のようだ」
声の主は武器を収めると無残な死体に手をあわせる。
人であったであろうものには無数の歯跡が刻まれており原型を留めていない。
「この村で3つ目だな、いずれも都市部から離れた村だ。まだわかっていないだけで実際にはもっと被害は多いのかもしれない」
二人は王国の兵士なのだろうおそろいの銀色の鎧を身にまとっている。腰には剣を帯びており柄には王国の紋章も刻まれており、標準的な王国の兵士の装備であることを表している。
この村に派遣されたのは彼らだけではない、ほかにも4名の兵士が送り込まれている。
彼等が送り込まれたのは遺体の処理をするためではない。星降る夜以降頻発する魔物の襲撃の原因を探るためだ。アーテクトからは4つの部隊が派兵された。それぞれ東西南北に向かっておりレラルドたちが向かったのは南方面だった。
魔獣の強さは都市部からの距離に比例するため離れた村ほど被害は大きい。
「我々だけでこれ以上進むのは危険だな、予定どうり東の部隊と合流ののち捜索エリアを拡大する、移動の準備をしてくれ」
ローレイヌ王国には首都のほかにアーテクトのような大きな都市が存在しているの。そして都市で暮らすことの出来ない者たちが村落を作り暮らしている。
都市部で暮らしている者たちはある程度金銭的に裕福な者たちであり、都市の領主に税金を収めることが出来る者たちだけだ。エレール村の住民たちは国民ではあるが市民ではない、国税のみかろうじて支払うことが出来るが、都市部で暮らすだけの税を納めることが出来ないのだ。
そしてそんな村が立て続けに魔獣に襲われるということが頻発してきている。ゲーム本来の世界なら村が襲われることなど原則としてあり得ないことなのだが、そんな不自然なルールは通用しないのだろう人の生活範囲は今では安全な場所とは言えなくなっているのだ。大きな都市も襲われたという報告はあるのだが城壁と堅牢な門があり物見もいるため大事になることはなかった。
しかし、木製の柵で覆われただけの村ならばたちまちのうちに壊滅するのは想像に難しくない。
今では街同士をつなぐ街道でさえ安全とはいえない。しかも平野が多い王国の領土は野生の獣や魔獣が悠然と生活するスペースなのだから。
これにもやはり冒険者の影響がある、プレイヤーたちが痛みを伴う死を突き付けられたことで世界のバランスはあっけなく崩壊した。
◇
エルドラドの世界には大きく分けると人間と亜人と魔獣がいる。
この中ではこれまで人間の力が大きかった。まあそういう風にバランスが撮られていたのだから当然なのだが。
そして人間の中でも最大の勢力はプレイヤーたちだった。組織は違えど同じミッションやクエストをこなしていくため大きくは1つの勢力だったと言える。
他にはNPCと呼ばれる冒険者以外が持っている軍事力やプレイヤーではない冒険者の勢力と続いていたのだが、最大の勢力である冒険者の人数の激減、そして死亡リスクによる冒険者の減少により今ではその規模と力を大きく失ってしまっているのだ。
今までの稼ぎと生産スキルを駆使することで危険な冒険に出なくとも生活ができる。誰もが言葉にせずとも思っていることだろう。
わざわざ冒険に出て強力なNMを倒し貴重で強力な武具を手に入れる。しかしそれがどれ程役に立つことなのか誰にもわからないのだ。
売り払って生活費にあてるにしても必要とする者がいなければ価値はたちまち下がっていく。
"リスクに対する対価が見合わない"
そういう負の流れが出来てきたことで冒険者はさらに数を減らしてきていた。
冒険者の数が減ることで都市の治安はさらに悪くなる。ギルドの依頼板には村の護衛クエストばかりが張り出されるが村から払える報酬など冒険者にとっては全く魅力を感じない。そうして放置される依頼は結局国の管轄となり国民の感情も冒険者より王国兵へと傾いていくのだった。




