討伐1
選ばれた守護者以外は各部屋へと戻っていく。
本来なら、序列一位のダークドラゴンも呼びたかったのだが、彼はあい変わらず他の地の亜人たちに配下につくよう説得をしている。追加エリアにはダークドラゴン以上の魔物もたくさんいるが初期エリア内では彼は最強のはずなので戦ったとしても早々負けることはないだろう。逃げることも指示してある。
それにドラゴンという種族は魔力と強い関係があり魔族や魔物も一目置いている。貴重な戦力ではあるが彼にしか任せられないと考えお願いしている。
(しかし、今回は無理してでも戻ってもらうべきだったかな)
今から魔王を殺さなければならない。
助けるために必要だとは分かっていても気がのらない。苦しむ姿を見なければならないのだから。
それに本当に記憶を残したまま転生できるのかは分からない。それどころかクエストが再発生しないという事は魔王が復活しない可能性もあるという事なのだ。
これについても話し会いを行ったが、魔王が生き残る事でプレイヤーが魔城にやってきて全滅する可能性が高い事を踏まえクレハたちによる魔王の討伐が選ばれた。何より魔王がそれを望んだのだ。
無抵抗の魔王を殺すことは今のクレハなら不可能ではないはずだ。しかし、魔王が復活の際、記憶を失っていた場合クレハの事を殺そうと襲いかかってくるだろう。
そのために他の守護者でクレハを守り、場合によってはもう一度魔王を殺さなくてはならない。
殺さずに魔王を止めることが出来たら記憶を失っていてもどうにかなるかもしれない。しかし、止めることが出来ず、また殺してしまった場合この闘いは永遠に続くかもしれないのだ。
「記憶の継続に失敗しても殺さずに止めること」
事前に説明を聞いていた守護者たちにも緊張が走る。自分より強い魔王を殺さずに止めるのだ、ただ殺すよりも難しい。それにもかかわらずダークドラゴンだけでなく、この場に序列が高い者たちがいないのにも理由がある。それは失敗した際のリスクが大きいからだ。
魔王が暴れた際に出る死傷者は各守護エリアで復活する。放置しておいても本来なら問題ないのだが、もし守護者たちも魔王と同じく記憶を失い、魔王に加勢されると非常に面倒になる。そのため援軍を阻止するため序列が高く強い魔族ほどこの戦闘に参加させることが出来ない。
序列の上位者たちには復活に失敗した仲間を玉座の部屋にたどり着かせないようにするという気の重い仕事を頼んでいるのだ。
◇
「それでは魔王様、はじめさせていただきます」
クレハと守護者たちが武器を構える。
「たのんだぞ」
魔王はクレハが攻撃をしやすいように膝をつく。
クレハが狙うは心臓がある右の胸。渾身の力で剣を突き立てる。
レベル上げと魔城から持ち出した剣のおかげで何とか体に刃が沈む。
「ぐぅぅぅッ」
魔王は声こそ上げないがうめき声が漏れる。クレハの手に汗がにじむ。
(できるだけ楽に終わらせないと)
クレハは両足に力を入れ大地を踏みしめる。剣に体重をかけ、さらに奥へと突き立てる。しかしまだ体を貫通するには至らない。
「あああぁぁぁ」
クレハは叫びながら両手に全力を込める。声を出す事で魔王の苦しむ声を耳から追いやる。
剣の長さを考えればあと少しで貫通する。しかし刺されば刺さるほど剣を伝ってくる血のせいで上手く剣を握れなくなってくる。
剣が進まなくなり中途半端に刺した状態にクレハは思わず涙を浮かべる。人間ではないが人を刺す感触が嫌でも伝わってくるのだ。
(はやく、はやく終わって!!)
そんなクレハの焦りが伝わったのだろう、魔王は苦しそうにしていた表情を無理やり抑える。流石に笑うのは難しいが、せめてくるしそうな顔を見せないつもりなのだろう。
魔王は剣の刃を自分で掴むと自らの体を押し付ける。クレハももう一度全力で押し込む、すると押し戻すような抵抗が消え、剣は柄まで魔王の体に飲み込まれていった。
実際には短い時間だったのだろうが、クレハにはとても長く感じられた。止まらない涙を袖で拭い魔王を見つめる。クレハを不安にさせぬよう無理をしていたのだろうすでに力は抜け腕を垂らしている。
そして、剣を引き抜くと黒い血液を大量に吹き出し魔王は倒れこんだ。
「終わった……」
悲鳴もあげず最後まで立派に役目を果たしたのだ、きっと記憶も鋼の意志でつなぎとめるだろう。魔王の勇士を見た全員がそれを疑わなかった。
しかし、世界は拒絶する。
魔王がクレハと闘った末に死んだのならこの時点でクエストは終わっていたかもしれない。しかし魔王は自分の意志で死んだのだ。
『それはクエストにふさわしくない行為だ。ふさわしくない行為は正さなければならない。正しい価値観を守るために』
やがて魔王の体から魂の光が浮かび上がる。
(私の時と同じように光の川をながれるのかな?)
だとすると復活には少し時間がかかるのかもしれない。武器をおろし魔王の魂をぼんやりと眺めていると、魂は玉座の間の扉の前に飛んで行った。
その光景にクレハは不安を覚える。魔王の体はまだ残っており、魂は扉の前にとどまっているからだ。
「何かおかしい…」
光を放っていた魔王の魂が徐々に黒く染まる。黒い魂はうごめきながら大きくなり、やがて人間の大人の大きさになると地面に落ちた。
『ふさわしくない闘いは、ふさわしい闘いに正さねばならない。そう、魔王にふさわしいのはやはり暴力に満ちた闘いだろう』




