アーテクト3
クレハが狩りをしながら森までたどり着くと、すでにレベルは25になっていた。
休まずにずっと戦い続けていたはずなのだが不思議と疲れはない。感覚が現実になったので本来なら疲労を感じるはずなのだが、リリスを取り込んでいるからだろう。疲労や睡眠など、リリスが本来感じない感覚はクレハにとっても必要なくなっているようだ。
(体力や魔力もリリス本来の力には及ばないんだろうけど、人間としてはかなりすごい才能を持っているようなものかしら?)
実際レベル25になったばかりなのだがすでに27レベルのモンスターをソロで倒しているのだ。通常なら2,3人の冒険者が必要になるだろう。
とはいえ、いくら魔族と、リリスの能力特性を受けているからと言ってレベルが高くなるにつれ魔物の強さは格段に強くなっていく。レベル100までソロで危険なくレベル上げができるなんて甘いことは考えていない。
(それに、レベル上げは前ほど楽しいとは思えない)
魔族との会話を通してクレハがレベル上げを残酷に感じたことに偽りはない。襲い掛かってくるならまだしも、積極的に亜人を殺してレベルを上げようとは思えなかったのだ。
そこでクレハが考えたのが武器の扱い方の熟練度と魔法の熟練度を上げる方法だ。
最初は自分が積極的に亜人を殺さずに済むようにと考えついたのだが、よくよく考えればこれは魔族にこそするべきという考えが強くなる。
現実の世界となったエルドラドではレベルを上げるためにモンスターを狩って経験値をためる。これは以前と変わっていない。
そして魔族は死ぬことで今まで稼いだ経験値をすべて失うのだ。そのためレベルは元に戻ってしまうのだが、記憶を継続できても強さは何も変わらないのだろうか?
(体の能力やスキルは失っても、記憶が残るということは戦略や知識を増やしていくことはできる。そして武器の扱いや魔法の扱いである熟練度も扱い方を覚えていればレベルダウン前と同様に扱うことができるんじゃないかな?)
もちろん死なないに越したことはないのだが、いつ殺されてリセットされるかわからないのであれば、レベルに依存しない強さを求めるべきだ。そのためクレハは人間への攻撃を行わないように守護者たちに言ったのだ。
人間や冒険者たちも同様に熟練度を上げることができるだろう、ただし疲労や睡眠を必要としないクレハや魔族たちこそ、この恩恵を最大限得ることができるはずだ。
「ペル、今日の狩りはこのくらいにして、あとは私と実践をしましょ」
クレハのレベルが25に上がったとはいえペルのレベルは45、普通に戦えばクレハは殺されてしまう。しかし手を抜いてもらってはペルの熟練度が上がらない。そのため街で買った木刀を手渡す。
「この武器でなら全力で攻撃していいわよ。骨折くらいはするでしょうけどそう簡単に死なないでしょ。」
守護者たちは決められたレベルと強さを最初から持っている。自分の体が強力な武器になるものも多いので本来は必要ないのだが、強さがリセットされることを考えると力だけに頼るわけにもいかない。代わりに武具を装備することも考えていかなければならないのだ。
「それじゃあどちらかが負けを認めるか、決定打を与えるまで、続けるわよ!」
――――
二人とも有効な攻撃を与えられないまま一時間ほど攻防は続く。
力はペルのほうが強いが、人間であるクレハのほうが武器の扱いに慣れており、上達が早いのだろう。最初は攻撃を防いでいたため体制を崩されていたが、受け流すことに慣れてきたため今ではクレハのほうが押している。
「そろそろ負けを認めたらどうかしら!」
(レベルが低くても武器の扱いは私のほうが上のようね、でもペルも少しだけどうまくなってきている。これなら死んでも強さを失わないで済むかもしれない)
クレハの挑発にペルの顔がゆがむ。クレハのことをペルは尊敬しており大好きなのだが、レベルが20も違うのに自分が押されているということに対する驚きを感じて。
今まで力だけで勝ってきたため、熟練度の重要性を完全には理解していないのだろう。
今までよりも大振りに構えると切りかかってくる。
(やはりプライドが高いという所も弱点になりえるか……)
クレハはそう考えるとペルの攻撃を受け流す。力をずらし地面に木刀がめり込む。
そして、クレハは体を回転させると手が伸び切ってがら空きになったペルの脇腹に木刀を薙ぎ払う。
「ぐぅぅうあぁ!!」
悲鳴を上げながらペルが吹き飛ぶとクレハは武器をしまう。
「ここまでね。木刀でなければあなたは死んでいたわよ」
「クレハ様お見事でした、私の負けです。しかしなぜ私はクレハ様に勝てなかったのでしょうか?失礼かとは思いますが、クレハ様より私のほうが強いと思っていました。実は私はとても弱いのでしょうか?」
負けたことに疑問を感じるのはいい傾向だ。油断をなくし、より早く強くなることにつながるだろう。
「あなたのほうが力もスピードも速いわよ、でも武器の扱いに全然慣れていないのよ、攻撃以外の使い方をできないでしょ?」
ペルはうなずく、何度攻撃してもクレハに攻撃が当たらなかったのはすべて武器で受け流されたのを思い出して。
「これはレベルとは関係ないわ。あなたもできるようになるから、今後も訓練を怠らないようにね」
「かしこまりました、城に戻ったら、ほかの守護者たちにもこのことを伝えましょう」
クレハはうなずくとエレール村のほうから誰かが走ってくるのを見つける。
「ペル、訓練は終わりよ。人が来るわ、フードをかぶって」
そういいながらクレハもフードをかぶる。
訓練をしているうちにはずれていたが頭の角が出ていたからだ。
向こうもクレハたちに気付いたのだろう、まっすぐこっちに向かってくる。
(冒険者じゃない、村人の格好ね、何かあったのかしら。……それにしても、どこかで見たことがあるような……)
「冒険者様ですか?」
息を切らせながら村人の女が聞いてくる。泣いていたのだろうか、目を赤くしている。
こちらのことを知らなさそうな質問から、敵では無いと判断する。
「そうですよ、何か私に御用ですか?」
「お願いです、どうかエレール村を、私の父を助けてください!!」
女はそう懇願すると地面に頭をこすりつける。何度もこけたのだろうか、手には血が滲み服には砂がついている。
困惑する空気の中でメルオールの嗚咽だけが続いていた。




