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インタートライバル・リンケージ  作者: 西亥はるま
10/25

今後の方針

クレハ編になります

コンコンッ


玉座の間にかすかに響く音を聞き魔王は右手を上げる。


「失礼いたします」


 魔王の右手に反応するように巨大な扉は開かれる。クレハが部屋に入ると重い音を立てて再び閉められた。


玉座に続く階段の前まで来ると片膝をついて首を垂れる


「よく来たな、今日は今後の方針を少し決めたいと思うのだが、お前の意見を聞かせてほしい」



「私でお役に立てるならば」


 クレハは顔を上げるとにこやかにほほ笑む。今日は使い魔にお願いして布きれをもらっていたため裸ではない。だれも気にしないだろうがクレハが気になるのだ。


 クレハがこの城に来てから3日が経った、初めて来たときも今日と同じように、魔王だけでなく各部屋の守護者が全員集まっていた。

 しかし今では殺気は感じられない。むしろ友好的な感じがする。魔族たちがクレハを人間としてよりも友人として扱ってくれているなど、冒険者たちは誰も信じないだろう。

 しかし話し合いを経て、クレハが誠実で欲が少なく、魔族のことを心配しているということを理解しはじめていたのだ。これはクレハが必死に魔族と向き合ったということもあるが、クレハ一人では難しかっただろう。彼らがクレハを信用する最大の理由はリリスだ。リリスはクレハを信じてほしいと願い出たのだが魔族の力による序列は絶対だ通常では上のものに意見するなどありえない。

 それでも意見をしたリリスに守護者たちは驚き興味を抱いた。しかも、リリスはクレハの価値が自分の命などでは到底賄えないほど貴重なものだと主張したのだ。

 はかない命である人間が優れた命を持つ魔族の価値に勝る。異常性を感じクレハは魔王の前で話をする機会を与えられたのだ。


「魔族だけでも何度か意見を出してはみたのだがその結果この城の戦力強化が最重要だという結論に至った。クレハはどう思う?」


「私もその意見に賛成です。しかしながら人間を襲うことが戦力の強化になるとは考えないでいただきたいです」


 魔族たちは眉をひそめる。


「人間が持つ魔族への敵対心はとても巨大です。数度の攻撃ののち、精鋭を引き連れて反撃に出てくるでしょう、こちらの戦力が整う前に壊滅すると思います」


 魔族たちは落ち着いた表情で話を聞いている、初日のように不快感を口にする者はいない。クレハは否定をした際に必ず別の案を出すからだ。


「ですのでこちらの戦力を弱く見せつつ、陰で戦力の強化を狙いましょう」


 魔王が満足そうにうなずく


「具体的な方法は?」


「はい、今考えた思い付きではありますが、いいでしょうか?」


「検討は後ほど皆でする。とりあえず言ってみてくれ」


「今からする話は此処だけにとどめてください。守護者の部下にもです。守護者の方々は二つ名を持つのでどんなに強い人間でも魅了はできないと信じています。しかし、通常の魔族の中には魅了などに耐性のない者もいると思うからです。それに守護者の方々も決して油断はしないようにお願いします、私の知らない魔法やスキルで名前持ちであっても魅了できる可能性はゼロではありません」


 そんな魔法があるならどうにも対処ができないのだが、魔族は人間たちを下に見ている。油断されるより用心したほうがいい為先にくぎを刺す。

 クレハは詳細を伝えていく。


「まずは魔王城に人間が攻めてこないようにします。レベル上げには自分より同格以上のモンスターと戦う必要がありますのでこの城で考えるとレベル40~50までの冒険者が来るはずです。これは守護者クラスだと倒せなくもないのですが、楽勝というわけにはいきません。守護者が万が一倒されれば強さがリセットされるため奥の部屋で打ち取ったとしてもこちらの被害のほうが大きくなります。そこで守護者のレベルを20程度に下げるのです。城の外から魔物に入らせ、レベル上げに向かない場所だと思えば20レベルまでの冒険者しか来なくるはずです」


新規が少ないためほとんど20レベルの者など残っていないため危険はぐっと減るはずだ。それでも奥まで進んで来たら倒すのだが。20レベルのPCが負けたことで高レベルPCが出てくるとは考えにくい。


「次に、魔王様を討伐するクエストを冒険者が受けられないようにいたします」


 説明しかけた時、魔王が声をかける


「そんなことができるのか?」


「憶測は入りますが可能だと考えます。しかし問題は陛下が討伐対象だということです。陛下を倒した後に報告をしなければクエストは占有されたままになるとのですが、一度死ぬという方法以外に達成することはできないでしょう」


 玉座の間は凍りついた、実際に温度が数度下がった気がする。


「やはりそうなるだろうな、そしてそれができるのはクレハ、お前だけなのだな?」


「はい、残念ながらクエストを受けるのは魔族では無理でしょう。私も今の体は半分は魔族であるリリスのものですが、最初に皆様に出会ったときに皆様は人間だと判断されました、おそらく大丈夫だと思います」


しばらく考え込んだ後魔王は答える。


「魔族を守るためならば仕方ないだろう。まさか私が自分以外のために死ぬとは夢にも思わなかった。クレハと話しているうちに人間の感情が芽生えたのだろうか」


 魔王はどこか嬉しそうだ。


「いえ、魔族も元々は豊かな感性をお持ちなのでしょう。陛下に付き従う皆様は陛下の強さだけに魅かれているのではないのかもしれません」


「世辞にしても悪くはない気分だ、それなら死んでも安心だな」


 こんなに気分良く笑うところなど守護者達は見たことがなかったのだろう一様に驚いている。


「そして死んでからが陛下のお力を示す時です、私は人間と魔族の死と復活の違いは生への執念だと考えています、人間は死んでも以前の記憶を引き継いでいます。それは死ぬ際の痛みと恐怖を記憶しているということです。痛みと恐怖が記憶に焼き付くことで生への執念が生まれるのです」


 人間ではない魔族たちは聞き逃すまいと耳をすます。


「一方魔族は死んでも記憶を引き継ぎません、痛みを感じても恐怖を感じないそのため生への執念が弱いのではないでしょうか」


 今度は人間であるクレハが魔族たちに意見を求める。

 守護者達が意見を上げる。


「確かに死ぬことに恐怖はないな」


 続けてナイトデーモンが声を上げる。

 

「私も同じですね。過去に腕を失ったことですがあるのですが自然と再生したので怪我も気にならなくなっていました。痛みはありますがけがにも恐怖は感じません」


 クレハは軽くうなずく


「死ぬことで能力がリセットされる理由はわかりませんが、記憶を引き継ぐことは仲間たちに自分の殺した相手の情報を伝えるためにとても重要です。陛下には死んでいただく際私を憎むことでこの記憶を継続して頂きたいのです」


「わかった、しかし我々を助けるために協力をしているクレハのことを憎み続けるのは難しいかもしれないな」


 魔王の言葉は素直な気持ちなのだろう。


「それでは痛みと記憶がなくなることを嫌だと思い続けてください。嫌だという感情が恐怖に近い気がします」


 嫌悪くらいは分かるだろう、そうクレハは願う。


「そして、クエストを受けるため私はアーテクトの街にいこうとおもいます。クエストを受け、陛下の復活が無事終わったら、次は個々の戦力アップを始めましょう」


「わかった、時間はどれくらいいる?あまり長引き人間どもに先手を取られると厄介だろう?」


 その心配はしていた。稀にしかプレイヤーが来ないといってもゼロではない。もたもたしていると再び魔物たちは記憶を失いリセットされる。


「今日から20日後に実行しましょう。すぐにでもしたいのですが、私も陛下に傷をつけられるようになるために多少力をつける必要があります。」


 クレハはレベル5のままだ。魔王はレベル50。

 今のままでは無防備でもステータスに差がありすぎて傷一つつけられないはずだ。せめてレベル30以上は無いと話にならないだろう。


「アーテクトに行くうえで私を殺した人間にまた会うかもしれません、ホームはここなので死んでも構わないのですが、みすみす殺されたくはありません。レベル上げのこともありますので、陛下のしもべを一人貸してもらえませんか?」


 魔王は即答する。


「もちろんかまわないとも。守護者の中から好きなのを選んでかまわん。それと装備も準備しよう、武器と防具なら城の宝箱の中にあったはずだ」


「ありがとうございます、ではドッペルゲンガーをお貸しください。できるだけ人間に見える必要がございます、それと人間の服はありませんか?」


「なるほど、分かった。ドッペルゲンガーは幻術で姿をくらませることができるはずだが、見破られるとも限らんな。魔法のアイテムでできた人間の皮をかぶらせよう。装備が外れない限りばれないだろう。しかし人間の服はないぞ、さすがに必要ないからな」


 武器や装備はダンジョンの宝箱で見つかるゲームはよく見かける。しかし服はあまり見かけない。


(思ってはいたけどやっぱり普通の服は魔王の城にはないよね……。武器と防具はありそうだけど、裸に直接装備するしかないのかな)


クレハは深いため息をつく。


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