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キラー×キューピッド  作者: 弁当箱
第一章 美女と魔獣の恋
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第十話 盗賊の末路 ★

 シェイドが拘束した盗賊のリーダー格は、バッシュという名前だった。

 彼は今、両手を後ろで縛られて、道なき道の先頭を歩かされている。後ろにはシェイドがナイフを構えているので、バッシュは安易に逃げ出すことができない。

 そしてリーンは、そんなバッシュの背中をバシバシと叩きながら大笑いしていた。


「アッハッハ! いやぁ、お前も運が悪いなあ! 私不幸な奴を見るのは大好きだ!」


 女神らしからぬセリフ、というよりはおおよそ女神が言うセリフではないが、シェイドはもう気にしていなかった。

 リーンの方もそうは言ったが厳密には本心ではない。

 不幸な人間にも種類がある。つまり、リーンにとってバッシュのような賊は、どこで野垂れ死のうが知ったこっちゃないということであった。とは言え、今死なれると困る訳だが。


「チッ……」


 バッシュはリーンに聞こえるかどうかの舌打ちを繰り返す。彼はその怒り以上に屈辱を噛みしめていた。これが大衆の面前ならバッシュは間違いなく赤面していただろう。

 子ども二人に捕まって、こんな風に歩かされているのは彼にとって耐え難い屈辱なのだ。


「にしてもトレーズの町は真逆だったとはな! いやあ、参った参った!」


「笑い事じゃない」


 シェイドが表情を変えずに言う。

 合計4回のコイントス。その結果、つまりリーンの決定によって彼らの進行方向はめちゃくちゃになったのだが、当然のように彼女が悪びれる様子はない。


「いいじゃんか」


「お前が何度もコイントスを提案しなければとっくにトレーズには着いていたんだ」


「おいおい、コイントスのせいか?」


「お前のせいだと言った」


「ああ"?」


 二人の言い争いがまた始まろうとした時、先頭を無理やり歩かされているバッシュが口を開いた。


「お前ら、町に着いたら本当に解放してくれるんだな?」


 今、彼らが向かっているのはトレーズの町ではない。ギリアムの森を迷走していた彼らが、あそこからトレーズに行くのには遠すぎたのだ。

 なので、丁度バッシュを捕まえたシェイド達は、彼に近くの町まで案内してもらうことにした。その際に町に着いたら解放するという約束をしたのだ。


「約束は守るよ、なあシェイド」


「ああ」


 交渉をしたのはリーンなので、シェイドとしては関しない所だが、彼は一応頷いた。


「本当だな?」


 バッシュは足を止めて再確認する。


「分かってるからさっさと案内しろ。私は腹が減ってんだよ」


「クソッ……」


 そこで会話は止まって、彼らは黙々と歩を進めた。バッシュは両手を後ろできつく縛られているので、ときおりよろめきながら進む。そうすることで、彼は脱出の隙を窺っているのだ。

 しかしその思惑はシェイドに見抜かれていたため、バッシュは逃げ出す隙を作りだすことができなかった。


「そういえば私達が向かってるのはなんて町なんだ?」


 リーンが沈黙を破る。


「……ガリフスって町だ。もうすぐ着く」


 バッシュはリーンを睨んで低い声で答える。


「着いたらまず飯だな、シェイド」


 ガリフスの町は、トレーズの町とギリアムの森を挟んでほぼ逆位置に存在している。

 つまり、彼らがセーヌ=アティリアに向かうには、またギリアムの森を抜けなければならないのだ。それはリーンには知る由もないことだった。


「愛は集めなくても大丈夫なのか」


「まだ大丈夫。無くなっても一日や二日くらいは耐えられるからへーきへーき」


「ならいいが」


 そんなこんなで彼らはギリアムの森を抜け、ガリフスの町に到着した。




 ガリフスは、赤い屋根と木々の緑が立ち混ざった綺麗な町だった。例えるなら、森の中に町があるような景観だ。木々は屋根の上のより少し高いくらいで、伸びすぎた幹と枝は切られた形跡がある。

 シェイドが見上げると、葉と小枝を切り取った太枝に洗濯物が干されているのが見えた。

 そんな景観を元に、ガリフスの森林街と呼ばれることもある。


「案内はここまでだ。解放してくれ」


 町につくなりバッシュはそう言った。

 そんな彼の意見を無視してリーンは言う。


「へぇー。良い町だなここ。バッシュ、せっかくだしうまい飯屋にでも案内してくれよ。こうも木だらけだと入り組んでて分かりにくい。解放はその後してやるから」


「おい。話が違うじゃねーか……! それに、ナイフを突き立てたまま町を歩くのか……? 無理だろ……!」


 バッシュは慌ててシェイドに視線を移して言った。シェイドはなんとなくリーンが約束を守らないことを察していたので、狼狽えるバッシュを黙って見ていた。

 バッシュの言葉に苛立ったリーンは、彼の前にずいと立って下から睨みつける。

 その子どもとは思えない眼光に、思わずバッシュは口をつぐんだ。


「話が違う? お前盗賊だよな。私達を捕まえてどこに売り飛ばそうとしてたんだ? そうなったらシェイドはともかく私はどうなってたんだろうな。

 他にもお前、人攫いとか色々やってきたんだろ? そんなドクズとの約束をどうしてこの私が守らないといけないんだ。黙って従ってろボケナス」


 リーンがあまりにもバッシュとの距離を詰めて話したので、シェイドは後ろで警戒していた。それがなければバッシュはリーンを蹴飛ばしていただろう。

 青筋を浮かべたまま、バッシュは罵倒を返すこともできない。


 言い終えたリーンは前を歩いていく。

 シェイドはバッシュの背中を軽く押して歩かせた。町中でナイフを握ったまま歩くのは流石に憚られるので、彼は袖の内側にナイフを潜ませる。

 そうなると、バッシュにはもうどうすることもできなかった。

 そもそも、ナイフなどなくてもシェイドは逃げ出そうとしたバッシュを一瞬で制圧できるのだが。


「で、バッシュ。どっちだ?」


 前の分かれ道でリーンは肩を竦ませる。

 バッシュは俯きながら無言でその先を行って、先導した。


 しかしそんな時、ふとリーンが「待て」と声をあげる。

 バッシュはピタリと止まり、シェイドはチラとリーンに視線を向けた。


「ちょっとこっち来いよ、バッシュ」


「……なんだよ」


「これ、お前か?」


 リーンが指差したのは、道の壁に張り出された張り紙のうちの一枚。そしてそれは指名手配書だった。

 デッサンで描かれた似顔絵の下には、"林嚇のバッシュ"と文字が書かれている。さらにその下には懸賞金、罪名など色々と情報が載っていた。


「……いや、人違いだろ」


 バッシュはなるべく顔を歪ませて言った。彼の鼓動はバクバクと脈打っている。

 それを見てリーンは吹き出した。


「プッ……ハハハハ! お前それで顔変えてるつもりかよ!」


 この"林嚇のバッシュ"の似顔絵は、今リーン達の目の前にいるバッシュとあまりにも似すぎている。人違いということはないだろう。


「つーか、懸賞金! 12万ウィリアって売り払った私の羽衣(はごろも)より高いじゃねーか! シェイド、こいつギルドに突き出そうぜ!」


「ま、待て! 金なら用意する……! 懸賞金以上の金を! だからそれだけはやめてくれ!」


 これがバッシュの恐れていた事態であった。自分の手配書が貼り出されているため、彼はシェイド達と町に入りたくなかったのだ。


「金じゃねーんだよ、金じゃ」


 リーンは手を銃の形にして、それを自分のこめかみに当てて言った。



ーーー



 この世界では、職人や冒険者達が集まった自治体をギルドと言う。

 ギルドでは、国からの援助を受け、国民の生活をより良くするために、仕事を提供したり、バッシュのような犯罪者を取り締まっていたりする。


 現在、シェイドとリーンはガリフスの町のギルドで食事をしていた。

 ギルドは基本的に酒場だ。奥に進めば受付や掲示版などがあるが、テーブルを囲む者達は大体食事を楽しんでいる。

 ギルドには色んな物が流通するので、味はともかく、そこいらの飯屋より料理の幅が広い。なので、一般市民も食事をするためだけにギルドへ足を運ぶことが多いのだ。そのため、ギルドはいつも賑やかである。


「あと、これとこれも」


 リーンは先ほどバッシュをギルドに突き出すことによって得た懸賞金で、大量に料理を注文していた。

 たった二人でテーブル一つを占領し、すでにその上は料理で埋め尽くされている。

 それでもなお料理は運ばれてきていた。自然とリーン達には視線が集まる。


「それにしても、容赦なかったな」


 シェイドはバッシュのことを思い出して言った。


「ったりまえだろ。ああいう悪党が世界の愛を減らしてるんだ。あんなの断頭台送りでいい」


 シェイドとリーンは料理に片っ端から手をつけながら会話をする。

 バッシュを突き出した後、シェイドは元の姿に戻され、いつもの服に着替えていた。


「悪党でも死んだら愛は減るんだろう?」


「今の状況で言えば、私の知らない所で死んでくれたら愛は減らない。世界ごと監視していた時は多少なりとも減ったけどな。今の私には近くの愛にしか干渉できないのさ」


「なるほどな」


 それはそれで、リーンも気楽な訳だ。


「そもそも、愛は世界に必要なのか? なくなったらどうなる?」


 シェイドは要するに、リーンが消滅したらどうなるのかと無意識に質問していた。彼はあとで自分の質問の意味に気づいたが、リーンはこう答えた。


「必要かどうかじゃなく、愛はこの世からなくならねーよ。前も似たようなこと言わなかったか? 私」


「いや」


 シェイドは普段あまりリーンの話をまともに聞いていないので、覚えていなかった。

 リーンはシェイドをじっと睨んでから、ジョッキの酒を一気に呷る。シェイドもそれに合わせてジョッキを傾けた。


「まあ、愛って言ってもカタチは様々だよ。愛は恋だけじゃなくて、楽しいとか嬉しいとか、憎いとか死にたいだとか、どんな感情からも生まれてくるからな」


「そうなのか」


「そうさ。だからそう言った感情がこの世から無くならない限り、愛もなくなることはない。……ないけど、愛を管理する存在は必要だろ?」


「……」


「っべぇな、これ食いきれねー。見てないでお前らも食えよ!」


 リーンが周りに集まった人々にそう言うと、彼らはテーブルの周りにたかってきた。

 それを見たシェイドはすっと立ち上がり、別のテーブルに向かった。



挿絵じゃないですが超かっこいい絵を描いてもらいました

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


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