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2 創造神

 神が、閉じていたまぶたを開きテネースを見る。

 青い瞳に見つめられたテネースは、息をするのも忘れて神の目を見返した。


 今までと同じ青く澄んだ瞳。しかし、今までとは違い、決して無機質な輝きではなかった。アリスほどではないが、はっきりと見て取れる感情が浮かんでいる。涙で、うっすらと潤んでいる。


「アリ……ス」


 元々同じ存在だけに、外見は同じだった。表情の有無が神とアリスと厳然と分けていた。


 けれど今、神の顔には確かに表情が浮かんでいた。アリスほど豊かなものではない。しかし、今までの無表情では決してない、微笑みが、テネースに向けられていた。


「さあ、テネース。あなたのしたいことを、わたしたちのしなければいけないことをしにいきましょう」


 テネースを誘うように、神が右手を差し伸べる。


「あ……え、と」


 じっと神の手を見つめ、ためらうテネース。堕ちたる神を吸収する際、テネースは手を使った。あの手を取って同じことが起きたらと思うと、一歩を踏み出せない。


「大丈夫。あなたも、わたしも望んでいない。神殺しの力は発揮されないわ」

「う、うん」


 唾を飲み込み、神に近づく。差し出された右手に左手を重ねる。


 アリスには、決して触れなかった。なにかというとテネースの頬を撫でる真似をしたアリスだったが、本当に真似だけで、お互いの存在を確かめ合うことはできなかった。


 今、テネースは確かに温もりを感じていた。


 ただ手と手を繋いでいる、それだけなのに、涙が零れそうになってテネースは慌てて上を向いた。


「みんな待ってるわ。準備はいい?」


 訊ねる神の声も、若干震えているようだった。


「うん。行こう」


 下を向いても大丈夫。そう判断したテネースは、神を見て頷いた。


 神は最初に立っていた場所から動いていない。床に開いた穴はすぐ側にある。


 二人は一瞬視線を交わし、ほぼ同時に穴へと飛び込んだ。


 わずかな浮遊感の後、地上を歩き回る生き物が体感することなどまずあり得ない急降下が始まった。髪も服も激しく乱れ、身体を打つ風は痛いほどだ。


 全身で風を切っていく感覚は恐ろしく、反射的にテネースは目を閉じ、神の手を握りしめる。すぐに、優しく握り返された。


 激しい風切り音に混じって、神の声がわずかに聞こえた。そう思った直後、恐怖でしかなかった落下が止まった。


 否、落下は続いている。だが、それは歩くような速度でしかなく、今までの急降下に比べれば止まっているようにしか思えなかった。


 きつく閉じていた目を開く。


 穴の底とテネースたちのすぐ側、二つの白銀の輝きが深い穴を照らしている。ゆっくりとだが、穴の底が近づいてくる。


「……すごい」


 不思議な感覚に、テネースの口から感嘆の声が漏れる。


 だが、落下が続くにつれテネースの顔が引きつっていく。上から見た時も十分不気味だったが、近くで見ると創造神の欠片はおぞましいとしか言いようがなかった。


 犬の顔が突き出ているかと思えば、その鼻先からは人間の手が生えていて人の足を掴んでいる。

 別の場所には、鱗の代わりに雑草を生やした魚の姿もある。生き物だけでなく、岩や木などが突き出てもいる。

 唇の代わりに歯で囲まれた人の口や、目の中に耳が生えた豚の顔もある。


 他にも様々なものが混じり合い、創造神の欠片を覆っている。そしてそれらはすべて、石のように硬くなっている。


「まるで、世界のすべてを内包してるみたい」


 神の言葉に、テネースは背筋が震えるのを抑えられなかった。


 辛いことは多かったが、それでもテネースは世界を美しいと思ってきた。だが、そんな世界を一つ所に集めたら、あんなにもおぞましくなるのだろうか。


「本当に、あんなものが世界を作ったのかな」

「創造神にとって世界を作るという行為は、自身の身体を引き裂くことなのかもしれない。そうして、自分の中の要素をぶちまけて、大地とそこに生きる生命を配置する。ああやって突き出てる物は、わたしたちの遙か昔の姿なのかも」


 テネースは神の言葉を否定するように首を振ったが、その視線は創造神の欠片から片時も離れなかった。おぞましく気持ちの悪い存在だが、不思議と引きつけられるものがある。


「もしテネースがやっぱりやめようって言うなら、今まで通り神と神殺しの役割を果たそうって言うのなら、わたしはそれでもいいと思う」


 予想だにしない言葉に、テネースの視線がようやく創造神の欠片から外れた。神は、テネースを見ていなかった。創造神の欠片を無表情に見ている。


「あれを見ていると、不安になるのも迷うのもわかる。だから、わたしはテネースが考えを変えたとしても、それを支持する」

「……変えないよ。予定通り、神の力は創造神の欠片に返す」


 不安はある。けれど、神とネイオスに伝えた気持ちに嘘はない。その思いに応えてくれた二人、それよりもずっと前から支えてくれたマリーカたち。そして、テネースを信じて神と一つになったアリス。

 後になど引けるはずがない。


「そう」


 短く答えた神が、ぎゅっと右手に力を入れた。


 穴の底が、すぐそこまで迫っていた。



     ***



「なんで仲良く手を繋いでるのよ」


 テネースと神を出迎えたのは、露骨に不機嫌なマリーカの声だった。


「え、あ!?」


 手を繋いでいるという意識のなかったテネースは、我に返るなり真っ赤になって手を離した。


 そんなテネースを見て、ギュアースが吹き出す。


「テネース、アリスは?」


 不満げにしていたマリーカが辺りを見ながら訊ねる。他意のないの質問に、テネースが頬を引きつらせた。


 全員が息を詰めて見守る中、テネースは深呼吸をして口を開いた。


「神様の所に帰りました。だから、創造神の欠片に力を返す準備はもう整ってます」


 声を震わせることなく、言うことができた。


「ご、ごめん」

「なんでマリーカが謝るのさ」


 テネースが、無理矢理に笑みを浮かべる。


「本当に、やるのですね」


 教皇が、神とテネースを交互に見る。テネースも神も、頷くのに躊躇を見せなかった。


「そういや、神の力を返すって普通に言ってたけどよ、どうやるんだ?」

「あ、それは、堕ちたる神を吸収するのとは逆に、力を返すって強く念じて触れば大丈夫だと思います」

「たったそれだけでいいのか?」

「普通なら無理だけど、この力の持ち主に返すだけだから。今まで神殺しを選んできたように、力自体が本来の持ち主を選ぼうとするでしょう」


 断言する神に反論できる者がいるはずもない。特に疑っていない者、信じ切れず眉根を寄せている者、思案げな者。表情は様々だが、誰も口を開こうとしない。


「それじゃあテネース、まずわたしから力を返すからしっかり見ていて」

「え、ぼ、僕から先にやった方がいいんじゃ?」


 万が一異変が起こった場合、神が力を持ったままなら対処することも可能ではないのか。だが、神は首を横に振る。


「わたしの方が多少なりとも力の扱いに慣れてる。だから、最初に手本を見せるわ」

「確かに手本を見せてもらった方が安心だけど、僕はその力を自由に使えないんだから、やっぱり僕が最初の方がいいよ」

「大丈夫。何も起きないと思うし、起こったとしてもテネースならなんとかできるから」


 根拠も何もない言葉。しかし、アリスと同じ顔で、信頼していると言葉だけでなく表情でも告げている神に反論できるはずもなく、テネースは黙り込んだ。


 そんなテネースを、神はアリスのそれによく似た、しかしやはり違う笑顔で見て――背を向けた。創造神の欠片に見つめ、歩き出す。


「あ……気を付けて」


 何も起こらないかもしれない。何か起こるかもしれない。それこそ神にもわからないことだ。今テネースにできることは、何も起こらず、無事にすべてが終わるよう祈ることだけだ。


 十二個の瞳が見守る中、神が右手をそっと持ち上げる。


 誰かが、唾を飲み込んだ。


 創造神の欠片が、震えた。


 表面から突き出た手足や木などの一部が欠け落下したのをテネースが認識した直後、地面が大きく揺れ動いた。


「な、なに!?」


 倒れないよう踏ん張りながら、テネースは他に創造神の欠片に変化はないか観察を続ける。


「神様が近づいたことを喜んでいるのかしら?」

「あれが、自分の周囲を知覚できるとでも?」


 イアイラの呟きにネイオスが胡乱げな眼差しを創造神の欠片に注ぐ。


 激しい揺れの中、神はふらつくこともなく手を伸ばし創造神の欠片に触れた。その途端、揺れが止まった。


「やっぱり知覚してると思うわ」

「知覚してるかどうかはわからねえけど、外見通りに得体の知れない存在なのは確かだな」


 ギュアースは背中の大剣に手を伸ばし、油断なく創造神の欠片を睨んでいる。ネイオスもいつでも剣を抜けるよう身構えていた。


「テネース、大丈夫よね」


 マリーカがテネースの服の裾をつまみながら、呟く。


「うん……大丈夫だよ」


 なんの保証もない、慰めにもならない言葉をテネースは口にする。それは、自分自身に言い聞かせる言葉でもあった。


 神の背中が、白銀の光球が作り出す明かりよりもまばゆい銀色の輝きを放ち始めた。


 光はあっという間に全身に広がり、三つ目にして最大の光源となった。


 テネースたちは言葉もなく、ただ目の前の光景を見守り続ける。


 神を包む白銀の光はますます光量を増していく。テネースは痛む目に涙をたたえながらも、まぶたを閉じようとはしなかった。光に飲み込まれるように、わずかに見えるだけの神の姿を目に映し続ける。


 神の全身を包んでいた光が、徐々に右手に集まっていく。


「……始まる」

「え?」


 テネースの言葉通り、白銀の光が神の右手を通して創造神の欠片へと移っていく。いったん光の移行が始まると、あとは早かった。


 白銀の光はあっという間に創造神の欠片の巨体すべてを覆い尽くし、それと反比例するように神の右手は輝きを失っていく。それどころか、神が作り出した二つの光球も薪を燃やし尽くしたたき火のように、暗くなっている。


 危険を示す兆候は何もない。そのはずなのに、テネースは胸騒ぎを覚えていた。何が不安なのか、テネースにもわからなかったが、奇妙に息苦しく、鳥肌が立っている。


 テネースが唇を噛み締め、握り拳を作って正体不明の不安を押し込めようとしている間にも、変化は続いていた。


 神の右手はほぼ完全に光を失っており、二つの光球はもうどこにもない。


 だが、暗くはない。創造神の欠片が、神や光球とは比べものにならないほどの光を放っていた。


 神の右手が、創造神の欠片から離れた。

 後ろに大きく傾いだ身体が、受け身どころか頭をかばうそぶりも見せず倒れていく。


「アリス!」


 テネースが駆け出した直後、神は鈍い音を立てて地面に倒れた。


「アリスっ!!」


 叫んだテネースの身体が、宙に浮いた。


 何が起こったのかすぐにはわからなかったが、足が地面についた後すぐに襲ってきた揺れに、状況を理解する。


 創造神の欠片が動き出していた。表面を覆っていた石のようなものがボロボロと崩れ落ち、その下から現れた肉が自由を喜ぶかのように蠢いている。


 人の手から生えた熊の手。背びれの代わりに大量の陸上生物の指が生えた魚。大木の枝には果実の代わりにたくさんの人の頭が垂れ下がっている。


 混沌のるつぼのような創造神の欠片。その混沌を体現しているものたちはそれぞれが意志を持っているのか、あるいはただの本能か、思い思いに動いている。中には、同じ創造神の欠片から生えているもの同士で攻撃しあっているものもある。


 あまりにも非現実的な光景に、テネースの頭が真っ白になる。


「なに……あれ」


 背後から聞こえたマリーカの弱々しい声に、テネースが無意識に振り返る。


 マリーカは、先ほどの揺れで倒れたのか座り込んでいた。そして、青白い顔で創造神の欠片を見つめている。


「神の代わりにこの世界を見守ってくれそうには見えないわね」


 イアイラの顔色も悪かったが、二本の足でしっかりと立ち、右手は鞭に伸びている。

 神という言葉が、テネースに地面に倒れた神のことを思い出させた。


「アリス……」


 いつ創造神の欠片に踏みつぶされるかわからない。その想像は、創造神の欠片のおぞましい姿よりもよほど恐ろしかった。


「え?」


 振り返り、駆け出そうとしたテネースの目の前に、白銀の光を放つ何かがあった。


「動くなよ!」


 声が聞こえた直後、すさまじい速さで振り下ろされた鉄塊が、テネースに迫っていた何かを斬り飛ばした。


 ギュアースの大剣の一撃が軌道を逸らしたおかげで、白銀の光を放つ何かはテネースを捉えることなく、その横の地面に叩きつけられた。


 それは、頭の代わりに人の手の付いた大蛇だった。身体を半ばから断ち切られた痛みにのたうっていた蛇は、白銀の光が失われるにつれて動かなくなっていく。


「あ……あ」


 何が起こったのか理解できず、テネースは動かなくなった蛇身を見つめる。


「テネース、下がれ!」


 ギュアースの声は聞こえていたが、何を言われたのかは理解ができない。テネースは、ただその場に立ち尽くす。


 突然、右足が後ろに強く引っ張られた。


「ひっ!」


 踏ん張ることもできずそのまま前に倒れながらも、テネースは自分の足を見た。創造神の欠片から伸びてきたものではなく、鞭が足首に巻き付いていた。


 倒れたテネースの頭上を、人の上半身が幾つも連なった触腕が通り過ぎていく。

 もしイアイラが鞭でテネースを引き倒していなければ、間違いなく直撃していた。


「姉さん、そのままテネースを引き寄せてくれ」


 伸びきった触腕を切断したネイオスが、ギュアースと並んでテネースの前に壁を作る。


「こいつ、明らかにテネースを狙ってやがるな」


 三度テネースへと伸ばされた創造神の欠片の一部を、ギュアースの大剣が断ち切る。


 ますます輝きを増す白銀の光のおかげで徐々に姿がはっきり見えなくなっていることは、一同にとっては幸いだったろう。創造神の欠片が伸ばす触腕はどれも、最初の二本と同じかあるいはそれ以上に奇妙きわまりなく、おぞましいものだった。


「ま、待って、待ってください。創造神の欠片が僕を狙ってるのは、僕が神の力の一部を持ってるからだと思います。この力を返せば――」


 鞭をほどこうと悪戦苦闘しながら、テネースが叫ぶ。


 そんなテネースに向かって、三本の触腕が躍りかかる。そのすべてが、先端に人の手を付けている。


「馬鹿なこと言ってんじゃねえ!」


 ギュアースの大剣が、触腕を二本まとめて斬り飛ばした。残りの一本を、ネイオスは無言で斬る。


「どう見ても、こいつは力を取り戻すことしか考えてねえぞ。あんな勢いで掴まれたら、無事じゃ済まねえだろうが」

「で、でも、力は返さないと――」


 思い切り鞭を引かれイアイラの方へ引き寄せられながら、テネースはそれでも反論しようとする。


「元々力を返すことを前提としてるからそのことに反対はしないけど、あれから意思のようなものは感じる? もし感じられるなら、力を取り戻したらこの世界から立ち去ってもらうよう交渉して欲しいんだけれど」


 鞭を手繰りテネースを引き寄せる一方で、イアイラが口を開く。その視線は、テネースと創造神の欠片を行き来している。


 テネースが持つ神の力とその力の本来の持ち主の間には何らかの繋がりがあるのではないか、と期待しているのだろう。


 テネースは、引き寄せられるのに抵抗するのは止め、創造神の欠片に意識を集中する。人間が理解できる精神を持っているようなら、今後どうするか話し合うこともできるだろう。


 だが、テネースではなく剣を手にした二人に触腕を集中させている創造神の欠片からは、テネースが理解できる形での意識を感じることはできなかった。


 むしろ、次々に新しい触腕を生み出している姿を見ていると、知性などないか、あってもまったく異質なものなのではないかと不安になってくる。


「しまっ――!」


 ギュアースの叫びが聞こえた直後、創造神の欠片を注視していたテネースの視界を、迫り来る白銀の光を放つ触腕が埋めた。


「あ――」


 逃げるにはもう遅かった。テネースは目を見開き、自分を掴もうと巨大な手を広げている触腕を見つめる。


「テネース君!」


 イアイラが今までとは比較にならない力で鞭を引く。


 足が引っこ抜けそうな衝撃がテネースを襲い、がれきの散乱した地面が幾つもの傷を作る。


 それでも、足りなかった。


 引かれる速度を上回る勢いで、触腕が迫る。


「駄目!」


 テネースが反射的に目を閉じた直後、すぐ側からそんな声が聞こえた。


「マリーカ!?」


 目を開けたテネースは、触腕の手がマリーカの腰を掴むのを見た。


 手を伸ばすが、届くはずもない。


 触腕はマリーカを掴んだままテネースのすぐ上を通り過ぎ、本体へと引き戻されていった。


「マリーカ!」


 立ち上がり、創造神の欠片に駆け寄ろうとして、テネースは盛大に転んだ。足首に絡んだ鞭がまだそのままだった。


「駄目、落ち着いて!」


 無理矢理鞭をほどこうとするテネースにイアイラの叱責が飛ぶ。


「落ち着いていられるはずないじゃないですか!」


 本来なら、テネースが触腕に捕まるはずだったのだ。それなのに、テネースは無事でマリーカが捕まった。冷静でいられるはずがない。


「テネース、おまえはそこにいろ。マリーカは俺が助ける」


 ぐったりと動かないマリーカを掴んでいる触腕を見上げたギュアースが、静かな声で告げ駆け出した。


「ギュアースさん!」


 倒れたまま見ていることしかできないテネースが、地面を殴りつける。痛かった。だが、それ以上心が痛かった。


(僕が――わがままを言わなかったらこんなことにはならなかった。せめて、僕と神様だけで下りてくるべきだったんだ)


 もう一度、地面を殴る。


「テネース君、悔やむくらいならこれから何ができるか、それを考えないと」


 テネースの傍らにやってきたイアイラは膝をつき、テネースの顔を自分に向けさせた。


「僕にできることなんて――」

「あなたは神様と同じ力を宿しているのでしょう。その力を使って、何かできるんじゃないかしら」

「そんなの、無理です」


 イアイラは首を振るテネースをしばらく黙って見ていたが、静かに口を開いた。


「テネース君。マリーカはきっとギュアースが助けるわ。でも、その後どうするのか、それを決められるのはあなただけよ。あなたが、それを決めないといけない」


 わかるでしょう、そう言ってテネースの髪を梳くと、イアイラは立ち上がった。右手を小さく動かし、テネースの右足に絡まっていた鞭をほどく。


「決断を下すまで、私とネイオスが守ってあげる」

「あ……」


 一方的に告げ、イアイラは弟の隣りに駆けていった。

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