4 裏切り
「簡単に中に入れるんですね」
天井が高く、足音が長く大きく響く廊下を歩きながら、テネースがぽつりと漏らした。
イアイラの午後は忙しいという言葉に、大聖堂は大勢の聖職者たちでごった返していると思い込んでいたテネースだったが、聖職者の姿を一度も目にしていなかった。廊下ですれ違ったのも、今テネースたちの前方を歩いているのも、一般信徒だ。
「大聖堂は常に開かれている場所だから。もし入口に武装した教会騎士が立っていたら、巡礼にやってきた人も及び腰になってしまうでしょう?」
テネースたちを先導しているイアイラが、身体を斜めにしてテネースを見る。
もう一人の聖職者であるネイオスは、最後尾でむっつりと黙り込んでいる。
「自由に出入りできる上に大聖堂の中でも聖職者とすれ違うこともないなら、剣を預ける必要なんてなかったんじゃないか」
ギュアースは声を潜めているが、廊下がその声を何倍にも大きくする。
マリーカが大慌てで兄の脇腹に肘を打ち込んだ。痛そうに顔をしかめたギュアースは、大きく鼻を鳴らし口を閉じた。
「ただでさえ武器なんて見慣れてない一般信徒があんな人間が使うものとは思えない剣を見たら、大騒ぎになるに決まってるでしょう。そうしたら、すぐに教会騎士が飛んでくるわよ」
小馬鹿にしたようなイアイラの声は、先ほどのギュアースの声とそう大差ない大きさだった。しかし、廊下によって増幅されることはほとんどなかった。
「あの、教会騎士ってなんですか?」
「教会の安全を守るための教会騎士団に所属する騎士のことよ。聖都の教会騎士に与えられた権限はもう少し大きくて、市街の治安維持に対する責任を負っているわ」
「……聖都に入る前にそんなことを聞いたような気がします」
イアイラの言葉に頷きつつも、テネースの視線は右を見たり左を見たりと忙しい。
廊下の幅は大人が三人以上手を広げて並べるほど広く、要所要所にはテネースですら知っているような宗教的な場面を描いた絵画や彫刻が配置されている。
また、高い天井近くの壁には多くの窓があり、信じられないほどたくさんのガラスが建物の中と外を隔てつつ、豊かな陽の光を屋内へと導いている。
外観に似合うだけの荘厳さを有する廊下は、間違いなくアビュドス山頂の神の宮殿の廊下よりも立派だった。
『大聖堂の中はこんな風になってたのね。神様よりも信者たちの方が豪華な所で過ごしてるわけだ』
「さすがにすべての教会に配置されてるわけじゃないから、知らなくてもおかしくないと思うわ。そもそも、教会騎士団が剣を抜いたという記録自体、私が知る限り存在しないし」
感心と呆れが混じった様子のアリスに頷いていたテネースは、怪訝そうに振り向いたイアイラに気付きぎこちない笑顔で頷いた。
「教会騎士団も信徒からの寄進で武器とか防具を揃えてるんでしょう? 使わないならやめちゃえばいいのに」
「もしもの時の備えなんだから、廃止するわけにもいかないわよ。実際に戦ったという記録こそないけれど、教会騎士団の存在が教会を守ったという記録は残っているし。もちろん、信徒からの寄進を無駄に使うことは許されないから、節制できる部分は徹底的に節制しいるわよ。っと、そろそろ内陣ね」
話している間にもしっかりと足を動かしていた一行は、大聖堂の内陣へと近づいていた。
一般信徒が出入りをするのは礼拝堂と様々な聖別された品々が置かれている至聖所の二カ所であり、それはどちらも内陣よりもずっと出入り口に近い場所にある。
内陣の近くにはもう一般信徒の姿は見あたらない。その代わり、ごく少数だが忙しそうに歩いている聖職者の姿があった。
イアイラとネイオスに気付いた純白の衣を纏った聖職者は、まず驚いた表情を浮かべ、ついで会釈をして通り過ぎていく。
ほんの数人見ただけとはいえほとんど同じ反応なのが印象的だったが、テネースは余計なことを言って注目を集めるのはよくないだろうと疑問を飲み込んだ。
内陣は、天井の高さでいえば今までよりも低く、絵画や彫刻といった装飾も乏しかった。しかし、見劣りするかといえばそんなことはない。
確かに後から置かれたような装飾はほとんどないのだが、それこそ柱一本とっても精緻な浮き彫りが施されており、建物と同化した優雅さと荘厳さがあった。
低くなった天井はきれいな弧を描いており、ただ廊下を歩いているだけでも芸術に触れているような、そんな気を起こさせる。
「無駄に金かけやがって」
不機嫌そうなギュアースの声も、先ほどとは違って必要以上に反響しない。
「昔は内陣じゃなかったのよ。信徒のための礼拝堂もあったから、ある程度体裁を整える必要があったの……まあ、ちょっとやりすぎだとは私も思うけれど」
「姉さん、ギュアースの軽口に付き合う必要はない」
一行の最後尾からのネイオスの声は硬く冷たい。会話に加わっていないテネースが思わず身を縮こまらせたほどだ。
『別にテネースが言われたわけじゃないでしょう』
さすがにアリスも呆れ気味だ。
「そうなんだけど、つい」
「余計な誤解を解いておくことも必要でしょう。何かの拍子にギュアースが熱心な信徒にならないとも限らないんだし」
「ないな」
「ないない」
「ないと思います」
『ない……わね』
ギュアース本人が否定するのとほぼ同時に、マリーカ、テネース、アリスが首を横に振る。
ネイオスも口には出さなかったが呆れたようにため息をついた。
「テネース君を正道に引き戻したら、その後はギュアースを矯正するべきかもしれないわね」
「無駄なことに労力を使わない方がいいぞ」
面倒くさそうにギュアースが言うと、イアイラは小さく肩をすくめた。
それ以降、なんとなく皆無言になり、静かに封印区画目指して足を動かした。
***
黙々と足を動かしていると、今まで意識しないで済んでいた不安が幾つも幾つも、唐突に襲ってくる。
封印区画などと呼ばれている場所には、中に入れないような物理的な防護のようなものがあるのではないか。
創造神の欠片に神の力を返した時、何が起こるのだろう。神は、人に戻れるのだろうか。力を取り戻した創造神の欠片はどうなるのか。
神を失い、創造神の一部を戴くことになったら、この世界はどのように変わるのだろうか。
そもそも、封印区画に創造神の欠片があるのか。
考えても答えが出せないのだから仕方がない。そう思うのだが、まるでその考えが嘘だとでも言うかのように、テネースの意思に反して疑問は、不安は、湧きあがってくる。
神を、そして何よりアリスを消滅から救う一番の方法は、今まで連綿と受け継がれてきた神の力を創造神に返してしまうことだと、テネースは信じている。
テネースが神の力を継ぐことで、アリスとその本体である現在の神は物理的に消滅するが、精神的な意味では生き続けるというのは本当なのだろう。しかし、アリスから力を吸い取って消滅させることなど、できるはずがない。
だから、不確かなことばかりの思いつきとはいえ、創造神の欠片に神の力を返すという考えに望みを託すと決めた。
マリーカやギュアースだけでなく、イアイラまで賛成してくれているし、神も一緒に来てくれた。それに、ネイオスも神の意志だからという理由があるとはいえ、反対はしていない。
他の人にも受け入れられる考えなのだという事実は、心強い。
しかし、それでも目的地が近づくにつれテネースの心臓は鼓動を速くし、もしも失敗したら、もしも今回の行動のせいで世界がおかしいことになったら、もしも創造神の欠片など存在しなかったら――など、もしももしもと嫌な考えばかり浮かんでは心にたまっていく。
それでも、テネースの足は着実に前へ前へと進む。
悩むなら勝手に悩め。こっちはこっちで勝手にやる。まるで身体にそう言われているような気がして、テネースの口元が自虐的な笑みを形作った。
『大丈夫?』
(神様が力を創造神の欠片に返したら、アリスはどうなるんだろう)
今まで意識しなかった疑問に、テネースはぶるりと肩を震わせた。
『テネース?』
「……え?」
やや強めのアリスの声に、テネースは緩慢な動きで顔を右肩に向ける。
アリスは不安そうに眉を歪めてテネースを見ていた。
呼びかけに気付く前に何を考えていたのか見透かされているような気がして、テネースは慌てて視線をそらす。
(神様が神様の力で生み出したのがアリスなんだから、神様の力がなくなれば消えてしまう)
それはテネースの望むことではなかったが、先ほど思いついてしまった問いに対する答えは、これしかないように思える。
神になりたくないというよりは、アリスを失いたくないという思いに突き動かされてここまで来たが、待っているのはアリスの消滅という結末。今はまだ予想だとはいえ、皮肉な未来が悔しくて、悲しくて、テネースは唇をきつく噛み締めた。
『ねえ、テネース。あなたが今どうしてそんな顔をしてるのかはわからないけど、わたしは今とっても嬉しいわ』
「嬉しい?」
眼前に回り込んできたアリスに、テネースは囁き声で訊ねる。
(僕が思いつくようなこと、アリスならとっくに気付いていたんじゃないの? なのになんで嬉しいなんて言えるの?)
『うまくいく保証はまったくないし、仮にうまくいったとしてそれがどんな影響を及ぼすのかわからないけど、でも、わたしはテネースがわたしのために一生懸命になってくれたことが、嬉しいの。その気持ちが、とっても嬉しいのよ』
そう言って笑ったアリスの顔はとても幸せそうで、テネースは何も言うことができなかった。ただただアリスの顔を見つめる。
すべて自分のわがままから始まっている。そう思ってきたテネースにとって、アリスのその笑顔も、言葉も、まったくの予想外だった。
『だから、自信を持って前を向いて。ね?』
息がかかりそうなほど近くに飛んできたアリスに、テネースは小さく頷いた。
答えのでないたくさんの疑問、先ほど気付いた新しい疑問、解決など全然していない。それでも、アリスの笑顔と言葉は、テネースが顔を上げて足を踏み出す気力をくれた。
テネースはもう一度、今度は力強く頷いた。
***
「次の角を曲がったらもう封印区画への入口よ」
先頭を歩くイアイラが立ち止まったため、続くギュアース、マリーカ、テネース、神、ネイオスも足を止めた。
人通りの絶えた廊下を照らす明かりは、今までに比べるとぐっと少なくなった窓から差し込む陽光だけだ。
その明かりも、太陽が傾き始めているせいで潤沢とはいえない。
「随分と呆気ないもんだな」
腕を組んだギュアースが、つまらなそうに呟く。
「五体満足では誰もたどり着けないほど様々な障害があった方がよかったかしら?」
「まさか。あの剣を持っている状態ならともかく、今そんなことになったら誰も護れない」
「なら余計なことは言わないことね。もっとも、仮に私たちのやろうとしていることが筒抜けになっていたとしても、傷つけられるようなことにはならないから安心しなさい」
言い終えたイアイラはちらりとテネースを見るが、見られたテネースは前を見ているのにイアイラの視線にはまったく気付いていない。
ため息をついたギュアースがマリーカを押しのけ、乾いた音が廊下中に鳴り響くほど強く、テネースの背を叩いた。
「っ!?」
声にならない悲鳴を上げよろけるテネース。マリーカが柳眉を逆立て兄に食ってかかる。
「いきなり何してるのよ!?」
「テネース、緊張するのはわかるけどな、落ち着けよ。こっから先どうなるかわかんねえのはみんな一緒だ。うまくいくかもしれないし、どうしようもないほど失敗するかもしれない。それでもまあ、緊張して周りが見えてないよりは、いつも通りの方が、うまくいく確率も上がるだろ」
じんじんと痛む背中に涙目になりながらも、テネースはギュアースを見上げて頷いた。
「もう、大丈夫です」
「大丈夫じゃなくて文句の一つも言いなさいよ」
不満そうなマリーカに、テネースは困ったような笑みを返す。背中は痛いし、突然で驚いたが、ギュアースが気を遣ってくれたのはテネースでもわかる。
アリスとのやりとりで決意を新たにできたが、そこにさらに気合いを注入された気がする。緊張もほぐれたように思う。
「余計なお世話だったか?」
「いえ。気合いが入りました」
答えを聞いたギュアースがにやりと笑った。その顔を見て、テネースは自分もあんな笑みを浮かべているような気がして、頬に手を当てた。
「わけわかんない」
呆れたようなマリーカの言葉に、ギュアースの笑みが苦笑に変わった。
「さて、心構えはもういいわね?」
イアイラが、まずテネースを、ついでギュアース、マリーカと順繰りに一同を見回していく。
視線があった者は、無言の頷きで答えた。
封印区画などという物々しい名前のわりに、そこへ至るための扉はごくごく普通の――といっても鉄製だったが――扉だった。
表面には彫金等による修飾も一切なく、のっぺりした扉は固く閉じられている。
「本当にこれが封印区画に通じる扉なんですか?」
確かに、どっしりとして重そうでそう簡単に開きそうにない。だが、錆が浮いているとはいえ蝶番はついているし、扉を開くための取っ手すらもある。とても、人を拒絶するための扉には見えない。
「基本的に封印区画には近づかないように、という規則になっているから、扉そのものを物々しくする必要がないのよ、たぶん」
「扉があること自体が驚きだな。封印区画なんて呼ばれてるくらいだから、入口も何もなくて壁をぶち壊す必要があるかと思ってたんだが」
イアイラの隣りでギュアースは、つまらなそうに扉を見つめている。
『ギュアースの意見はあり得ないとして、どうしてこんな普通の扉なのかは不思議ね。開かないようにするための工夫があるようにも見えないし』
テネースの右肩から離れたアリスは、間近で扉を確認しながら呟いた。
「アリス、何してるの?」
マリーカが隣りに立つテネースの袖を引っ張る。
「たぶん、扉におかしな所がないか調べてるんだと思うけど……ただの扉だけっていうのはやっぱりおかしいって思ってるみたい」
「鎖が打ち付けられていて中には入れなくなってたり、扉と壁の隙間を固めて扉そのものを開かなくしてたりするよりも、よっぽどいいでしょう?」
「そりゃそうだが、情緒ってもんがあるだろうが」
「お兄ちゃん、情緒なんていう言葉知ってたんだ」
「おまえは俺のことをなんだと思ってるんだ」
「姉さん、こんなくだらないやりとりを聞いている価値はない。先に進もう」
顔をしかめネイオスが吐き捨てる。
ギュアースはマリーカに向けていた顔をネイオスに向け直したが、睨みつけるだけで何も言わなかった。
「あなたがそんなに積極的だとは思わなかったわ」
答えるイアイラは呆れたように肩をすくめる。
「言い出したのがテネースだと言うことは気になるが、神が支持している以上反対する理由はない」
「ネイオスを見てると、イアイラのしてた異端者と教会についての話が嘘に思えてくるわ」
マリーカは珍しく冷たい眼差しでネイオスを一瞥した後、ぷいと顔を背けた。
「ネイオスは頭が固いから……もっと柔軟にならないものかと努力したこともあったけど、さすがに二十歳を超えたらもう矯正は無理でしょう。ただ、例外中の例外だということは覚えておいて」
イアイラの容赦のない弟評に、ネイオスの顔が険しさを増す。
「まあ、早く進んだ方がいいという意見は確かね。いい、開けるわよ?」
「俺が開ける」
扉の前の場所をイアイラから奪ったギュアースが力を込めると、鉄扉は重々しい音とともに奥へと開いていく。
気が遠くなるほど長い時間封じられていたはずの部屋から漏れ出てくる空気は、特に饐えたにおいがするわけでもなく、なんら特別なことも起こらなかった。
強いて言えば扉の向こうに明かりはなく、どうなっているのかまったく見通せないくらいだろう。
「……明かりのことを考えてなかったな」
扉を押さえたギュアースがぼやくと、
「明かりは必要ない」
扉の向こう、闇の奥から年配の男の声が聞こえてきた。
ギュアースが反射的に扉を閉めようとする。
「動くな」
だが、その動きを背後からの鋭い声が制した。
「ネイオス……さん?」
振り返ったテネースは、目に飛び込んできた光景が信じられず間の抜けた声を出す。
いつの間に抜いたのか、ネイオスが剣の切っ先をマリーカの背中に向けていた。
「気でも狂ったの!?」
「いいや、正気だ。姉さんこそ、テネースのことで目が曇っているんじゃないか?」
ネイオスが一同をねめ回している間に、神がネイオスの背中に隠れるように動く。
『何を考えてるの?』
その動きにアリスが詰問するが、神からの返答はない。
「てめえ、マリーカに傷をつけてみろ、殺すぞ」
「おまえたちがそのままおとなしく抵抗しなければ、そんなことにはならない」
「全員、中に入ってきてもらおう」
闇の向こうの声が命じる。
「……教皇猊下?」
自分の言葉が信じられないとばかりに、イアイラが呆然と呟く。
(教皇って、教会で一番偉い人のことだよね?)
そんなことを漠然と考えつつ、テネースはマリーカに突きつけられた剣先にどうしていいかわからず、立ち尽くす。
「罠だったわけだな」
憎々しげに吐き捨てるギュアース。
「知らないわ!」
甲高い声で否定するイアイラの顔は、今まで見せたことがないほど驚きに染まっている。
「さあ、猊下の言われた通りにするんだ」
今までとまったく変わらない調子でネイオスが言う。
人を殺せそうな視線でネイオスを睨んだギュアースが、黙って扉の向こう、闇の中へと入っていく。
「ネイオス、あなた自分のしていることがわかってるの?」
「もちろん。教会のため、世界のため、そして神のため、さ」
姉弟はしばし睨み合ったが、ネイオスが剣をわずかに動かしたことで均衡は崩れた。マリーカとテネースに頭を下げ、イアイラも封印区画へと入った。
「あの、ネイオスさん――」
「さっさと中に入れ」
テネースの言葉を遮ったネイオスの顔には、明白な憎悪が浮かんでいた。
親をはじめ村の人々に疎まれて育ったテネースだったが、ここまであからさまな憎悪を向けられたことなど、一度もなかった。
二年間異端審問官としてテネースを追ってきたネイオスにしたところで、今この時まで憎しみを向けてはこなかった。
あまりにも強い負の感情に、舌も、手足も動かなくなる。頭もうまく働かない。
なぜネイオスがマリーカに剣を突きつけているのか。なぜ神がネイオスの背後に隠れるように動いたのか。なぜネイオスに憎まれなければいけないのか。
テネースにはわからない。
愕然とした表情で固まったテネースに、ネイオスの表情は憎しみだけでなく苛立ちを色濃くする。
『テネース、テネース。どうしてこんなことになったのか、わたしにもわからないけど、とりあえず言われた通りにしましょう。マリーカを傷つけさせるわけにはいかないわ』
テネースとネイオスの間に割り込むように移動したアリスが、一言一言はっきりと告げる。
ぎこちなく頷いたテネースは、マリーカと視線を合わせた後、ぎくしゃくした動きで扉に向かった。
「さあ、おまえもだ」
促され、マリーカが歩き出す。
「こんなことして、どうするつもりよ」
前を向いたまま、マリーカが訊ねる。
ネイオスは沈黙したまま答えなかった。




