7:敵か味方か
最近、ノーネームに出会うことが少なくなった。だけどその分、事件は増えることになった。
というのも、私達に関わること以外の場所でも彼らが出没するようになったからだ。
とあるお偉い方の機密金の強盗。食糧や資源の確保。
私たちは何とかして敵の悪事を防ごうとはしているものの、神出鬼没な彼らを完全に抑えることはできずにいた。
今までは向こうからこちらに関わってきていたのが、逆に避けられているのだから仕方ないとはいえ、皆は悔しそうにしているのだった。
正「くそっ。最近のニュースはあいつらの事ばっかりだ!ニュースで初めて知った事件だって多いんだぜ!?知らないところで敵が完全犯罪を成し遂げてるなんて!」
守「ついに敵が本性を・・・いや、本気を出してきたな。今までの事件は、何か大きなことを起こすための下準備に違いない。キッド、まだあいつらの探知機能は完成しないのか?」
キッド「機械ならまだしも生き物だからね。難しいんだ、ごめん。」
ミコト「キッドが謝ることないよ。ハイグレードも見回りしてくれるようになったし、これで発見が早まるといいんだけど。」
そんな会話をイシュールバッチでしながら、それぞれ分かれてパトロールをしていた。
最近はずっとこんな感じで、会うことが減って少し寂しい。
それにすごく複雑な気持ちだった。だって、敵とはいえ彼らとはそれなりに仲良くなれた気がしていたから。
ミコト「あの、そういえば昨日パトロールが終わった後に、ちょっと変わった人に会ったんだけど。」
キッド「変わった人?聞いてないよ、ミコト。駄目だよ!そういうのはすぐボクたちに連絡しないと。」
ミコト「ご、ごめん。でも本当にちょっと、ほんのちょっと変わった人で。」
守「で?どういう人だったんです?」
ミコト「えっと、狛と少しだけ散歩しようかなって外に出たら、白いコートで仮面をつけた男の人が・・・。」
守「十分怪しいです!通報しておきなさい!」
守に怒鳴られた。たぶん一緒に聞いてる正も耳が痛いことだろう。
いや、たしかに普通仮面をつけてる人はいないとは思う。せいぜいお面か被り物だろうか。
でも仮面をつけて歩いてるだけで不審者というのも疑問に思う。事情があるかもしれないし。
だけど守は「最近じゃちょっとしたことでも通報されてますよ」と言ってきた。それはそれでどうかと思う。
正「まぁまぁ。で?その仮面の男がどうしたんだ?」
ミコト「凛々しい犬ですね、飼い犬ですか?って話しかけて来たんだ。で、最近は物騒だから気を付けて、的な話をして。最後には、『きっとまた会えるでしょう』って。」
守「怪しいにもほどがあるじゃないですか。また会えるって、宣言までしていますし。仕方ない。あなたはしばらくパトロールしなくていいです。警察に連絡したらなるべくキッドと家にこもっているように。」
キッド「うん、わかった。ミコト、今回は守の言うとおりにしたほうがいいよ。」
守「まったく。呆れるどころか頭が痛くなりますよ。あなたの警戒心の無さには。大体、あの黒野だって、怪しいんですよ?最近見かけませんし、素性をいまだに明かしてくれませんし。もっと気を付けてください!」
ミコト「ちょっと、黒野のことは悪く言わないでよ!仲間じゃない!」
正「そうだよ守。それは言い過ぎ。俺も、最近になって連絡取れないのはちょっとおかしいなって思いはするけどさぁ。」
ミコト「正まで・・・もういい。家にこもってればいいんでしょ!?そうするからもう放っておいて!」
アシストやシドウならともかく、黒野くんまで悪く言われてムカッときた。
そりゃあ、不思議で謎だなぁと思うことはあるけど、何度も助けてもらってる。
だから私は皆とは違って心配してる。どうしてるのかな、黒野くん。
でも頭にきたからって守にあんなこと言っちゃうなんて、どうしよう。正も困ってただろうな。
キッドに励まされながら、家にとぼとぼと帰る。
キッド「ところでミコト。仮面の男についてもっと詳しく聞きたいんだけど。」
そうキッドが話を切り出してきたところだった。家の前から、男性が立ちふさがった。
あの時の、仮面の男だ。
仮面の男「お待ちしておりましたよ。イシュピンク。」
キッド「マスター!やっぱりアナタが・・・。気を付けてミコト、アイツがノーネームの創設者のマスターだ!」
ミコト「えええ!?あの仮面の人がマスター?いきなりラスボス!?ど、どうして私の家に。」
マスター「申し遅れてすみません。私がマスター。アシスト達を従えて、いわゆる世界征服を企む主犯、つまりあなたのいうとおりのラスボスです。あなたをご招待しにまいりました。」
ミコト「ご、ご招待?」
マスター「アシスト達があなたを気にいったようですし、敵とはいえそれなりに仲良くしていたようなので。先日話をしてみたら、どうやら我々と近い思考をお持ちのようですし。よければ、こちらの仲間にならないか交渉させてもらないかと。」
ミコト「と、突然困ります!仲間、と話し合いたいっていうか。」
マスター「いやぁ、本当に申し訳ない。私は急いでいるのですよ。すぐにでも、来ていただきたい。」
マスターが何か画面を出してきた。そこに映っていたのは、囚われたハイグレードと・・・狛。
「大事な家族もお待ちですよ?」と言ってきた彼に、私は黙って従ったのだった。
守「ミコトが、敵の主格にさらわれた!?まさか、僕があおったせいで。」
キッド「違うよ。狛とハイグレードが囚われてて仕方なく連れて行かれたんだ。ボク、何もできなかった。ごめん。」
正「敵の、本拠地にさらわれたんだよな?無事だといんだけど。探知もできないし居場所もわからないんじゃ、どうしようも。」
キッド「・・・場所なら、知ってるんだ。」
正・守「「え!?」」
キッド「ボクも、そこから来たから。ボクはキドウ。イシュールを目覚めさせるためにマスターに作られた存在なんだ。」
アシスト「ねぇ、イシュピンクが来たって本当!?会わせてよ!」
シドウ「駄目だ。今、イシュピンクとマスターは大事な話をしているんだ。我々は立ち入れない。」
アシスト「えーなんでよ。もう、シドウのバカ!最近なんかマスターも変だし。ボクよくわかんない。」
シドウ「・・・そうだな。そろそろお前にも、いろいろ教えなくてはいけないな。今回のことだけじゃない。マスターのことや、キドウのことも。そして、お前が選ぶんだ。事実を知ってから己が何をするのか」
アシスト「え?どういうこと?」
シドウ「これから私の知る限りの全てを話そう。いいか?まず、マスターは我々とは違う。人間だ。」
狛は傷一つなかった。ハイグレードも先ほど見させてもらったが、機能を停止させられてる程度らしい。
ミコト「狛を返してくれて、とりあえずありがとう。ハイグレードは、まだ解放してくれないのね。」
マスター「話が終わってから奴は解放してやろう。それで、我々の仲間になる気はないか?君は我々のような人でないものにも慈悲深いようだ。それなら、我々の思考もわかるだろう?我々は今の世界では排除される。ゆえに、全人類を支配する必要があるのだ。ゆえに生きるための資源も必要になる。」
ミコト「それは、理解できます。だけど仲間にはなれません!悪いことは悪いことです!他に方法はないんですか!?」
マスター「無理だ。彼らは我々化け物を受け付けられない。」
ミコト「化け物って・・・そういえば、あなたは何なんですか?人、じゃないんですか?」
彼は仮面をはずす。その顔の一部と、コートから見せた姿は機械のようだった。
化け物だと彼は言ったが、どちらかというとサイボーグに近かった。話し方も、宇宙人とか幽霊ほどまでに人と離れているようには思えなかった。
彼は私の様子をうかがいながら軽く笑い、話を続けた。
マスター「答えは、否だ。私も彼らと同じ化け物だ。アシストにもそう教えている。アシストは、あの事件の後にカプセルから出したからな。全てを知らぬのだ。」
ミコト「事件?」
マスター「私と同じ志を持つかもしれない君になら、全てを話そう。それでおそらく、私の気持ちも理解できるだろうからな。」
「かつて、私がまだ人間だった頃の話だ。」
そうして、彼の昔話が始まった。
正義と悪。敵味方が入り乱れる中、語られる彼の壮絶な過去。
裏切りが、全てを変えてしまったキッカケだった。
次回、苦悩と悲しみの第8話「化かされた者」
彼は、良い人だったのに