3:暴走せし巨大ロボ
自然は落ち着いているように見えても、いつどんな事態を招くかわからない。それは嵐だったり地震だったり。
それは偶然にも奇跡的なことを巻き起こすこともある。たとえば、山が崩れて封印されていた巨大ロボットが姿を現したりとか。
赤「すごい。本当に本物の巨大ロボットだぁ!」
正こと赤スーツのイシュレッドが感嘆の声をあげる。なにせ、昨日までは山に埋まっていただろう巨大ロボが目の前にいるのだ。
様々な機械に囲まれて山にその身をうずめているその姿は、静かに眠っているように見えた。
ただ、私としてはここが立ち入り禁止区域でこっそり侵入しているということが今かなり心苦しかったりする。
キッド「なんとか見つけられてよかったよ。アクセスにも成功したし、あとは起動プログラムを動かすだけ。」
赤「そうすればこの巨大ロボットが俺達ものになるのか!夢みたいだぁ・・・あっでも、自由にコントロールできたりする?」
キッド「それは、どうかな。上手くいくといいんだけど。」
操作方法が難しいってことだろうか。扱いが難しいから誰にも見つからない場所に封印されてしまったロボらしいし。
それが最近になって山中から姿を現したからか、居場所を特定できる電波を感じとったんだとか。
青「しばらく時間がかかりそうなら、今のうちにミコトの風の技を特訓しませんか?」
赤「今はミコトじゃなくってイシュピンクって呼ばないと!でもそうだね。まだ扱いなれてないだろうし。」
たしかに以前、力の使いすぎで倒れてしまった前例もある。二人のいうとおり練習しないと。
イシュールは精神に干渉して能力を発動させるらしい。だから精神戦隊って名乗ってるのか。
それゆえに人それぞれの精神によって取得する属性等が異なるそうだ。レッドの正が炎で、ブルーの守が氷のように。どおりでピッタリだと思った。
ちなみに変身した服がまさに戦隊っぽいのは、主に最初に変身したレッドの影響によるものらしい。
練習でだんだんと強弱はつけられるようになったものの、まだ上手く扱えず私は突風を巨大ロボにぶつけてしまった。
ピンク「わわっごめん!大丈夫?傷ついてない!?」
キッド「あはは、これでも戦闘用ロボだから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。」
青「物にまで謝ってどうするんです。この間の車の件といい、謝ってばっかりですね。」
ピンク「し、仕方ないじゃない癖みたいなものよ!別に謝ったっていいじゃない!」
つい先日のことだ。車に手がちょっと当たってしまったのでつい謝ってしまったのを、よりにもよって守に見られた。
私の趣向を知ってから守の目は更に厳しくなったみたいだった。無機物も許容範囲なのかと呆れ顔されたのを覚えている。
はぁ、これじゃあ認めてくれるのはいつになるやら。
キッド「よし、起動成功!これで・・・え、どうしたの?ちょっと待ってよ!っ皆逃げて!」
何事かと思えば巨大ロボの手が私達に向かって振り下ろされる。キッドの呼びかけによって私達はぎりぎり避けることができた。
そしてゆっくり起き上がった巨大ロボの目は、赤く光ったのだった。
青「暴走!?どうして暴走なんか。突風があたったからじゃありませんよね?」
ピンク「えっ私のせい!?」
キッド「違うよ。彼、封印されてたのをすごく怒ってるんだ。」
赤「怒ってる?もしかしてあの巨大ロボには、心があるの?」
キッド「・・・うん、そうなんだ。彼、物扱いされるのが嫌って理由でどうも製作者と上手くいかなくて最終的には暴れだしちゃって。」
それでも復活させたのは、彼が本当は良いロボでその力が必要になると思ったからなんだとか。
巨大ロボの力は、今暴れていることでの被害を見ればよくわかった。
だけど世界平和のために作られたと聞かされていたその巨大ロボの暴動のありさまは、とても切なく思えた。
青「しかし、このままでは町にまで被害が及びます。どうにかして止めないと。」
赤「説得が通じるといいんだけど、そうじゃなきゃ力で押さえつけるしかないね。イシュピンクは嫌だろうけど。」
ピンク「ううん、私もその作戦に賛成。行くよ、二人とも。」
私の言葉に意外そうにする二人を気にせず、一人先に飛び出した。たしかに、力で解決しようとするのは私らしくないかもしれない。
だけどね、私も怒ってるの。目の前で巨大ロボのしでかしていることに。
赤「なぁ、落ち着いてくれ!君を封印した奴らはここにいない、これ以上暴れるつもりなら力づくで止めるよ!」
聞えているのか、いないのか。どんなに話しかけても巨大ロボは相変わらず攻撃を続ける。
仕方なくブルーが足元を凍らせたりレッドが炎の拳でパンチをしてみたりする。私も応戦した。
それでもさすがと言うべきか、なんとか対抗しては地面を踏み荒らしたり木々を投げ倒したりしながら暴れ続ける。
その様子を見てもうキレた私は突風を利用して巨大ロボの顔を思い切り蹴って怒鳴りつけた。
ピンク「いい加減にしなさい!木だってあなたと同じで生きてるの。物扱いされたくないなら自然を破壊したりなんてしないで!」
青「・・・なるほど。それでやけに気合が入ってたんですね。ははっ、彼女らしい。」
何がおかしい。ムッとしている私を見ながら巨大ロボは目の光を点滅させて、ゆっくりと動きを止めてくれた。
さて、これからどうしたものかというときだ。大きな何かが目の前に現われた。
ピンク「何あれ!スライムっぽいけど、まさか。」
キッド「この間集団で襲ってきた、スライズだよ!気づかれたのか。皆気をつけて!」
赤「合体して巨大化するとはね。同じ戦法じゃ芸が無いってやつか、いいね!良い勝負になりそうだ。」
意気込むレッドと一緒に倒しにいく。あれは本体じゃないってキッドに聞いたしね。謝りながらの攻撃ではあるけど。
でも、敵は集合体だからか何度攻撃しても修復していくからきりがない。何体集まってるのこれ!
そうこうしているうちに、キッドが捕まって中に取り込まれようとしていた。慌てて掴んだ私も、引きずられる。
その直前、大きな音とともに敵の体が散って消えた。何が起きたのかとあたりを見渡した私の後ろには、巨大ロボがいた。
ピンク「あなたが、助けてくれたの?ありがとう!」
赤「すごかったよ今の!一気に巨大なスライズやっつけちゃってさ!やっぱり強いんだね巨大ロボって!」
青「ピンクが危険だったから助けたんでしょうね。・・・ねぇ、君はやはり人でなくロボットが先ほどのような危険な目にあったとしても命を投げ出せるんですか?人間の命の方が重いと僕は思うのですが。」
ピンク「突然何?重さなんて関係ないよ。命はどれも大切だから、私は比べたりなんてしたくない。」
青「そうですか。そういう考えが、平和な世界には必要なんでしょうね。せいぜい、無茶はしないでくださいよ。」
そう言ってブルーは興奮しているレッドを落ち着かせに行った。え、今のって。ちょっとは認めてくれたってこと!?だったら嬉しいな。
結局この後どうなったかというと、私が頼むのならという形で巨大ロボットは仲間になった。気恥ずかしい理由だが嬉しい。
けれど、私達の町には巨大ロボがいられるほど広い空間が無い。つまり結局放置になる訳で。巨大ロボは拗ねてどこかに飛んでいってしまった。
でも仲間をやめたんじゃないっぽいし、いつか必要なときには助けてくれるだろうとキッドは言った。本当に素直じゃないみたいだけど、もっと仲良くなれたらいいな。
?「イシュピンク、ミコト・・・か。」
離れた場所にたたずむ謎の黒い影の男。仮面をしたその男性は、小さなスライズをつれてそんな私達を見つめていた。
アシスト「なんだ、アイツラにとって巨大ロボはただのお荷物同然ってこと?だから敵になったら放っておくことにしたのか。」
シドウ「そうだ。あの巨体で町を壊さずに戦闘は不可能だからな。ところで、何故そんな包帯をいつまでもつけている?」
アシスト「べ、別にいいでしょ!とにかく、ボクらはあのバッチさえ手に入れればいいんだよね?了解了解!!」
慌ててその場を去るアシスト。後姿を見ながら、相変わらず子供だなとシドウはため息をつくのだった。
ロボットさん、大丈夫かなぁ。自分のことを心配しろって?たしかにあの時、誰かに見られてたような。
だけど、私は彼らの命も守りたい。仲間になれないのかな?
次回、揺るぎない私の第4話「救いのヒーロー」
誰かを救ったり、戦いを止めたいと思うから