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再会  作者: 吉川明人
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初見


 順崇と仁狼が通っていた高校の校門前に、ほかの高校の制服を着た女の子が一人でたたずんでいたが、誰一人として彼女に興味を示す者はいない。

 彼女は一切の気配を消していた。

 直感で順崇は悟った。この子は仁狼に会いにきたと。

 彼女から出される気配が仁狼に対し強い気を帯びているため、自分にはまだ注意は向けられていない。

 彼も気配を消す。というより周囲の気配に溶け込んだ。会うと言えば聞こえはいいが、彼女は仁狼と親交を深めようと思っているわけではなさそうだ。

 中学のあの時以来なくなったものの、それ以前は常人離れした仁狼の強さを聞きつけ、勝負を挑む者が時々現れていた。

 だが、仁狼の力を見抜くこともできない者はあっさり倒され、ある程度のレベルの者は闘う前に戦意をなくして帰るか、油断せず挑みかかってくる者でも彼の圧倒的な強さの前に完膚なきまでに倒された。

 以前は『天凪に勝てばこの地域を締められる』などと勝手なウワサのため、突然呼び止められることさえあった。


 仁狼には悪いが、順崇は違う意味で彼のケンカには興味があった。

 格闘を学ぶ者として、仁狼の基礎体力もさることながら、筋力、反射神経、動態速度、柔軟性。どれをとっても常識が通用しない自己流のいきなりで突発的な力技に何度も驚かされたのだ。

 格闘技の奥深さを知れば知るほど、絶対にすることができない、逆に言えばできなくなってしまうとんでもない彼の闘い方を中学以来、知る機会がなくなったことを、残念に感じていることは秘密にしている。

 しかし今になってその仁狼に勝負を挑もうとしている女の子。南寛成高校の制服は着ているものの中学……いや、小学生でも通じるような身長と体格に順崇は少し戸惑った。

 仁狼の身長は178センチ、体重約60キロ。無駄な脂肪がないため少しやせ型とはいえ、体格に差し支えはない。対して女の子は140センチにまだ足りない身長で、体重差20キロ以上は間違いない。

 しかし小柄で華奢な彼女だが、間違いなく相当な使い手だ。そのレベルは気配の消し方からも充分うかがえる。これほどの使い手になるてめに、いったいどれほどの修行を積んだことだろう。

 仁狼が彼女に気づいている様子はないが、彼ともう一人、仁狼と同じく親友の神流原鈴乃は間違いなく気づいていない。彼女は格闘技に関しては何も知らない。

 知識はあるかもしれないが、実戦はまったく駄目だ。生活には支障ないものの、運動能力が低い。

 あまりの低さに驚かされるが、代わりに知能面が圧倒的に高い。知能指数は200以上あり、成績は常にトップ。しかし、彼女は決してそれを自慢したり鼻にかけたりすることはなく、指摘されると恥ずかしがってまっ赤になる。

 この極端な二人と順崇が知り合ったのは、幼稚園の時だった。


 仁狼と鈴乃は、たがいの母親が同じ病院の同室で知り合い、退院後、新規に造成された住宅地に同じ日に引っ越してきて、家も二軒隣ということもあり、生まれた時から家族ぐるみで育てられた。

 他人からはよく勘違いされるが、本人どうしは兄妹としての感覚しかない。

 順崇は、当時から他の園児より大きかったが、おとなしいことが分かると他の者からいじめられ始めた。格闘技は習い始めていたが、師範である祖父からケンカはならんと厳命され、何をされても黙って堪えたため、いっそう標的となってしまった。


 ある日、いつものように園児からいじめを受けていた時のこと。何人かが拾ってきた棒切れを持ち、そのうちの一人は犬のフンを先につけ、彼に向けて突き出した。

 さすがの順崇もこれには閉口した。

 素手ならいい。武器も仕方ない。

 しかし、犬のフンは……。

 これ以上ただ堪えることは、相手にとっても良くないことかもしれない。どこかで一度、思い知る必要があるのではないか?

 そう決心した時だった。

「コラァ! おまえら何やってるんだ!」

 叫び声とともに、誰かが間に割り込んできた。

「あ! コイツ天凪だ」

「お前違う組だろ、出てくるな」

 順崇を囲んでいた園児たちが、うろたえる。

「こいつ一か月もサボっていたやつだぜ、みんなでやっちまおう」

「サボッてたんじゃねぇ!」

「コイツ!」

 天凪と呼ばれた者は、まっ先に犬のフンの棒を持つ者の前に踏み込み、突き出された棒をギリギリでかわして棒を奪い、突き返す。

 順崇だけにはその動きを追うことができた。

「うわっ!」

 突き返された相手は何が起こったのか理解できず、驚いて尻もちをつく。

 周りにいた者も棒を振り上げる。周囲を見回した仁狼は、フンのついた棒を遠くに投げ捨て、一番体格のいい者に向かって踏み込む。

 振り降ろされた棒は仁狼の左肩に当り大きな音とともに折れたが、ひるむ様子もなくそのまま左手で胸ぐらをつかみ、突き飛ばし、転ぶところを確認せず次の相手に振り返る。

 次の相手は棒を打ち降ろすヒマもなく、最初の者と同じように突き飛ばされる。

 順崇だけが理解していた。

 仁狼は、ただ突き飛ばしているのではない。

 胸ぐらをつかんで相手を少し持ち上げて踏ん張れないようにして、頭から転ばないように注意しつつ放り投げている……それも片手で。

 彼は強い。しかもただ強いだけでなく、相手のことを気づかっている。

 順崇は初めて会った仁狼に驚嘆した。


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