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再会  作者: 吉川明人
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サツ


 その駅なら電車で1時間ていどの距離だ。

 彼女はメールの日付をメモし、翌日、学校が終わってからすぐに駅へと走った。

 目的の駅の駅員は、当然ながら彼女の問いには答えられないと拒否した。個人情報の漏洩にも程がある。

 そこで渓華は、自分はその時自殺をはかった女性の妹で、今度姉に子どもが生まれるため、ぜひその人と同じ名前を付けたがっている。今姉は入院しているため代わりに自分が訪ねてきた。という話を涙目で訴えた。

「同じ名前ねえ」

 駅員は微妙な表情を浮かべる。

「ふう。連絡先や住所は教えられないけれど、名前だけだよ」

 と言い残し、奥へ引っ込んで一枚のメモを手に戻ってくる。

『天凪仁狼』そう書いてある。

「えっ……と。なんて読めば……」

「本当に付けるかどうかは、そのお姉さん夫婦に任せるけど、本人の判断や責任のないところで勝手に付けられた名前は一生子どもが引っ張っていかなくなるからね。今なら高校生くらいなんだろうけど」

 そう言いながら漢字に『あまなぎ ひとつて』と書いてくれる。ルビをふられてもまだ仁狼ひとつての読み方はウソなんじゃないかと疑った。


 名前と駅員がうっかり漏らしたおおよその年齢が分ってしまうと、彼を見つけるのは意外と簡単だった。この駅を利用する高校生の数人に声をかけたところ、4人目で「あ、知ってる」と答えがあった。

「何なに? あいつに何か用なの? あなたそれ南寛成みなみかんなり高の制服よね。まさかわざわざ会いにきたとか? あー残念だけどダメよ。あいつには幼なじみっていう超強力な属性があるから」

「ぞ、く……せい? いえ、会いに来たというより、今日は敵……確認のようなもので」

「敵を確認しに来るなんてなかなかやるわね。ま、私はダメだったけど頑張って。少しくらいあいつのことは知ってるから。

 私、浜柄はまつか五十海いずみっていうの。ねっ、メアド交換しておこ」

 大きく勘違いされながらも、渓華はスマホを取り出した。

 五十海から聞いたところによると、天凪は彼女と同じ東弥栄高校の一年上で3年生。だいたい毎日、身長2メートル近い細目の男子と、例の属性?の女子生徒と一緒にいるらしい。今日は天凪が掃除当番のため、まだ帰っていないだろうということ。

 五十海には礼を言って別れ、気配を断って校門付近で見張っていると、ウワサ通り他の生徒より頭二つは大きい細目の男子と、少し気の強そうな顔をしているものの特に強いとは感じられない、ごく普通の生徒が一緒に出てきた。

 そして多分、隣にいるあの女生徒が例の幼なじみだろう。さりげなく会話を聞いていると、女生徒がその生徒を『ひとつてちゃん』と呼んでいる。珍しい名前なので間違いない。

 でも……。

 彼から感じるこの気配。このプレッシャー程度ではとてもまともに闘えるとは思えない。ウワサは、やはりウワサにすぎなかったのか……。

 落胆して帰ろうと三人とすれ違った時、ハンマーで殴られたかのような強烈な『サツ』の一撃が天凪から放たれた。

 一般的には『気』や『勁』と呼ばれ、彼女の使う武術ではサツと呼んでいるものだったが、あまりの凄まじさに金縛りで動けなくなり、ようやくそのサツが遠くへ去った時は、三人の姿はもう見えなくなっていた。


 ウワサはただのウワサ……と思い、本気で信じていなかったことを心の底から後悔した。万が一、さっき軽率に勝負を申し出ていれば、完膚なきまでにやられていたのは自分の方であった……。

 上には上がいる。

 その時感じたサツを想定して、日の目を惜しんで鍛えに鍛えた。あのサツが恐怖として感じられなくなるまでに一か月の日数を費やし、修行中に少なくとも二度死にかけた。

 それでも生き延びることができたのは、このまま死ぬと彼と闘うことができないという執念が一瞬の生死を分けたと思っている。

 そして再び校門前で彼を待った。何事もなかったかのように、会話しながら歩いてくる。一か月間決して忘れられなかった顔だ。この日はもう一人の女の子はいない。

 気圧される前に、彼女の方からプレッシャーを与えるため、二人の前に立ちふさがった。


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