威力
「ククク……まあ、よい。キサマたちは他の虫ケラどもと違い、もっとワシを愉しませてくれるだろう」
レイネイはゆっくりと構える。この二人の闘い方は二階から充分観察させてもらった。
もちろんタイシエがエンギウに何をやったのかも見ていたが、特に驚くこともない。タイシエの性格上いずれやるだろうと予測していた。奴にだけはいつも注意していたのだ。ワシが不意を突かれることはない。
不敵に笑いながらレイネイは指から蒂鏨を取り外して構える。
レイネイも星に伝わる武術を修得していた。それはカウガイが使った靫弩ではない。
彼はもまた、歴史の影に覆い隠された武術の継承者であり、もはやそれを引き継ぐだけの才能を持つ者がおらず、消えゆく運命にある『胼彎』の使い手であった。
「二匹一緒でも構わぬ」
はったりではない。レイネイにとってはカウガイが不動の地位を誇っていた靫弩でさえ児戯に等しいと思っていたのだ。
順崇が先に動いた。相手の力を身極めるなら、体格の近い自分が適している。しかし、そのどれもがやすやすと受けられる。
……そうだ、分かるはずだ。
ワシとキサマの持つ『波動』の大きさの違いが。初めの頃の波動ならまだしも、ケウナエ、ラオノイ、タイシエを倒した今はかなり衰えている。勝負をあせったために、波動も必要以上に消費していることは分かっているのだ……。
順崇の不利を見て渓華が怪物の後ろに回り込む。挟み撃ちにするつもりだが、レイネイはその動きを察知していた。
腕の二本を順崇に、後の二本は渓華に振り分け、前後に曲がる膝が、己を挟む二人に対しての同時攻撃を可能にしている。
順崇が動きを変えた。これまでのまったく無駄のない動きから不思議な無駄のある動き。
レイネイに観察されていた間に見せていたこれまでの動きは、瑞帋流の歴史が積み重ねてきた完全に無駄を省いた動きだったが、それによって一つの動作から何手先までも読まれてしまい、逆に流派として首を締めていた動きであったものを、順崇がその才によって生みだした新しい瑞帋流の動きだ。
レイネイに一発が入る。
「ククク、そうでなくては、面白くない」
それでもひるむ様子は見せず、むしろ当てられたことを愉しんでさえいる。
後方の渓華もまた動きを変えた。基本的に鐔瓊流の技には違いないが、突発的な力技が挟み込まれる。仁狼から学び、応用して取り込んだ技。
しなやかな女性的な動きの中に突然現れる男性的な動きが、どちらの技をも引き立てる。二人の動きの変化が徐々にレイネイを追い詰め始める。
だが、レイネイは強者であった。相手の変化に合わせて彼の動きも変わる。
これまで手加減していたのをやめ、本気を出すことにしたのだ。ガルアテ以来のことだ。さらに、少しずつ移動し、獲物の死体の山を背にする。
……こうなれば、物理的に攻撃しづらくなる上、常に同族の死骸の山が視野に入り、精神的にも敵に集中し続けることはできまい……それにちっぽけな方の技は、ほぼ封じることができる。
獲物から流れ出た体液が足元を滑りやすく、粘り着かせるために、あの動きの真価は発揮できまい。
基本的にどの星でも同族の死体の体液に触れることは毛嫌いする傾向があるのだからな。事実ちっぽけな方は、あの動きをやめて立ち技中心の攻撃に変わった。
レイネイは自分の波動と相手から感じる波動を比べてみる。
……ふむ。粘り勝ちはできそうだが、それもつまらぬ。ならば少し愉しませてもらおう。
「ククク……カカカ……」
二人がわずかに間合いを取った時、レイネイはいきなり笑いだし、二人は思わず手を止める。
「カカカ……キサマたち、なかなかやるぞ。ワシも久しぶりに全力を出したくなった」
そう言って両腕に装着していた火器らしき武器を外し、投げ捨てた。
「あんな物でも重くてジャマになるのでな」レイネイは準備体操のように腕を振る。
「さて、これでよし。まっ向勝負といこうか」
それは確かに正々堂々とした態度に見えた。しかし順崇には、相手のサツにそれに見合っているものが感じられない。
確かにこれほど近接した闘いでは、重く感じられるかもしれないが、だからと言って今の行動に結びつくほどの何かをふりきったサツも、まだ隠してあるサツを開放しようとしている素振りもない。
……嫌な予感がする。順崇が躊躇していると、渓華が相手に仕掛けた。
玉のように回転しながら、直前で跳ね頭上からの蹴り。しかし、相手は少し頭をそらせただけで動こうとしない。
あのままでは肩に直撃する。それがどれほどの威力を持っているかは、相手も充分分かっているはずだ。
「待て!!」
身体が先に動いていた。叫び声とともに渓華とレイネイの間に無理やり順崇が割り込む。彼にとって生まれて初めての叫びだった。しかし、その時すでに渓華の脚はレイネイの肩に触れる直前だ。空中に舞う彼女に止める術はない。
だからこそ順崇は二人の間に入り、交差させた腕で渓華の蹴りを受けた。
鬼の渓華の必殺の蹴り。まともに受ければ腕の骨が粉砕することは彼自身が一番よく分かっている。
それだけならまだしも、寸断されるかもしれない。分かっていたが、そうするしかなかった。




