獲物
……なぜこんな攻撃が可能なのか?
すでに靫弩の世界に敵はなく、武術演習に飽き飽きし、この非合法の狩りに参加して思う存分実戦として腕をふるうことに満足していた。
これまで、どの星の獲物さえ己にかなわなかった。しかし、両腕を伸ばしたところでまだ己の身長に足りぬちっぽけな敵の攻撃が、いくら防いでも、攻撃しても、ボールのように弾みながら足元だけでなく、腹、胸、顔面、頭上を含めあらゆる方向から限りなく襲いかかってくる。
プライドを捨てて武器を使えば簡単だろうが、使うヒマを与えてくれない。
腕が痺れ、気づかないうちにガードが下がり、容赦ない攻撃が顔面に連続して入る。眼前がまっ白になってどこに敵がいるのかも分からない。倒れたことさえ分からなかった。
タイシエはエンギウとともに、獲物たちの唯一の希望である逃げ場所に立ちふさがっていた。数10匹は逃したものの、まだ会場内には大多数の獲物が残されている。
「……危ないところだったな。何者だあの獲物」
「分からぬが、どうやって絢爛を壊したのか」
エンギウが首をかしげる。
今回持ってきた絢爛に出力調整はしていない。識別信号発信装置を持っていなければ、防護服を着ていてさえ彼ら自身も獲物と同じ目に合う軍事用だ。
そんなことを話す彼らに、獲物は次々押し寄せる。先ほどの狂奔した動きではなかった。
『この先は安全だ』
『ここを抜ければ生きられる』
確かに狂奔ではない。ただし、すでにまっとうな神経を持っていると言える者は誰もいない。
先に逃げ出した者も、これから逃げ出せるかもしれない者も、今後まともな社会生活が送れるかどうかは疑問である。
「……しかし、これはこれでナカナカ面白くもあるな。逃げ惑う獲物もいいが、簡単すぎてつまらない時もある」
エンギウがタイシエに話しかけた時、獲量はすでに500近い数値を示していた。
「だが、こう多くては面倒だ。次にこの趣向を楽しむ時は数の少ない時にしよう」
「それは言えるな。どうだ、面倒ならいっそ武器を使って数を減らすか? パニックとはいえ、武器禁止の状態ではないだろう」
「そうだな、そうするか」
エンギウが腕に装着してある『細煉』を獲物の群れに向ける。
お気に入りの絢爛と同じく、レーザー発射タイプの携帯型の物だ。細煉から光線が発射されると、エンギウの周りにいた人間の形をした獲物はバラバラと散らばっていく。
血は一滴も出ないが、灼かれて蒸発する肉の臭いが周囲をむせ返る悪臭に変える。
……クククク。エンギウは笑いをこらえながら、次々と細煉をあわれな獲物たちに向ける。
タイシエは『軋轢』の安全装置を解除する。
重力場の解明と同時に開発された最新型の武器であり、かなり高額だが、タイシエにとっては自慢の道具の一つにしかすぎない。
獲物の一匹に狙いをつけた。
……初発式だ。感謝しろ。
軽く指をひねった瞬間、一匹が踏み潰されたように床にへばりついた。
タイシエは続けざまに撃つ。
ある者は上半身が捻じ切れ、ある者は風船のように膨らんで破裂する。獲物の一角を浮かべて壁に叩きつけると、貼りついてオブジェと化し、吹き出す瀧のような血で赤い泉が現れる。
……ククク……これは、いい。新しい感触だ。
獲物は再びパニックに陥り、彼らからできるだけ遠くへと、背を向け逃げ出している。
「逃がすか」エンギウは群れを追い、細煉の光線を放つ。
「追うなエンギウ。もう武器の必要はない」
しかしエンギウは獲物を追うことをやめようとしない。その姿を見て、タイシエは思った。彼はエンギウを個人的に知っている。元の星でのエンギウはあまり存在を認められていない。
この狩りの時が一番いきいきして本当に楽しそうだ。あるいはこの狩りを楽しまんがために、普段はわざと死んだようにしているのかもしれない。
死んでいる? 奴は普段死んでいるのか? 死んでいる者がいなくなっても誰も気に止めないのではないか? ましてここは我々の星の法律は該当されない場所だ。
……獲物はこれまで数えきれないほど狩ってきた。しかし……。
……興奮していた。
幼い頃、釣りで初めて獲物がかかった時のように。
合法的な狩りで、初めて獲物を貫いた時のように。
そして、この非合法の狩りで初めて獲物を引き裂いた時のように……。
小さな塊になる瞬間、エンギウは彼に振り返り、自分に何が起きたか理解した。最期の表情は恐怖とも怒りとも哀れみとも取れる表情だった。
タイシエは興奮で全身が奮えた。
ためしに獲物を二、三匹潰したが、快感は得られない。
そうだ、他の……ラオノイやカウガイ、レイネイはどうした?
タイシエは仲間を探した。
新しい獲物を。




