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再会  作者: 吉川明人
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間合い


「ククク……逃すか……」

 ここで逃げられるなど、興醒めもいいところだ。こうなったら一匹でも多く狩ってやる。

 ラオノイが逃げ出して行く獲物の一匹に向けて伸ばした『鏖秉おうへい』を、腕ごと何者かがつかんで止めた。

 誰だ? 止めるな!

 振り返ると、ケウナエの身動きを奪っていた獲物がいた。一瞬驚いたが嬉しくなった。

 ……ケウナエなど運動不足のジジイを倒したところでいい気になるな。興醒めかと思ったが、この大物はいい土産になる……。

 ラオノイが四本の腕を広げ、威嚇のポーズを取った瞬間、獲物はラオノイに触れるほど踏み込んで来ていた。

 ……あ? 

 考える間もなかった。痛みさえ感じなかった。獲物の両掌が自分の胸に迫っていたことは分かったが、いつの間にか、固定された椅子をいくつも突き破り仰向けに倒れていることだけは理解できない。

 顔を上げる前に、何かが自分に向かって落下していることは分かっているが、動けない。顔面に感じた痺れとともに、全身の感覚が失われていく……。


「ラオノイ!」

 仲間内でも弟のように親しんでいたラオノイが、あの獲物にやられた。

 ……なんてことだ。

 若さに任せて多少の無茶はするが、あいつの力は決して劣っていない。でなければレイネイの主催するこのチームに入ることなどできないんだ。あの獲物は強い、嘗めてはかかれない。

 カウガイは獲物の群れを素手でなぎ払いながら『敵』に向かって進んだ。ラオノイの生命反応は消えていない、気を失っているだけだ。敵もそれ以上攻撃する気はなさそうだ。


 タイシエとエンギウは先ほど獲物が指した出口を阻むために、群れの先頭に追いつこうとしている。実際に追いつき、再び逃げ場を失った獲物が絶望の淵に追い込まれるのは時間の問題だ。

 ……それよりも、ラオノイを倒した敵は己が手で始末したい。

 その時、いきなり足が払われた。

 この星の獲物や物質など、簡単に引き裂き、打ち潰すことができるはずだったが、そこに隙が生じていた。

「あなたは私が相手になります!」

 素早く受け身を取り、立ち上がるカウガイの前に獲物が立ちはだかる。オンデアを倒した獲物、いや、敵だ。言葉は理解できないが、己と闘おうとしていることは分かる。

 ……よかろう、相手になってやる。

 カウガイは油断なく構える。彼は惑星最強の伝統武術である『靫弩ゆきど』の最強の使い手だ。武器は一切使わない。

 渓華には初めて見る構え、四本の腕で闘う相手の動きは想像もつかない。

 二人が間合いを取る。カウガイは順崇なみの身長があり、たがいの攻撃有効範囲は相反している。

 カウガイが先に動いた。人間ならば軽いジャブ程度の牽制だが、一発ずつが必殺の威力を持っている。しかも攻撃する二本の腕と、防御する残りの腕とを使い分けている。

 渓華はしばらく守りに徹することにした。怪物の残り二体は観客の方に、一体は自分が。残りの一体は必ず順崇がなんとかしてくれる。

 なんとかできなくて、二体あるいは四体に囲まれることになっても、その時はもう構わない。順崇がいなくなっているということだから。

 初めて見た武術だが、武術として完成されていることで逆にカウガイの動きが読め始めた。

 前後どちらにも曲がる膝が厄介だが注意すればなんとかなる。

 不用意に……渓華はカウガイとの間を詰める。まだ渓華の攻撃範囲ではないが、カウガイにすれば絶好の距離だ。

 ……どうした、もう終りか? 

 それでも油断せずカウガイは蹴りを放つ。

 その股下に渓華は頭から飛び込んだ。両手を床につき、真上にあるカウガイの股間に真下から垂直に突き上げる蹴り。

 人間に構造が似ている以上、弱点もそれほど変わらないはず。そう読んでの蹴りだった。

 読みの半分はあたった。相手はサポーターをつけている。苦悶の表情らしきものは浮かべたが悶絶はしていない。

 しかし、いっときの隙はできた。

 渓華にとって充分な時間。

 そして相手に触れるほどの間合い。

 この間合いこそ彼女にとって最も有利で、リーチの長いカウガイの最も不利な距離。

 こうなれば、もはや鐔瓊流は敵を逃さない。



 レイネイは二階席に座り、眼下で起こっている光景を眺め、楽しんでいた。

 ……あの二匹が生きていたのなら大丈夫だ。

 タイシエやエンギウでは歯が立たない。カウガイならばどうか分からないが、どこかに隙が生じれば、まあ、だめだろう。

 ……ほう、やはりだめか。ちっぽけな奴め、いきなりあんな攻撃をするとは。

 だがレイネイが驚くのはこれからだった。

 ……なんだ!? あの動きは? 

 決して止ることのない動き。

 カウガイの四本の腕すべてを使ってさえ防ぎきれない連続攻撃。

 脚が、拳が、肘が、膝が。あらゆる攻撃がカウガイを圧倒している。

 ……玉……か?

 レイネイの大きく見開いた目が、渓華から離せない。それは円の動きどころではない。全身のあらゆる部分を軸にして、回転しながら相手に襲いかかる全方向に対して攻撃することができる玉の動きだ。

 身体の柔軟性と体重の軽さ、安定性を保つための小柄な体格。それらを使いこなすサツと筋力と才能。すべての要素がなければ修得できない、これこそが鐔瓊流の真髄。

 今の彼女は小指一本で三メートル落下しても体重を支えることができ、また、飛び上がることもできる。

 これこそが、渓華がいなければ消えていた武術。

 逃がしませんよ。渓華は思った。

 この身長差は一番よく知っているんです。あなたで腕四本なら、順崇さんは八本あってもいいくらいです。それに体力勝負と突発的な攻撃は仁狼さんで慣れているんですから。

 カウガイは徐々に防ぎきれなくなる攻撃に恐怖を感じはじめる。


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