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再会  作者: 吉川明人
15/28

興奮


『やめなさい!』

 喧騒の中でレイネイの翻訳器はその叫び声を拾った。獲物が泣き叫びながら発する『やめろ』とは明らかに語調が違う。

 かつて一度だけその語調を聞き、その時は腹立たしく感じたが、後に酒を飲みながらの回想の中では意外に気に入ってしまった語調であった。だからこそ聞き取れたのかもしれない。

 首をめぐらせ、語調を発したものを見た時、あの時のイメージが重なる。

 ケウナエを羽交い締めにしている獲物の一匹と、ちっぽけなもう一匹の獲物。ちっぽけな方は別にしてケウナエを押さえ込んでいる獲物。かつて仲間四人を返り討ちにしたガルアテのイメージだった。

「みんな待て。新しい趣向が始まるぞ」

 交聴で伝えると仲間は手を休め、彼の指す方向を見る。それは、かつてレイネイ以外誰も見たことのない光景だった。

 獲物に狩られている仲間?

 ラオノイはポカンとしている。

「あなたたちがこんなことをする理由は分かりませんが、やめなさい!」

 ちっぽけな獲物がまた、あの語調で叫んだ。

「なんだ? あいつは何を言っている?」仲間が次々レイネイに尋ねる。

 基本的に狩りには獲物のことなど知る必要はない。だいいち面倒だ。それが一般的な考え方だ。

 しかし、レイネイだけは狩る獲物のことを詳しく調べ、言語翻訳器まで用意する。

 ……おまえたちには理解できまい。己が手で始末する相手を知れば知るほどに、この狩りの奥深さが増すのだ。

 獲物たちが必死で築き上げたものを一瞬にして奪い取る快感もさることながら、その時発する言葉にも獲物の性癖が見える。

 レイネイは前回の最後に残った男を思い出し、ニヤリと笑う。

「ケウナエ、何を遊んでいる」

 オンデアが惨めなケウナエをからかった。

「遊んでいるのではない。どうなっている」

 苦しそうなケウナエの返事に、彼らはいつもと違う事態に戸惑った。

「レイネイ、この星の獲物は我々にはかなわなかったはずじゃなかったのか?」カウガイが怪訝な声で尋ねる。

「それはお前自身、確認済みだろう。奴らは特別だ、ちっぽけな方にも油断するな」

 怪物たちの動きの変化にわずかな人々が気づき、何人かがそれを見ることができた。

 これまで自分たちを虫ケラのように殺していた怪物の一体を誰かが押さえ込み、その前に小柄な、まだ少女にも見える女性が怪物の一体に向かって話をしている。

「私の言葉は理解できているはずです!」

「ケウナエ。わしのハンティングチームに入る時の同意書は覚えているな?」

 渓華の言葉を無視しながらレイネイはケウナエに話しかける。その言葉に、ケウナエが顔色を変えた。

「ま、待てレイネイ。見捨てる気か?」

「見捨てるだと? わしは待っているのだ。お前が自分でどうにかすることを」

 ハンティング同行同意書には、はっきりと明記されていた。

『狩りの最中、過失による事故あるいは獲物の反撃により、身体に障害や傷害を負うこと及び死亡した場合でも一切の責任は本人のものとする。

 またメンバー全体の行動に危険をもたらす可能性がある場合、自主的あるいは強制的に排斥・破棄されるものとする』

 狩りをする者には、一般には知能の低い動物相手の合法的な狩りをする者にはごく当たり前のように記されている一文だが、非合法のレイネイのようなチームにも同じことが記されている。

 しかし、刺激を求めてやってくる者は誰もそんなものを見ることはない。それ以前に、見たところで自分だけはそんなことはあり得ないと考えている者しか参加しようとしないのがこの狩りだ。

 だがガルアテの一件以来、レイネイはその文面だけは太字で強調し、さらに口頭でもう一度確認することにしている。

「う、動けないんだ。助けてくれオンデア」

 いつもはケンカ仲間のオンデアの交聴にケウナエの悲鳴が聞こえてきた。

「レイネイ何をしている。ケウナエを助けてやらないのか?」

「助けたいのならお前が助けてやればいいだろうオンデア。同意書のことさえ忘れていなければな」

「レイネイ、キサマ!」

 一瞬頭に血が昇ったオンデアだったが、すぐあることに気がついた。

 ……なるほど、ここでケウナエの奴に恩を売っておくのも悪くない。

 ちっぽけな方は無視するとして、ケウナエを押さえている大物は、確かにそれだけの力があるかもしれないが、今はケウナエを押さえているだけで両手がふさがっている。つまり俺に対し攻撃の方法がない、ということだ。

 少しでも力を弛めればケウナエが腕を払い奴を始末する。しばらくの酒代が浮いたと考えればいい。

「そうか、新しい趣向とはそういうことか。勘違いするところだったぞレイネイ」

 ククク……と笑いながらいうオンデアの言葉に、レイネイは何も答えない。

「せっかくの希望も、あっけなかったな」

 笑いながら、オンデアはケウナエの『救出』に向かった。

 仲間も……ケウナエさえもその言葉に、新しい趣向の意味を理解した。

 なるほど。こんな刺激もたまにはあってもいい。ひょっとするとレイネイが用意しておいたのかもしれない。味なことをする。

 さすがはこの非合法ハンティング組織の創始者、頂点と呼ばれるだけのことはある。

 誰もが初めての経験に固唾を飲んで興奮した。オンデアは頴鈎を振りかざし獲物に迫る。


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