現実
レイネイは獲物を狩る腕を休め、群れを眺めた。
獲物の数は軽く見積って4000匹。もう少し同族争いや自滅する獲物を増やしてもよかった。今はまだいいが、これだけの数だ。軽いスポーツどころか最後の二匹までにはノルマになりそうだ。
狩りのルールは『パニックになった獲物は飛び道具を使わず狩る』だが、今回は武器の使用を認めてもよかろう。愛用の超合金製の爪『蒂鏨』に飽きれば仲間に提案するか。しかし、それまで時間はたっぷりある。
会場は侵入前に物理的に空間を封鎖してあり、この星の文明レベルでは外から入ることはできない。中から外へ出ることはできるが……それもあり得ない。なぜならすべて狩るから。
入ることができるのは、このワシが出て行った後だけだ。あるいは死んだ時か。
「……ククク」
ガルアテのような奴がいればそれもあり得るが、残念だがこの星にそんな奴はいない。
「時々休まないと、明日から筋肉痛になるぞ」
「俺は大丈夫だ、しかしオンデアは歳だから二日は遅れて痛くなる」
口元の『交聴』で仲間に伝えるとケウナエの声が聞こえる。
「なんだと、それはお前のことだろう」
ジョークを交えながらの、いつもの狩りだった。
「今回は誰が一番数をこなしたかが、勝負になりそうだな」
「だったら一番若い俺様の勝ちだな」
「ぬかせラオノイ。熟練のワシを侮ってもらっては困るぞ」
「だったらレイネイ、勝負の賞品に明日のディナーを追加するかい」
「望むところだ」
仲間が一斉に大笑いする。
レイネイの前に怯えた獲物が押し出された。これで272匹。
『獲量』が一匹始末するごとに数値をきざんでいく。
体力のあるうちに少し派手にやるか、そのあと休んで回復し、また始めよう。
怯える獲物に向かって四本の腕でまとめて襲いかかる。数値が上がった。
いつもの虫ケラのような動きの中に、見慣れない動きをするものを最初に見つけたのはケウナエだった。
獲量は169を示し、まだ充分体力に余裕はあったものの、そろそろひと休みしようかと考えていた時だ。どの獲物も内側へと向かっている中で、一匹だけが自分に向かって進んでいる。
「……ククッ、ショックで気でも触れたか」
ケウナエは苦笑した。
好きにしてやる。群れの外に出たとたん、俺がすぐ楽にしてやろう。レイネイはラオノイにそそのかされ、勢い込んで獲物の数を増やしているが、いつまでも続けられるものではない。
一時的に数をこなし、早い段階で休憩を取るつもりだろう。
ケウナエが横目でレイネイを見つつ、獲量の数値が220を数えた時だった。
気の触れたであろう一匹が群れから飛び出した。今回の獲物の中では、かなり大物と言える体高を持っている。
レイネイほどではないが、カウガイなみの大きさだ。数ではレイネイにかなわないが、今回の大物賞はいただきだな。
気が触れているだけあって、獲物はまっすぐこちらに向かって走り寄り、無謀にも立ちふさがる。
「ククク……自分から飛び込んでくるとは」
ケウナエは血糊に鈍く光る『頴鈎』を振り上げる。腹を絶ち切っては、大物だったかどうか分からなくなる。口の悪いオンデアなら何匹分かをくっつけたなどと言うだろう。
だがそれは言わせない。胸部を貫くだけにとどめておけば原形は残る。獲物に向かって頴鈎を突き出したその時、ケウナエの身体が宙を舞った。
何が起こったのだ!?
確かに獲物の胸を貫いたと思った。
しかし切っ先が触れる瞬間獲物は消え、突然腹部に強烈な痛みを感じ自分の身体が宙に飛んでいる。
大物に気を取られていて、足元のザコのような獲物に気づかなかった。まるでスローモーションを見ているように、景色が流れているのを感じた。
床にしたたかに身体を打ちつけ、痛みを堪えながらも起き上がろうとした時、何者かにすべての腕と身体を押さえられ、身動き一つできない。わずかに見える相手の身体から、それは先ほどの大物の獲物であることは分かった。
「今すぐやめなさい!」
ケウナエの前に別の獲物が立ちはだかり、レイネイに向かって叫んでいる。大物とは違いザコの方はずいぶんと小物だ。こんなやつで数を稼ぐとエンギウにさえバカにされる。
だが、俺はこいつにやられたのか?
大物に押さえられ息が苦しい。
腹部に痺れるような痛みが走る。
まさか防護服越しの攻撃で痛みを感じるなど。衝撃吸収素材の効果が薄れたのだろうか? これを買った店に持って言って、文句の一つも言ってやろう。
ケウナエはま自らに起こった現実を理解していなかった。




